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アンナも自力でCランクダンジョンまで進めていたので、ロザリアンヌと足並みを揃えるのにはそう時間は掛からなかった。
ウィルの無属性攻撃魔法もかなり強力なものが多く、人数的に倍になった事で高難易度ダンジョンである筈のBランクダンジョンもかなり時間を短縮して攻略できていた。
何よりキラルが一人で焦る様に先を急ぎ無茶をする事が無くなったのが一番の収穫だった。
それからもっと嬉しい事に、ロザリアンヌが高難易度ダンジョンに挑み始めたのを知った探検者達が、ダンジョンの情報を色々と集めてくれた事だった。
攻略本も攻略サイトも無しで本当に一から何の情報も無く始めた攻略だったが、探検者達が集めてくれた情報がとても役立ち、ロザリアンヌの緊張を解きほぐし心を軽くしてくれた。
「ロザリーは探検者仲間だから当然だ」
「錬金術店には俺も色々と世話になってるからな、これ位しかできないが頑張れよ」
「欲しい素材でもあるんだろう、また何か凄い物作ってくれよな」
探検者達の気持ちが本当に嬉しくて、ロザリアンヌは泣いてしまいそうだった。
「ええ、任せて。Sランクダンジョンだって踏破して見せるわ!」
ロザリアンヌは溢れそうになる涙を堪え、探検者達に宣言する様に自分を奮い立たせていた。
登録記録窓口のマリーもダンジョン課が保有する魔物情報や採取できる素材情報を纏めたものをコピーしてくれていて、魔物のどんな攻撃に気を付けろとか、底なし沼やアリ地獄の様な場所には気を付ける様にと入念な説明をしてくれた。
本来なら情報窓口の仕事だろうと思いながら、ロザリアンヌはマリーの説明を有難く聞いた。
「Sランクダンジョンの踏破を目指しているなら、私も協力しなくちゃね」
ちょっとだけ揶揄う様に言いながらウインクして見せたマリーには、もうロザリアンヌを過保護すぎる程心配する様子は無かった。
「まだ先の話だけれど頑張る。その前にまずはBランクダンジョンよ」
拳を高く掲げ気合を入れるロザリアンヌだったが、キラルとウィルとアンナの蹂躙劇にやはりドロップ品回収係という役割の方が大きかった。
ロザリアンヌも魔物を倒す場面は多々あったが、Bランクダンジョンは水辺という環境から足場がとても悪く、キラルもウィルもアンナも後衛で遠距離攻撃だった事から浮遊を使えるロザリアンヌがドロップ品を回収しなければならない場面ばかりだった。
しかし水中に沈んでしまったドロップ品の回収に頭を悩ませていたロザリアンヌを見て、ウィルが念動力の様な力を使ってドロップ品を回収してくれた。
「えっ、今の何?いったいどうやったの?」
「えっとぉ、何となく引き寄せた感じよ」
ウィルの曖昧な説明を聞いてロザリアンヌも早速挑戦してみると、どうも時空魔法の一つだったらしく意外に簡単に使えたのには驚いた。
「ねえアンナ、これ時空魔法よ。アンナにも使える筈。便利だからやってみてよ」
ドロップ品回収係を卒業したかったロザリアンヌはアンナにも勧める。
そしてふと瞬間移動を応用できないかと思い付き、マジックポーチに収納するイメージでドロップ品に魔力を送ると次々とその姿を消して行った。
そして確認してみるとマジックポーチにすべて収納されていた。
「何これ、凄く便利かも」
ロザリアンヌは思わず声を上げていた。
試しに採取したい草や木の素材などにも魔力を送ると、忽ちにその姿を消しマジックポーチに納まっていた。
「これイイかも、本当に便利だわ」
何がって、今までいちいち拾って歩いた労力と時間はかなりの物だった。
この面倒臭い作業が殆ど無くなるという事は、疲れも軽減され攻略に掛かる時間もかなり短縮されると言う事だ。
キラルには何故かできない様だったが、ウィルやアンナもドロップ品の回収を手伝ってくれるなら、Bランクダンジョンの攻略も思ったより早く終わるかも知れない。
ロザリアンヌは何かとても得した様な気分になり、教えてくれたウィルに感謝した。
そこからは本当に順調に攻略は進んだ。
キラルやウィルも気配探知が使える様で、水の中に潜む魔物も先制攻撃で蹂躙していたし、スキルの遠目でかなり視力が良くなったロザリアンヌは、気配探知範囲外の魔物の姿も確認する事ができた。
遠目が役に立つのは気配探知に引っ掛からないドロップ品の確認作業ばかりではない事がここに来て証明された。
今まではフロアが狭かった事もあり、ダンジョン内で遠目が役に立つ事は殆どなかった。
これで後は足場のしっかりしたところを確認しながら移動するアンナももっと自由に行動できる様になったら、この高難易度ダンジョンの攻略も怖いもの無しのパーティだと思えた。
いや、今でも殆ど怖いもの無しなのだが、少なくともアンナを焦らせたり急がせたりする事が無くなるのは確かだろう。
(何かうまい方法を考えてみようか)
ロザリアンヌは密かにアンナに合わせた新しい道具の開発を考えるのだった。




