71
ロザリアンヌは家に厳重に結界を張った。
店舗以外の場所はロザリアンヌ達しか入れない様に結界を張り、店が襲撃にあっても店舗から住居部分に入ってしまえば安全な様に対策した。
それでも念の為ソフィアにも結界盛々のブローチを作り身に着けさせた。
「ロザリーに心配して貰えるとは有難いねぇ。こんなに嬉しい事は無いよ」
大袈裟な程に喜ぶソフィアの様子を見てロザリアンヌは少し反省していた。
ソフィアの存在を知った時からソフィアの事を錬金術師という目でしか見ていなかった様な気がする。
引き取られてからも祖母と言うより少々躾に煩い師匠と考えていたので、今まで祖母として心から気遣った事がなかったかも知れない。
「これからはもっと師匠孝行をします」
ロザリアンヌの偽りの無い言葉だった。
「私はロザリーが元気で幸せならそれだけで良いよ。これからも精進おし」
ロザリアンヌは初めて祖母であるソフィアに頭を撫でられた。
今初めて祖母と孫としての時間を過ごしている様な気持ちになり、ロザリアンヌは胸が熱くなるのを感じていた。
「はい!」
ロザリアンヌは元気に返事をし、心からの明るい笑顔をソフィアに見せた。
ソフィアの一人娘であるロザリアンヌの母カトリーヌは、錬金術師になり店を継ぐのを嫌い父であるオットーと駆け落ちをした。
そして地方の街で毎年の様に5人も子供を作り、貧乏子沢山の生活を送っている。
ロザリアンヌがソフィアの話を聞き錬金術師になりたいと強請った事で交流は再開されたが、今でも昔の行き違いは払拭されていない様でカトリーヌの態度は頑なだった。
ソフィアもそんなカトリーヌに自分から擦り寄る事はせずにいたが、ロザリアンヌが稼いでいるお金の一部を時折送っていると最近話を聞いた。
「事後承諾になるが、ロザリーが元気で頑張っている姿を見せる代わりだ。勿論大金は渡してはいないよ。兄弟の為だと思って許しておくれ」
ロザリアンヌはソフィアから話を聞き帳簿を見せられると何も言えなかった。
その金額は多分ロザリアンヌが弟子として働きに出たら当然貰えるだろう給金と同程度で、ロザリアンヌにもそして受け取る側のカトリーヌにも負担の少ない額だと思えた。
ロザリアンヌは何となくソフィアの本音はきっと家族に囲まれ賑やかに暮らしたいのだろうと感じた。
そうでも無ければロザリアンヌだけでなく、キラルやレヴィアスに親身になる事など無いだろうと思う。
親子だからこそ簡単には拭えないわだかまりや行き違いがあるのだろうが、いつかは仲良くなって欲しいとロザリアンヌは願った。
そうして折角身構え準備していたが錬金術店が襲撃される事は無かった。
アンナを襲った犯人も捕まる事が無く事件としては難航していた。
そしてユーリはこの事件に何か感じるものがあったのか、よりいっそうダンジョン攻略に熱を入れのめり込んでいるようで「一日も早いダンジョン踏破を果たすぞ」が口癖になっていた。
しかしロザリアンヌはユーリの思惑などお構いなしに隠し宝箱入手の為に、彼らを少々置き去り気味にダンジョンをサクサク進んだ。
(別にキラルとレヴィアスが居れば踏破自体は簡単なんだけどな)
ロザリアンヌはこれ程一緒にダンジョンに居ながら、ユーリ達といまだに仲間意識を持つ事ができずにいた。
認識阻害でダンジョンに入るキラルとレヴィアスは探検者登録をしていない。
なので当然ユーリ達にダンジョン内では姿を見せていない。
なのに戦闘に参加するキラルとレヴィアス。
ユーリ達にはロザリアンヌがどんな力を使い魔物を倒しているのか想像もできず、色々と考える事を諦めたのかオリヴィエ達にはとても距離を置かれている。
(別に良いかぁ、これが済んだら卒業確約で自由の身だしね)
ロザリアンヌはSランクダンジョン踏破後は、ソフィアから経営のノウハウを学びながら大賢者様の錬金レシピの解析をしようと決めていた。
解析してその結果をどうしようなどは今は考えていないが、知識は持っていて損は無いだろうと考えている。
それに大賢者様の経緯を知ってしまった今は、申し訳ないが今後国の機関に関わる気はまったく無かった。
国の貴族や商人に関わり、利用されたり罠に嵌められる人生は絶対にごめんだと考えていた。
だからどんなにユーリに言われようが、錬金術部門に就職する事など無いだろう。
最終的には地域の人に密着した便利な物を錬金して、師匠の様にのんびり平和に過ごせたらいいなと今は考えていた。
強くてニューゲームを始めて私は何をしたかったのか、目先の展開しか考えていなかった事に気付いたロザリアンヌは自分の本音を探していた。
今では一緒に居るのが当然の様になっているが、キラルとレヴィアスを宿した意味を探してみたいとも思う。
しかし素材入手の為にダンジョンに入り、暇があればアンナやソフィアとお茶をしてのんびり過ごすそんな日々にも憧れる。
ソフィアには独り立ちを言い渡されているが、ロザリアンヌは今のままで良いと思っていた。
できれば母の代わりにソフィアの店を継ぎたいとさえ考えていた。
もう既にソフィアの錬金術店が自分の居場所で実家だと思える位にここでの生活に馴染んでいた。
魔法学校卒業が見え始めたことで、ロザリアンヌも自分の将来を考え始めていたのだった。




