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ユーリから王城に呼び出されると聞いていたが、一向にその気配も無く魔法学校は冬季休暇に入っていた。
何だか肩透かしを食ったような気分でいたら、ソフィアがそれを防いでくれたのだとレヴィアスが教えてくれた。
話を聞いてソフィアから溢れ出る愛情を感じ感謝しかなかった。
ロザリアンヌも同じ様に胸に芽生え始めていた愛情を、ソフィアにうまく伝えられたらと思っていた。
だから去年はダンジョン攻略を急ぐあまりゆっくりする時間も無かったが、今年の冬季休暇は焦る事無くソフィアやアンナ等とも交流を図りながらのんびりしようと考えていた。
もっとも年末年始とは言っても前世の日本の様に特別な何かがある訳でなく、一年の終わりと始まりに感謝をするだけだ。
後は冬を過ごす為の準備期間とでもいうのだろうか、あれこれと備える物や買い替える物も多く買い物も大変だった。
去年はこれをソフィア一人にやらせていたのかとロザリアンヌはまたまた反省していた。
「師匠、他に何かありますか?」
新年を迎える準備の為に大掃除を始めていたソフィアに、ロザリアンヌは声を掛け指示を仰ぐ。
「そうだねぇ、錬金素材のチェックをして足りない物があれば補充してくれるかい」
ソフィアは自分が日々使う錬金素材の一覧表を作ってあり、その表に照らし合わせれば何がどれだけ必要かはすぐに分かった。
しかし補充方法を指定しない所を見ると、購入して来るのかダンジョンで手に入れるかはロザリアンヌに選ばせてくれるのだろう。
そう思うとゆっくり過ごそうと思っていた筈の気持ちが、ダンジョンへと傾いて行くのを抑えられなかった。
そして不意に思い付く。
最近は購入するのが当たり前になっていた薬草や毒消し草等を入手がてら、キラルとレヴィアスにも探検者登録をさせてしまおうと。
二人の探検者レベルを上げながらまたあれこれ素材を集められるし、記録上のロザリアンヌソロ討伐問題も解決されると。
「キラル、レヴィアス、二人には探検者登録して貰うわよ」
ロザリアンヌが意気込むとレヴィアスは冷たい視線を投げかけてくる。
「おまえは戸籍問題をどう考えているんだ?我ら精霊は擬人化できても戸籍は簡単には手に入らないのだぞ」
(やっぱりあったんだねこの世界にも戸籍って)
当然と言えば当然の話なのに、ロザリアンヌはどこか異世界あるあるでその辺はどうにでもなるのだろうと思い込んでいた。
ロザリアンヌの考えてもいなかった問題が発覚し、やはり諦めるしかないのかと思っていると「戸籍は作ってあるよ安心おし。私の弟子達なんだから当然だろう」ソフィアが平然と答えた。
そう言えばキラルはソフィアの新しい弟子という設定だったような気がするが、レヴィアスも同じくソフィアの弟子設定なのだと今理解した。
それにしてもいったいいつの間に、というかそんな問題までいち早く解決してくれていたんだと知り、ロザリアンヌはソフィアを尊敬の念で見詰める事しかできなかった。
「驚いたな。私でも考えていなかった」
レヴィアスもロザリアンヌと同じ思いだった様で、ソフィアをマジマジと見詰めていた。
しかしキラルは「師匠って凄いね。やっぱりロザリーのおばあちゃんだけあるよ~」とソフィアに抱き付く様にして喜び、照れくさそうなソフィアに「よしておくれ」と拒否されていた。
良かったのか悪かったのかは分からないが、これで二人とも探検者登録できると知り意気揚々と出かけた。
ちなみに戸籍上レヴィアスは24歳、キラルは15歳というその見た目に合わない年齢だったが、マリーは何も追及して来なかった。不思議だ。
そして何の問題も無くキラルもレヴィアスも探検者登録を済ますと、新鮮な気持ちで薬草ダンジョンから攻略をまた始める。
いやもう、攻略とは呼べない蹂躙劇の再開で、寧ろ素材採取の方が大変なくらいだった。
瞬く間にダンジョン攻略を進める二人に、マリーだけでなく探検者達も驚いていた。
今までダンジョンに入る時は認識阻害をしていたので、この二人が既にSランクダンジョンにも入っているなどと誰も思っていないのだから当然だった。
「素材採取がメインなのを忘れないで手伝ってよ~」
ロザリアンヌは素材採取にあまり興味を示さない二人に度々そう声を掛けていた。
「こんな弱い奴らのドロップ品やそこにある素材に価値があるとは思えんが?」
「錬金術で使えるの!何が必要になるかは分からないでしょう。一通り集めておきたいの」
ロザリアンヌの力説に納得がいかない様子のレヴィアスだったが、キラルは素直に「分かった、手伝うね」と従ってくれていた。
「そりゃぁ、良い素材で作ればそれだけ高品質の物が作れるのは確かだけど、高品質の物じゃ強すぎるって場合もあるの。それに持っていない物に限って必要になったりするものなのよ」
理論的にレヴィアスを説得できそうも無いと悟り、ロザリアンヌは私の経験の記憶で話をしていた。
するとレヴィアスは仕方ないと諦めてくれたのか、頭を振り溜息を吐いて素材採取を手伝い始めた。
「ありがとう、助かります。それに採取もみんなでやれば、それだけダンジョン攻略も速く進むでしょう」
「ああ、分かった分かった」
レヴィアスは投げやりな返事を投げかけてきたが、ロザリアンヌはレヴィアスが折れてくれた事がちょっと嬉しかった。
何だか少しはレヴィアスに認められた様な気がしたからだった。




