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ロザリアンヌの中に入った光の精霊はいまだに目覚めていないのか、ロザリアンヌの身体から姿を現す気配を見せなかった。
しかしゲームの中とは言え、一度は経験のあるロザリアンヌは何も心配はしていなかった。
とにかく今はロザリアンヌも光の精霊も、ステータスを上げ力をつける事が先決なのだと知っているからだ。
それにロザリアンヌのレベルを上げステータスを上げていく事で光の精霊も成長し、念願だったシャイニングスピアも使える様になるし、回復魔法だって使える様になる。
散々ゲームの中で使い慣れていた魔法が使える、それだけでロザリアンヌには十分すぎたし、あらかたのダンジョン踏破だって望めると知っている事で安心もできた。
アンナは泉のお礼にと、回復魔法の魔導書をくれた。
光魔法にも回復魔法があるのにと思いながらも、すぐに使える様になるヒールは保険になると考えて有難く受け取った。
それに焦って魔導書を購入しなくても良いのだと心にもだいぶ余裕ができていた。
寧ろそんな事よりも知りたい事と言うより、確認しなくてはならない事ができてロザリアンヌは忙しかった。
そうこの世界が本当にアンナのバッドエンディング後なのかどうかだ。
攻略対象者達の名前や身分はきっと変わっていないだろうから、その辺を調べてみれば確認出来る筈。
ロザリアンヌはそう結論付けて、アンナだけでなく祖母やマリー、顔馴染みのおじちゃんおばちゃん達にそれとなく色々と聞いて回っていた。
その結果間違いなくこの世界はアンナのバッドエンディング後だと言う事が確認できた。
王子は無事(?)婚約者と婚姻後次期王位を継ぐべく王太子として公務を果たしているし、近衛騎士候補は王太子の側近護衛騎士となっていて、賢者候補は魔法学院で講師として勤務し、英雄候補は騎士団の小隊長になっていた。
私はてっきり4人で探検家になりダンジョン踏破でも目指しているのかと思っていたが、考えてみたら奴らは学生の頃から自分の意志でダンジョンに入る事など殆どなかった。
お金で雇った探検者と一緒にダンジョンに入り、適当にパワーレベリングして終わりだった。
私にステータスを望んでいた割に、みんなその程度のお坊ちゃま達だったのだ。
学生の時から既に卒業後の地位が約束されていたんだろうなと、現実的に考えて今はどこか納得していた。
それにアンナが魔法学校退学から12年、奴らが卒業してから10年も経っている事が確認できた。
と言う事は、私は完全に【プリンセス・ロザリアンロード】のストーリーから解放されていると言う事だ。
初めからモブにもなっていなかったのだ。
しかし、精霊をその身に宿す事は貴重とされる事には今現在も変わりない。
まして光の精霊を宿したと知られたら、またぞろ聖女候補と騒がれる危険は否めない。
これからも光の精霊を宿した事は極秘にする。
ストーリーへの強制参加の心配は無くなっても、それだけは気を付けないといけないだろう。
ロザリアンヌは変わらずに慎重になる事を心がけようと新たに思う。
とは言っても光の精霊には早い所目覚めて貰いたいのも確かなので、ロザリアンヌは今までと変わらずレベルアップステータスアップを目指した。
毎日変わらずに、午前はダンジョンに入り素材の採取と魔物の討伐をし、午後は錬金術の鍛錬、そして偶にアンナの所へ立ち寄り一緒にお茶を飲む毎日を続けていた。
そして薬草ダンジョン第2階層のボス部屋にも挑み、隠し部屋の宝箱から、魔力量100%UPの付与された銀の腕輪を手に入れ、階層ボスのレアドロップ猛毒キノコも手に入れる。
そうして第2層ボス部屋の周回を終え、そして今日から第3層へと挑み始める事にした。
ここの階層はビッグペレットと言う鋭い前歯で噛みついて来る、小型犬ほどもあるウサギの様な魔物が出没する。
レベルの低い探検者にはそこそこの危険が伴うが、採取できるのは相変わらず薬草と毒消し草。
なので一般的には採取が目的なら第1階層か第2階層、そしてこの階層からはレベル上げが目的とされていた。
ビッグペレットは皮をドロップするが、防具に使う程の物でもなくギニーピッグと変わらない買取価格のため、探検者にはあまり人気は無いが、レアドロップのウサギのしっぽはキーホルダーなどに加工され、装飾品としての需要が高く喜ばれるのでそこそこの高値買取が見込まれる。
既に第2階層ではレベルが上がらなくなっていたロザリアンヌは、今日からまた気持ちも新たに第5層を目指しこの階層の攻略を始める事にした。
「本当なら魔法を覚えてからにしたかったんだけどな」
相手はその鋭い前歯で噛みついたり、ジャンプからの突撃や後ろ足キックなど攻撃も多彩なため、短剣でしか攻撃方法の無いロザリアンヌには少々不安があった。
しかし光の精霊を一日も早く目覚めさせるには、レベルを上げステータスを上げない事には話が進まない。
ロザリアンヌはやむなく第3階層に挑む事にした。
レベル的には何の問題も無いと分かっていても、やはり現実での初対面の魔物はどこか怖さを感じるのは仕方の無い事だろう。
ロザリアンヌは短剣を片手にビッグペレットに向き合う。
ビッグペレットは威嚇をする様にロザリアンヌをしばらく見つめていたが、力を溜めるかのような動作の後にロザリアンヌに向かってジャンプをしてきた。
しかし思った程の速度も無く、事前の溜め動作のお陰で警戒できたので、ジャンプでの突進は難なく躱す事ができた。
ロザリアンヌはそのままビッグペレットから視線を外す事無く、着地後を狙って短剣を突き立てる。
その一撃で姿を消すビッグペレット。
案外あっさりとした戦闘にロザリアンヌは肺に溜まった空気を一気に吐き出し、この階層も大丈夫そうだと少しだけ安心するのだった。




