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今日からまた一日1話に戻ります。
アンナは時間を掛けて魔導書を吟味していたが、自分で覚える事を諦めた様だった。
そのどれもこれもが中級以上の魔法であった事に加え、今では使える者が居ないとされる氷魔法や雷魔法がある事に驚いたからだった。
アンナ自身使える様になったとして、魔導書にして売りに出して良いものかかなり悩んだ様だ。
「どこで知ったのか追及されるのもなんだか面倒だわ」
アンナの言う事は至極尤もな気がしたロザリアンヌは、大賢者様の遺産は今は何も触らない方が良いと判断した。
その後改めて浄化され姿を無くしてしまった大賢者様のお墓を作り、みんなで手を合わせて弔った。
そしてこの隠れ家が他の人に荒らされる事の無いように、ロザリアンヌ達しか入れない結界を施すと、レヴィアスが闇魔法を使い念の為にこの場所に近づけない様に罠を張り巡らせていた。
この隠れ家にはロザリアンヌ達が転移でしか来られなくなったと言う事だ。
なので大賢者様に感謝して有難く隠れ家として使わせて貰う事にした。
「僕達だけの隠れ家だね」
何故かキラルが嬉しそうにしていたのが印象的だった。
「私もこれで区切りがついた。ロザリー、おまえと改めて契約しよう」
突然のレヴィアスの申し出にロザリアンヌは何を言っているのか意味が分からなかった。
「契約って何を?」
「これからはおまえに力を貸そうと言っているのだ」
レヴィアスの言いたい事が何となく分かったが、イマイチ理解しがたいロザリアンヌだった。
「でも私キラルと契約なんてした覚え無いよ?」
「契約無しで精霊を宿しているだと!?」
レヴィアスの驚いた声も凄かったが、何気にアンナも驚いた様子を見せていた。
その様子にロザリアンヌは少々不安になりキラルに確認する。
「えっと、何かしたっけ?キラル」
「良く分かんない。気が付いたらロザリーの中に居た」
キラルの曖昧な返事に、ロザリアンヌはキラルを宿した時の事やゲーム内で光の精霊を宿した時の事を思い出してみる。
幼体のキラルがロザリアンヌの周りを3周ほど回った後身体に入っただけで、やはり契約の様な事など何も無いと思われた。
あの身体の周りをグルグルと回ったのが契約なのか?
しかしあの動作に契約なんて感じはまったくしなかった。
「そうだよね、やっぱり契約なんて何もしてないよね」
ロザリアンヌとキラルのやり取りを聞いていたレヴィアスは突然高らかな笑い声をあげる。
「ハ、ハ、ハ、すまんすまん。それでは私も契約無しで力を貸すとしよう」
そう言うとレヴィアスの手から放たれた闇の力がロザリアンヌの中にいきなり流れ込んで来た。
突然の事に驚き戸惑うロザリアンヌ。
しかし何か静かで温かいものがゆっくりと身体中を巡るのを感じ、段々と気持ちも落ち着き心地良ささえ感じ始めた。
「契約に縛られる事が無いのなら、私も存分に力が使えそうだ」
「さっきから言ってるその契約っていったい何なの?」
闇の力の注入を終えたらしいレヴィアスにロザリアンヌは再度聞いてみる。
「契約とは人間と精霊を繋ぎ止める楔の様なものだ。制約もあり魔力も必要とする。だが契約の必要なく繋がれる人間がいるとは知らなかった。私にもまだ知らない事があった様だ」
レヴィアスはそう言うとまた面白そうに笑っていた。
レヴィアスの説明ではあまり良く理解できなかったが、その笑い声にまぁいいかと思うロザリアンヌだった。
そんな事よりレヴィアスがくれたらしい闇魔法が意外に凄かった。
闇を纏う事による認識阻害が魔法でできるようになった。スキルじゃ無くて魔法でだ!
その上浮遊も魔法で使えるようになっている。闇魔法は重力にも干渉できる様だった。
これでやっと魔法の箒もアンナの傘も改良できると言う事だ。
攻撃魔法の他に呪いや幻惑や悪夢といったデバフ魔法も多く、レヴィアスがダンジョンで罠で張り巡らせた魔法を知る事になった。
というか、ロザリアンヌにも使えるようになったと言う事だ。
ロザリアンヌは何か恐ろしい魔法を手に入れてしまった様な気がして少々不安になった。
「折角レヴィアスがくれた魔法だけれど、使い道が無いと思うわ」
ロザリアンヌが魔法を使うのはダンジョン攻略か錬金術だけだと思うと、闇魔法で使えるのは浮遊だけだと思われた。
認識阻害なんて下手に付与した物が出回ったら悪用される事間違いないし、浮遊だって利用方法によってはやはり危険な魔法だ。
そう、闇魔法は簡単には錬金で使えない魔法だとロザリアンヌは判断した。
「無理に使う必要もない。だが、かなり役に立つ魔法だぞ」
自信あり気なレヴィアスにキラルだけでなくレヴィアスも宿した事を実感し、「これからもよろしく」と改めて挨拶をするロザリアンヌだった。




