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まだ夏季休暇は残っていたが、レヴィアスに街を案内すべく一時ダンジョン攻略は中止した。
というか、もともと闇の精霊に会うのを目的としていたので問題無いと言えば何の問題も無かった。
ただ、やはりどうせなら踏破したいという思いはロザリアンヌの中に強くあった。
しかしユーリに強制的に組まされたパーティーで踏破すれば良いのかと思い直す。
彼女達も頑張っている様なので、そんなに長く待たされる事も無いだろう。
それよりも今はレヴィアスともっとお互いを知り合う事に力を尽くそうと考えた。
「ところでさぁ、レヴィアスをどこに住まわせようか」
レヴィアスは今は誰に宿っている訳でも無いので基本自由だ。
しかしロザリアンヌには当然の様にお節介心が疼いていた。
それにキラルもウィルも一緒に居たがっている。
「私の所は無理よ。変な噂が立つのはさすがに困るわ」
アンナは両手を胸の前で振って大袈裟な程否定する。
あまり自分から詳しくは話さないが、マークスとはイイ感じの関係を築いている様だし当然だろうと思う。
「そうだよね、妙齢の女性の居る家に突然男が同居したら噂になるし説明に困るよね」
ロザリアンヌは言葉にしてから自分が凄くおばさん臭い言い方をしたとハッとする。
転生した事を知らないアンナは当然驚いた表情でロザリアンヌを見詰める。
「あっ、えっと、師匠に聞いてみるよ」
ロザリアンヌは誤魔化す様にレヴィアスを連れて慌てて家へと戻る事にした。
「家に置いてやりたいが、ロザリーや私と同じ部屋って訳にもいかないだろう?」
レヴィアスが闇の精霊だと説明すると、師匠はそんな事を言った。
確かにそれ程広い家では無いので、レヴィアスの為に部屋を用意できそうもなかった。
「私は別に寝なくても構わないんだがな」
「精霊は寝なくても大丈夫だなんて言わないで。キラルだってちゃんと寝てるよ。折角だから人間らしい生活しようよ」
まるで精霊だから何でもありみたいに強がるレヴィアスの心がロザリアンヌに刺さった。
それにこれからもっと自由に楽しもうと連れ出したのに、何も手助けできない事が歯痒かった。
必死になってレヴィアスの為に何ができるか考えるロザリアンヌに「仕方ないね」と師匠が助け舟を出してくれた。
「倉庫を片づけな、ベッドくらい置けるだろう。不便だろうが我慢してくれるかい」
師匠は地下の倉庫にしている部屋をレヴィアスの部屋にすると決めた様だ。
「師匠ありがとう」
「他にもやる事は色々あるよ」
嬉しさのあまり抱き付こうとしたロザリアンヌを遮り、師匠はテキパキと指示を出す。
倉庫にあった師匠の物は収納ボックスに仕舞い師匠の部屋に置き、ロザリアンヌの物はマジックポーチに仕舞った。
売り物の在庫は収納ボックスに入れてカウンターの裏に置いた。
その後クリーンで部屋を綺麗にしてから、店を閉めみんなで出かける事になった。
ベッドや布団等の必要な家具の他、身の回りの物を買うとなるといくら掛かるか分からないと師匠が付いて来てくれたのだ。
「この際だおまえ達も必要な物があれば買うと良いよ」
師匠はロザリアンヌだけでなくキラルやレヴィアスにも好きに買えと許可を出してくれた。
普段は倹約家な師匠が金額の制限を付けない事にロザリアンヌは驚いた。
「本当に良いの?」
「僕は何が良いかな」
ロザリアンヌもキラルも喜んで店を見て回るが、いざ買うとなると今本当に必要かと悩み結局止めてしまう。
普段の師匠の躾が行き届いているのか、どうしても衝動買いはできなかった。
ただレヴィアスが物思いに耽るほど見詰めていたランタンは購入した。
「この明るさが心地良い」
「このランタンあまり明るくないよ?」
この国は魔道具が発明され発達した事で、街の中も家の中もかなり明るくなっている。
しかし魔道具が無い時代から来た様なレヴィアスには、ランタンの薄暗さの方が落ち着くのかも知れない。
ロザリアンヌはレヴィアスとキラルの漫才の様なやり取りを微笑ましく眺めながら、これから精霊2体との同居かと思うのだった。




