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「騎士団があの手記を持ち帰っても隠蔽されてしまうだろう。しかし人の口に戸は立てられぬ、噂になって広まる。聖女に何があったか分からなかったのは残念だが、最終的にあの手記も私が預かる事にする。異存はないな?」
レヴィアスは結局初代教皇が残した手記も手に入れる気でいるらしい。
ロザリアンヌはではなぜ連判状と一緒にと考えて、もしかして今回の騒ぎを予測していたのかと思った。
そしてレヴィアスは頭の中でどれだけ先の事を見越しているのかとつくづくと感心していた。
「恐喝の様な方法で寄付を募るのは私としても思う所がありました。手記が公開され寄付が減ったとして、それで教会運営が立ち行かなくなるのでしたらそれは教会の不徳。私達はまた別の方法を考える事に致しましょう」
「当然だろう。それで潰れる様ならこの国に教会など必要ないと言う事だ。私達はもう行くが、おまえもこの騒ぎを上手く収めてくれ。何ならあの手記をおまえの手で公開しても構わないぞ」
「御心のままに」
教皇はまたもやレヴィアスに恭しくお辞儀をしていた。
レヴィアスもキラルも精霊であって神様では無いのにとロザリアンヌは不思議な感じがしたが、レヴィアスもキラルも当然の様に受け流していた。
結局レヴィアスは精霊の姿を顕現させる事無くこの騒ぎを終わらせる様なので、ロザリアンヌはこれ以上の騒ぎにならないのだとどこかホッとした気分になった。
ぶっちゃけ教会がどうなろうとロザリアンヌは興味も無かったが、騒ぎのとばっちりがキラルやレヴィアスに降りかかるのは望む所ではなかった。
それに聖女候補が教会に利用される事は無いと分かったのも収穫だった。
「行くぞ」
レヴィアスはおもむろに立ち上がりロザリアンヌとキラルを急かせた。
またまた慌ててレヴィアスの後を追うロザリアンヌとキラル。
教会に来てからずっとレヴィアスのペースで振り回されている様で、話の展開にロザリアンヌの思考が追い付いていなかった。
「次はどこへ行くの?」
大股で歩くレヴィアスに必死に付いて行くロザリアンヌは、足の長さの違いを恨みながら思わず声を掛ける。
「おまえはここへ何しに来たんだ、それすらも忘れたのか?」
レヴィアスは立ち止まり振り返ると呆れた様に溜息を吐いた。
「忘れてはいないけど・・・」
忘れた訳では無かったが、レヴィアスの行動はロザリアンヌの考えも付かない展開を見せるので確認しただけだった。
なのにまさか立ち止まってまで責められるとは思わず、ロザリアンヌは呆れるレヴィアスにたじろいでしまう。
「まあいい、ここから先は認識阻害で行くぞ」
「分かった!今度は聖女候補の所へ行くんだね」
キラルはロザリアンヌより先にレヴィアスの考えを見抜いたとばかりに嬉々として声を上げる。
「ああ、様子を見ておまえの力を分けてやらなくちゃならないからな。頼んだぞキラル」
「うん、任せて!!」
キラルは既にレヴィアスと阿吽の呼吸で意思の疎通ができている様だった。
少しばかりの疎外感を感じながらロザリアンヌは認識阻害で気配を消し、既に移動を始めている二人の後を追った。
そうしてたどり着いた部屋では声も無く泣き続ける聖女候補と、聖女候補を慰める様にする騎士と、騎士にしがみつく様に寄り添うアンジェリカちゃんが居た。
何処か見覚えがある騎士が【プリンセス・ロザリアンロード】で攻略対象の一人だったゼルファーだと思い出しロザリアンヌは驚く。
(こんな所に何で?)
もともと勇者候補だったゼルファーは困ってる女の子を放って置けない性質ではあったけど、もしかしてこれもイベントの一つかとロザリアンヌは考えていた。
そして聖女候補に目をやりロザリアンヌはもっと驚く物を見つける。
聖女候補の指に嵌められている銀の指輪には見覚えがあった。
薬草ダンジョンの1階層ボス部屋の隠し宝箱で手に入れた経験値3倍の指輪にそっくりだった。
ロザリアンヌは限界突破のスキルを手に入れた事で、ドロップ率UPの効果を纏めたアンクレットにその能力を移してしまったので、今は銀の指輪は嵌めてはいないがまったく同じ物に思えた。
(聖女候補がダンジョンで手に入れたって事?でもアンナは無理だったよ?)
アンナは【プリンセス・ロザリアンロード】でバッドエンドとはいえ主人公だった訳だから、ダンジョンで宝箱を見つけられてもおかしくはないと思っていた。
ロザリアンヌはもしかしたら宝箱は復活するかと考え、アンナが一人でボス部屋を攻略したら宝箱から貴重な能力を手に入れられないかと試して貰った事があった。
しかしアンナが一人でボス攻略をしても、隠し部屋が見つかる事も無ければ宝箱を見つける事もできなかった。
だから宝箱は復活しないと結論付けていた。
しかし聖女候補がもし隠し宝箱から経験値3倍の銀の指輪を手に入れたのだとしたら、やはり聖女候補は今現在の【プリンセス・ロザリアンロード】主人公と言う事になる。
そしてロザリアンヌが思っていた様に【プリンセス・ロザリアンロード】のパート2が始まっていたと言う事だ。
ロザリアンヌは事実を聖女候補に確かめたくて仕方なくなった。
『レヴィアス、聖女候補に確かめたい事があるの、認識阻害を解いても良い?』
暫くの間があってから『好きにしろ、だが私達は勝手にさせて貰うぞ』と返事があった。
ロザリアンヌは目立たぬように聖女候補達から見えない場所で認識阻害を解くと、部屋の入口へと移動し聖女候補へと声を掛けていた。




