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誤字報告いつも本当にありがとうございます。
冬季休暇も終わり、飛び級の為の試験日がやって来た。
飛び級に臨む生徒はロザリアンヌが思っていたより多く、ちょっとびっくりだった。
どの学年に挑戦するのか関係無く試験は一堂に会する講堂で行われ、どの学年の試験を受けるかで席の場所が決まっていた。
ロザリアンヌが早速本科3年に臨むべくその列の席に座ると突然肩を掴まれた。
「ねえ、そこは本科3年の試験場所よ、あなた間違えていない?」
振り向くと目を吊り上げ怒っているかの様な表情の聖女候補がそこに居た。
ロザリアンヌがマッシュの要望によって本科3年の試験を受ける事は他の生徒には知らされておらず、驚くのは当然と言えば当然だろう。
回りの生徒達がヒソヒソする中、こうして声を掛けてくるとはなかなか勇気がある人だとロザリアンヌは思った。
「気に掛けてくれてありがとう、ここであっているから大丈夫」
ロザリアンヌは親切に教えようとしてくれた聖女候補にお礼を言って、会心の微笑みを投げかけた。
「あ、あなた、本気でクラヴィス様のお役に立つ事を考えてはいない様ね」
聖女候補は何やら呆れた様子で絶句しているが、ロザリアンヌにしたら飛び級とクラヴィスに何の関係があるのだ?だった。
聖女候補も本当にブレない人だと感心していた。
それにしても良く考えてみたら彼女も可哀そうな子だ。
この年代の子供達の世界はとても狭く、親だけが絶対の正義な事が多い。
きっと彼女はクラヴィス様の役に立つ様にと親に言い聞かされ、何を疑う事も逆らう事も無く親の言う事に従順なのだろう。
そうじゃなければ恋愛絡みなのだろうが、彼女の場合は聖女候補と言う面倒くさい立場も喜んで受け入れているみたいだし、絶対に親がこの子を道具を使う様に利用しようと考えているんだろうなとロザリアンヌは漠然と考えていた。
そしてさらに考えてみれば、ロザリアンヌはこの世界をゲームの世界と知るやいなや、すべてをゲームの中の出来事として考えていたと思う。
恋愛絡みに発展したら困るとかゲームの強制力がなんて事を考えて、魔法学校に上がると随分と斜に構え、みんなの事をゲームの登場人物の様に見ていたと思う。
何ならゲームで得た知識を使ってこの世界を自由にできるとさえ考えていたかもしれない。
でもこの世界は間違いなく現実で、恋愛が始まろうがどんなイベントが起ころうが、それはみんなゲームなんかじゃなくすべてがリアルで現実なのだ。
ロザリアンヌとしてその時々を楽しみたいと考えながら、一番楽しむべき学校生活を放棄していた事に今気が付いた。
いや、この聖女候補が気付かせてくれたと言うべきだろう。
彼女はいつだって正直に感情をぶつけ、ロザリアンヌに正面から絡んできてくれていた。
ゲームの中のイベントではなく現実に存在する同級生として、もっと言うならもしかしたらライバルとしてロザリアンヌに接していたのだろう。
要するに私は人生をトータルで40年以上経験し、自分の事を大人だと思っていたが、全然大人になり切れていないただの拗らせだったという事だ。
だからこれからは心を入れ替え、少しは他の生徒とも仲良くする事を考え、少なくとも残りの学校生活は何が起ころうと普通に楽しもうと決めた。
ロザリアンヌとしてもっとゆっくりいろんな経験をして成長して行けば良いだろう。
それが今世をやり直すって事なのだろうと考えた。
「大きなお世話かも知れないけれど、レベルを上げてステータスが上がったら使える魔法も増えると思うよ」
ロザリアンヌは彼女が折角覚えた光魔法を使えずに悩んでいるとキラルから聞いた事を思い出し、お節介かも知れないと思ったが少しだけ助言をしてみた。
この学校というか国はその辺の事をあまり言わないのが不思議だった。
授業でダンジョンに入るのもあくまでも形ばかりの連携を学ぶためであって、ダンジョン攻略を進んでは推奨していない。
自力または魔導書で覚えた魔法の練度を高め、上級の魔法や新たな魔法を覚える事を優先する。
そんなんじゃなかなか魔力量も増えないし、魔力を高めるのも難しいんじゃないかと、ダンジョン攻略派というかステータスをレベルで上げるのが当然と思っているロザリアンヌは考えていた。
この世界はゲームじゃないと言いながらまたまた言ってしまうと、実際にゲーム内ではそれでほとんどの事が解決していた。
新しい魔法もすぐに覚えるし使えるし、何なら攻略の難しい攻略対象者との親密度だってそれで解決していた。
大きな声じゃ言わないが、みんなもっとダンジョンに入るべきだとロザリアンヌは思っていた。
「あ、ありがとう」
漸く我に返った聖女候補は大人しく引き下がる様に離れて行った。
(お礼もちゃんと言えるんじゃない)
ロザリアンヌの言った事を信じたかどうかは分からないが、お礼を言ったという事は多分そういう事なのだろうと納得しておいた。
そして変なウザ絡みをされる事が無かったのにホッとしながら、次はちゃんと彼女の名前を聞こうと考えていた。
その後聖女候補とのやり取りがかなり目立った為かロザリアンヌに絡んでくる生徒は無く、無事に試験を終了させる事ができた。
というより、講堂の外でロザリアンヌを待つ様に待機していたキラルの方が注目を集めていたので、ロザリアンヌは相手にもされていなかったと訂正するべきだろう。
「試験どうだった?」
講堂を出るやいなや抱き付く様に駆け寄って来たキラルに女生徒たちが群がった。
ロザリアンヌと言う保護者が現れたことで、今まで遠巻きに遠慮していた女生徒達もリミッターを解除した様だ。
「名前はなんていうの?」
「二人はどんな関係なの?」
「可愛すぎるんだけどぉ~、私の事お姉様って呼んでくれない?」
遠慮の無い質問が投げかけられる中、キラルは見事に彼女達をあしらっていた。
「僕、今日はもう疲れちゃった」
そう言うと肩を落とし溜息を吐いた。
そして「お姉様方また今度仲良くしてくださいね」そう言うと輝くような笑顔を投げかけ彼女達に手を振ってからロザリアンヌの手を取り「早く行こうよ」と駆け出した。
キラルに笑顔を振りまかれた女生徒達はみんな大人しくなっていた。
いったいいつの間にそんな技を覚えた!
ロザリアンヌはキラルの知られざる一面を目の当たりにして、ただただ呆気にとられるのだった。




