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「キラル、頼みがある聞いてくれるか?」
レヴィアスがキラルの頭を撫でながらゆっくりと話す。
「うん、いいよ。僕にできる事なら何でもする」
レヴィアスに頼み事をされた事が嬉しかったのか、キラルはご機嫌に返事をしていた。
「この教会の地下にある結界を解いてくれないか」
「あれはかなり厳重そうだよ、ロザリーに力を借りないと無理かも」
ロザリアンヌはその結界の気配さえ感じていないのに、レヴィアスもキラルも見えない結界の話を進めているので興味を惹かれた。
「この教会の地下にそんな結界があるの?でも何で」
「余程大事な物を隠しているのか、それとも知られたくない物を隠しているのかだな。そもそも地下室の存在を知る者は限られている。その上初代聖女が作ったとされる結界侵入の為の魔道具を持たない者は入れないらしい。この私でも結界はどうしようもなかった」
ロザリアンヌはレヴィアスの説明にさらに興味を惹かれ聞かずには居られなくなった。
「レヴィアスは知る人の少ない地下室をどうして知ってるの?」
「この教会が作られた時はまだマスターと聖女に交流があったからな。私もマスターと何度かこの教会を訪れている」
ロザリアンヌは改めてレヴィアスがそんな時代から存在しているのだと実感していた。
「聖女様って大賢者様のパーティーメンバーだったんだね」
「だがマスターが濡れ衣を着せられると同時期に亡くなっている。私は誰かに毒殺されたと考えている。そうでも無ければあの聖女がそう簡単に亡くなる訳がない」
「まさかそんな恐ろしい事・・・」
ロザリアンヌは話が思わぬ方向に展開し信じられない事を聞いた気がして、何を言って良いか分からなくなった。
「マスターは闇の精霊である私を宿し、聖女は光の精霊を宿していた事でかなり親密な付き合いをしていた。それにこれは私の憶測だが、マスターを抹殺する計画に教会も手を貸している。多分その計画を聖女に知られたか邪魔になったかで聖女は殺されたのだろうと思っている」
淡々と話すレヴィアスの顔には何の表情も浮かんではいなかった。
そして憶測だと言いながら話すレヴィアスの言葉は、ロザリアンヌには真実の様に聞こえた。
「その後光の精霊は宿った聖女とともに生まれ変わりを繰り返し、以前の記憶を持たなくなったのは聖女の呪いだと考えている」
ロザリアンヌはまたまた新たな事実を聞き、驚くと言うより疑問を持つとともに信じれない思いを抱いた。
「聖女なのに呪いって・・・」
「精霊は宿主が亡くなっても次の宿主を探すか一人でも存在し続けるかは成長度合いによって自由にできる。たとえ新たに生まれ変わろうと以前の能力の記憶位は残る筈なのだ。そうでないと精霊はいつまでたっても王になれない。それが光の精霊に限って何度も生まれ変わりを繰り返し、記憶をまったく残さなくなったなどあの聖女が何かしたとしか考えられない」
「それって、教会に光の精霊を利用されない様にしたって事かな?」
「ああそうか、そう言う考え方もできるのか。だとしたら聖女の呪いではなく光の精霊の意志だったのかも知れないな」
レヴィアスは新たな見解に思考を沈めて行く様に腕を組み黙り込んでしまった。
ロザリアンヌはそんなレヴィアスに話しかけても良いものかと考えながら、気になった事を聞かずにはいられない思いを抱えていた。
「それで地下室の結界を解いていったいどうしようと言うの?」
話をするタイミングを見計らっていたロザリアンヌは、レヴィアスと目が合った瞬間に聞いていた。
「私はマスターの汚名をすすぐ証拠を探していた。あの地下室でそれを見つけたがこの際だ、派手に結界を解いてあの地下室の存在を世間に知らしめる。きっと当時の聖女に関する物も何か見つかるだろう」
「えっと、レヴィアスはその地下室には既に入ったって事?」
「ああ、魔道具は簡単に見つかった。ただ手に入れた証拠の使い方とタイミングを見計らっていた。しかしおまえは彼女達を助けたいのだろう?その為には教会の腐敗部分を見せつけるのが一番だとは思わないか?何ならキラルを顕現させ派手なパフォーマンスでもさせてみるか、教会関係者も腰を抜かすほど驚くだろうな」
「でもそれって上手く行けばって事だよね?上手く行く保証なんて無いのに大丈夫なの?」
「王家の諜報員が何で教会を見張っているのか分からないか?王家も教会が隠した物を手に入れたがっているんだ。それ程暴かれては困る何かがあるんだろうな。もっとも王家が探しているだろう物は既に私が手に入れている。王家の慌てる姿を思うだけで愉快だ。上手く行く行かないじゃない、今行動を起こす事で波紋は広がる。そしてタイミングを見て必ずや私がマスターの汚名をすすいでみせる。おまえもその手助けをしてくれるだろう?」
レヴィアスの瞳には静かな復讐の炎が灯っている様に見えた。
そして今まで寝る間も惜しんで活動していたのはこの為だったのかと心から納得した。
しかし大賢者様の汚名をすすぐのはロザリアンヌも望む所だが、レヴィアスに復讐心に囚われて欲しくはなかった。
大賢者様の事を思えば復讐を考える気持ちも分かるが、それよりももっと自由にレヴィアスの人生を歩んで欲しいとロザリアンヌは思った。
長くアンデッド化して苦しんだ分、その何倍も何十倍も楽しい思いをして欲しいと願った。
「勿論協力するけど、復讐の鬼になるのだけは止めてよね。私は鬼や悪魔とは仲間にはなれないわよ」
ロザリアンヌはレヴィアスの心を少しでも和らげようとお道化た調子で釘を刺した。
「レヴィアスは鬼じゃ無いよ、だって優しいもん」
今まで黙って話を聞いていたキラルが突然レヴィアスを庇う様に抱き付いた。
突然抱き付かれたレヴィアスは咄嗟に反応できずに固まったが、すぐにキラルの頭を撫で表情を和らげる。
場の空気は一気に和んだが、ロザリアンヌはレヴィアスに抱き付くキラルを見て、いったいいつの間にそんなに仲良くなったのだと不思議に思うのだった。




