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アンナもロザリアンヌも冬季休暇が始まったとはいえ年末年始の意識などまったく無く、街中があれこれと浮足立つ中自分達には関係ないとダンジョン攻略は毎日続けられた。
しかしアンナも一緒という事もあって、ダンジョン攻略は比較的アンナの予定に合わせ行われていた。
とは言っても、アンナもキラルが急いでいる事を知っていたので、毎日最低でも午前の3時間と午後の4時間と比較的長い時間を付き合ってくれていた。
そしてキラルはみんなで攻略しているお陰か無理をせずに済んでいる様で、少しばかり長くなったダンジョン攻略でも余裕を見せる様になっていた。
ロザリアンヌは空いた時間でマッシュから変わらず出された山の様な課題と錬金術に時間を費やしていたが、今はアンナの移動の為の道具の構想で頭が一杯だった。
「アンナにも浮遊が使えれば何の問題も無いんだけどなぁ」
本当だったらアンナが手に入れていたかも知れないスキルを自分が手に入れてしまった後ろめたさもあって、ロザリアンヌはどうにかしたいと考えていた。
錬金術で作る物には魔法は付与できたが、スキルの能力効果はいくらやっても付与できなかった。
「浮遊が魔法で使える様になれば良いのだけどなぁ」
愚痴の様な独り言を吐き出し、ロザリアンヌは椅子に深くもたれかかる。
風の力で身体を浮かす方法や、重力の魔法が使えれば簡単なのだろうと考えるが、風の魔法をどう操作すればうまく身体を浮かせられるかも分からず、重力の魔法はロザリアンヌはまだ覚えていないので考えるだけ無駄だった。
スキルの浮遊は魔法という感じが全くせず、魔力を使う事も無く、まるで磁力が反発する様に自在に身体が浮くのだ。
この現象を魔法で再現しようとなるとなかなかに難しい問題だった。
いっその事竜巻をアンナの周りに発生させ、その力で身体を浮かせようかと考えたが、その力を絶えず維持する為には膨大な魔力と集中力を必要とするだろう。
そうなったら魔物を討伐する余裕がなくなり本末転倒も良い所だ。
ブーツに翼の様な羽でも付けて羽ばたかせてみようかとか、ジェットでも噴射できる様にしてみようかなど色々と考えるがどれもこれも現実的ではなかった。
(魔女が乗る魔法の箒ってどんな原理なんだろう?)
定番中の定番を頭に思い浮かべながらロザリアンヌは考え、このまま考えているよりはと見切り発車で魔女の箒をイメージしながら練成する。
すると不思議と箒を浮かせる為のレシピが思い浮かんできた。
(あの結界を応用すれば良いんだ)
その結界は上級魔法に匹敵する程かなり強固なもので、その上自分が指定したものしか結界内に入れない仕様だった。
さらに薄い膜の様に範囲を覆う形ではなく、かなりの厚みをおびて覆うのでその厚さの分浮く事ができる様だ。
ロザリアンヌは試に箒に跨り、今までドーム状に張り巡らせた結界の形を箒を中心にして球状になる様にイメージして張ると、なんと想定の通りに箒がロザリアンヌを乗せたまま浮いた。
「おおお~~」
ロザリアンヌは思わず知らず大きな声を出していた。
「コレって防御にも役立つし一石二鳥じゃない」
箒の先から小さな風を送り箒を移動させるとまるで飛んでいる様でもあった。
高い場所を飛ぶことはできないが、万が一落ちた時のことを考えれば安心でもあるのでこれで充分だろうと思えた。
練成した箒の柄に魔法陣で結界を刻んだ魔石を取り付け、箒の先に小さな竜巻型の風魔法を刻んだ魔石を取り付け、自分の魔力を流し操作できるようにしてみた。
殆ど成功と言って良いものができたのは確かだったが、乗りこなすには少々コツがいる様だった。
「ちょっと練習が必要かもね」
要は自転車と一緒で、慣れてしまえば手放し運転も可能だろうとロザリアンヌは簡単に考えた。
そしてロザリアンヌが今持っている技術の結晶とも言える最良の物ができたと何気に満足していた。
後はアンナにこれを自由自在に乗りこなせる様になって貰うだけだとロザリアンヌは逸る気持ちを抑えアンナを訪ねた。
「試作品第一号よ!」
魔法の箒を差し出すロザリアンヌを不思議そうに眺めるアンナ。
「魔法の箒よ。これに乗って移動すればダンジョン内の移動も快適の筈よ」
「箒に乗るの?」
「そうよ、箒に乗るのは魔女の定番よ!」
「そんな話私は聞いた事ないわよ?」
ロザリアンヌの説明をどう聞いていたのか、アンナの反応はロザリアンヌの思っていたのと全然違っていた。
仕方なくアンナを店の外に連れ出し、魔法の箒の実演をしてみせた。
・・・
・・・・・・
「ごめんなさい、私には無理そうだわ」
ロザリアンヌが箒に乗る様子を見てアンナはそう言った。
それもその筈、地上30㎝程度の位置をよろよろと移動する箒。
ロザリアンヌが少しでも気を抜くと足が地面に着いてしまうし、両手は箒の柄を力強く握りしめまったく自由にできそうもなかった。
どう考えても普通に歩いた方が楽で速いと判断できる。
こんなはずじゃなかった。
これはまだまだ改良の余地がありそうだとロザリアンヌはがっくりと肩を落とした。
「でも私の事を考えてくれたのよね、その気持ちだけは有り難く受け取っておくわ」
アンナは落ち込むロザリアンヌを励ます様に笑顔を見せてくれたのだった。




