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「師匠、魔導書が欲しいです。その為にお金を貯めたいんだけど何か売れそうなレシピを教えてください」
師匠である祖母からは、下級ポーションと中和剤のレシピは教わっていた。
下級ポーションは疲れた時に飲むとちょっと元気が出るポーションだ。
最近店ではロザリアンヌが作った物が並べられていて、そこそこに売れるが儲けはほとんど無かった。
中和剤は錬金術で使う物なので売り物にはならないが、高品質の中和剤を作る為に中和剤を使うといった感じで、ひたすら自分の錬金術の練習で腕を上げる為に使っていた。
なので新しく毒消し草を手に入れたロザリアンヌとしては、そろそろ違うレシピも教えて欲しいと考えて祖母に頭を下げたのだ。
「私のレシピを教えるのは簡単さ、でもねロザリアンヌ考えてごらん。私のレシピを使っていたらいつまでたっても私を超えられないよ。基本はもうできているんだ、後は自分で色々工夫してみるのが大事なんだよ。同じポーションでも私とロザリアンヌではレシピが違うのが当然で何の問題も無いし、それで効果が高くなればもしかしたら私が作る物よりロザリアンヌが作る物の方が売れるようになるかも知れないよ」
師匠にそうアドバイスをされたロザリアンヌはしばし考える。
素材を少し変えてみたら効果も違うのか?
作る過程で何か変えてみたら違うものができるのか?
新しく手に入れた毒消し草を使ったら毒消しポーションが私にも作れるのか?
毒消しポーションは毒を消す事しかできないけれど、そこに薬草を足してみたらどうなるんだろう?
「師匠ありがとうございます、何か色々と試したい事が浮かんできました。少し一人で頑張ってみます」
「ああそうしなさい、私も出来上がりを楽しみにしているよ」
ロザリアンヌは錬金部屋へと向かいながら気分を新たにしていた。
祖母に教わるのを前提にばかり考えていたけれど、言われてみればまったく新しい物を作る事を考えるのも錬金術の醍醐味だった。
その為にどんな素材が必要なのか、どうしたら作れるのかを考え、自分だけのレシピを作る楽しみをすっかり忘れていた。
私は今度の人生では錬金術師になると決めていたのに、一番大事な事をうっかりしていた様だ。
そうしてロザリアンヌは手持ちの素材で何が作れるのかを試行錯誤し始めていた。
錬金術で作るポーションは魔力を使った合成なので、素材を粉砕したり熱を加えたりなどの工程が無いため基本的には無味無臭だった。
自分の想像と感性を多大に影響させながら、純粋に効果を追求しイメージするそれが錬金術。
(いっその事味を付けたポーションでも考えてみようか。でもそのためにはどうしたら良い?)
ロザリアンヌはあれこれと湧いてくる閃きをヒントに色々考える。
前世でのゲームの知識に影響されているからか、作ろうと思えば武器だろうがアクセサリーだろうが、もしかしたら家だって作れるだろうとロザリアンヌは今から胸をワクワクさせていた。
私の前世での師匠は最強武器防具だけでなく、狂暴な魔物を倒すための爆弾や賢者の石を使ったケーキなんて物まで作っていた。
見た目はテントで中は広い住まいなんて空間さえも弄った物も作っていたし、錬金したものをコピーしてくれるホムンクルスも作り上げていた。
私にだってそんな閃きと素材が揃えばきっとなんだって作れる筈。
ロザリアンヌはもう何も迷う事無く、いつも以上にポーション作りに力を入れていた。
そして今日採取して来た素材を使い果たし、思う様な物を作り上げられた実感もないまま今日の錬金術の作業を終わりにした。
「師匠、鑑定をお願いします」
ロザリアンヌは今日作り上げたポーションを鑑定して貰うためにソフィアに声を掛ける。
ソフィアはその一つ一つを手に取り鑑定をしていく。
「毒消しの効果に下級ポーションの効果を乗せたんだね。みんな一度は考える効果だね。でもこの場合体力の回復より毒で失ったHPの回復を乗せるのが一般的だね。しかしこれなら毒消しポーションとしてちゃんと売り物になるから安心おし」
ちなみにHPとは生命力の事で、体力とはまた別なのだそうだ。
結局ソフィアはロザリアンヌが作り上げたポーションをすべて引き取ってくれた。
ソフィアの鑑定結果を聞き少し安心したが、やはりどう考えても圧倒的に手持ちの素材が足りないと思う。
ロザリアンヌはそう結論付けると、ダンジョンの攻略を進めより多くの素材を手に入れるのが先決かと考えた。
そしてできる事なら早く鑑定のスキルを手に入れ、自分で鑑定出来る様になりたいとも思う。
鑑定のスキルは薬草ダンジョン第5層のボス部屋の隠し宝箱で手に入る。
それに第5層からは癒し草も手に入るので、そうしたらHP回復ポーションも作れる様になる。
しかし第5層のボスはスライム系ではない為短剣での攻略には少し不安があった。
ゲームの世界では光属性の攻撃魔法シャイニングスピアを使える様になっていたので何の問題も無かったが、やはり攻撃魔法の一つ位は手に入れておきたい。
ロザリアンヌは魔法を使えないもどかしさに地団太を踏む思いだった。
「精霊を探しに行ってみようか?」
ロザリアンヌは光魔法を手に入れる為に精霊を探しに行く事をふと考える。
でももし精霊と出会い光魔法を手に入れてしまったら、ロザリアンヌはこの世界で聖女候補として主人公認定され、ゲームのストーリー参加が強制されるかも知れない、そう考えると怖くもあった。
ロザリアンヌは今回はこの世界で自分の人生を楽しむと決めているから、ストーリーに参加する気など毛頭無い。
しかし・・・
光魔法は結構万能で便利だった。と、思い悩むロザリアンヌなのだった。




