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「ロザリーってば、ねえねえ、起きてってば」
まだ陽が昇るか昇らないかという早朝に激しく体を揺すられ、目を覚ますとそこには見知らぬ少年が居た。
それも全裸!!
一瞬で目が覚めたが、これは夢かと頭の中は混乱する。
「寝直すか・・・」
ロザリアンヌが寝返りを打ち布団を掛け直そうとすると、その布団を剥ぎ取る様にして少年がまた騒いだ。
「もう、起きてよロザリーってば!」
少年の声にしっかりと覚醒したロザリアンヌはベッドから飛び起き少年をまじまじと見つめる。
年齢は小学校高学年位、ツヤツヤな銀髪に近いグレーの髪に、目鼻立ちのくっきりはっきりとした輝くような美少年がロザリアンヌに向けてニコニコの笑顔を振りまいている。
誰かに似ている気もするが、まったく覚えのない少年だった。
どうしてここに居るんだ?
いったいここで何をしているんだ?
それも全裸で!!!
(記憶の無い内に少年を攫って来ていけない事をしたんじゃないよね?!そんな趣味は無かった筈)
まったく覚えのない全裸の少年が親し気にするのを目の当たりにして、ロザリアンヌは段々不安になって行く。
取り敢えず急ぎロザリアンヌの服を取り出し少年に羽織らせる。
「この部屋でいったい何をしているのか聞いても良い?」
ロザリアンヌは精霊絡みの事案かも知れないと思い付き、少年に静かに訪ねた。
「もう、ロザリーってば、僕だよキラルだよ、キ・ラ・ル」
「へっ、キラル?・・・・・・」
キラルって光の精霊で、最近は人型になって一緒にダンジョン攻略を進めていたが、何と言うか精霊って雰囲気を醸し出した中性的な存在だった筈。
目の前の少年が自分の事をキラルだと名乗ってはいるが、すぐには受け入れる事ができずに思考が停止しそうになる。
呆然とするロザリアンヌに痺れを切らし、少年はさらに早口で捲くし立てる。
「僕も漸く擬人化できる様になったんだよ。これからはロザリーとずっと一緒だよ」
「いやいや、今までもずっと一緒だったよね?」
ロザリアンヌの問いかけには答えもせずにキラルは話し続ける。
「僕が悪い奴らからロザリーを守るからもう安心して」
「今までもちゃんと守ってくれていたじゃない」
「違うよ、これで僕が光の精霊だとバレる事が無くなったって意味だよ。周りの人間からは人間として認識されるから、ロザリーが僕を宿してるなんて誰にも気づかれなくなったって事だよ。これで少なくともロザリーが命を狙われる心配は無くなったでしょう」
「うん、そうだね」
キラルの説得の様な説明にロザリアンヌは流される様に頷いた。
しかしそれにしてもロザリアンヌには納得いかない事があった。
精霊って性別が無かった筈。キラルと名付けた時からロザリアンヌは何となく女の子をイメージして接していたのに何で男の子?
それも成長速度が著しく早く、ロザリアンヌの精神年齢に引っ張られていたという話は何処へ行った?
そのせいでロザリアンヌも見た目より老けて見える今の姿になったんだよね。
なのに何故擬人化したキラルは少年の姿なの?
その上言葉遣いまで変わってるし、大人びた話し方だったキラルは何処へ行った!
やっぱりどうしても納得がいかないとキラルに詰め寄った。
「擬人化には力がいるんだよ。今の僕にはこの姿が精一杯なの。大丈夫これからもっと成長してロザリーの好みに近づいてみせるから」
「そんな話をしてるんじゃなくて」
少し強めにキラルに言葉を発したが、キラルが顔を曇らせ始めた事でロザリアンヌは少し冷静になった。
考えてみたらキラルはこの世界に生まれてからまだ5年かそこらだ。
人間に例えたら幼児に近い年齢だ。
精霊は長い年月をかけて成長して行くらしいのに、ロザリアンヌに宿ったばかりに無理に成長を促されたのだ。
幼児が一気に大人になった様なものなのだと考えつく。
ロザリアンヌがこの世界に転生して戸惑った様に、キラルだって急激な成長に戸惑いを感じていた筈だ。
「ごめんねキラル、私はまた自分の事しか考えてなかったよ」
ロザリアンヌは素直にキラルに謝り、冷静になって受け入れ、静かに話し合う事にした。
キラルがダンジョン攻略を急いだのは、けして闇の精霊が関わっていた訳では無く、ただ単に一刻も早く擬人化できる様になる為だった。
そしてこれからはずっと擬人化したままで過ごすと言うキラルに、ロザリアンヌはそんなことして大丈夫なのかと不安になる。
「大丈夫にするために頑張ったんだよ」
そう言いながら胸を張るキラルに、ロザリアンヌは胸がいっぱいになり何も言えなくなってしまう。
「でも、なんで男の子なの?」
「僕がそうなりたかったからさ」
明確な回答を貰えずに少しだけもやもやしたが、ロザリアンヌはそれ以上そこに拘るのは止めにした。
それよりもこれからも変わらない信頼関係を築いていく方が大事だとロザリアンヌは改めて思う。
「それにしても周りにはなんて説明しようか」
「僕の事を光の精霊だと知っている人にはそのまま擬人化したと説明すれば良いよ」
(それは分かってるんだけどさぁ・・・)
ロザリアンヌが戸惑い混乱した様に、師匠やアンナもきっと混乱するんだろうなとロザリアンヌは溜息を吐く。
しかしロザリアンヌの思いは杞憂だった様で、ソフィアは冷静に「私の新しい弟子って事にしたら良いよ」と言うと服や身の回りの物を揃える様にと現金を渡された。
アンナは「精霊に愛されるなんて凄いわ」といやに感動的に受け止め感激した様子を見せた。
ウィルは「私も擬人化できる様になってみせます」とかなり挑戦的な態度だった。
これで問題は解決したかとほっと一息つくロザリアンヌにキラルは「僕は今まで通り学校も一緒に行くからね」と新たな爆弾を投げて来た。
「それは絶対に無理だよぉ」
キラルを説得しようとしばらく頑張ったが、キラルはロザリアンヌから離れる事は絶対にしないとけして譲らなかった。
仕方なくロザリアンヌはマッシュではなくユーリに相談に行くのだった。




