46
「今日から私も戦闘に加わるよ」
キラルが宣言する様にロザリアンヌに言った。
基本的に精霊は自分の身に危険が及ばない限り自分から攻撃する事は無いと言われている。
それなのにダンジョン攻略での魔物討伐とはいえ、自分から戦闘に参加すると言い出した事にロザリアンヌは正直驚いた。
それに魔法を使うには人型である精霊本来の姿でなければならず、ロザリアンヌの部屋以外では光の球状態のキラルでは難しい話だった。
「一緒に戦ってくれるのは嬉しいけれど、精霊の姿を長い時間維持するのは大変じゃ無いの?」
今まではこの世界で精霊の姿を維持するのが大変で、ロザリアンヌの体内で休んでいたのだから、ロザリアンヌが疑問に思うのも心配するのも当然だった。
最近はかなり活動的になったとはいえ光の球の状態だったし、ロザリアンヌの体内で休む時間もいまだに短くはない。
「無理はしないよ、それよりもロザリーに確かめて欲しい事ができたんだ。その為にもダンジョンの攻略をもっと早く進めて欲しいの」
キラルが突然ダンジョン攻略を進めろと言い出した事にロザリアンヌはさらに驚いた。
「確かめて欲しい事って何?」
きっとダンジョンに関係する事なのだろうと推察はするが、その内容がまったく思い当たらずにロザリアンヌは聞くしかなかった。
「ダンジョン内に闇の精霊の気配を感じたの。もしかしたら・・・」
キラルは思案する様に言葉を濁すと、しばらくして続ける。
「確かめてみないと分からない。とにかく会いに行ってみようよ」
「ダンジョン内ってどこのダンジョンか場所は分かるの?」
「ええ、あそこよ」
キラルは精霊の姿になるとその場所を指示した。
そこは最高難易度ダンジョンと言われいまだに誰にも踏破されていない、ひと際高くそびえ立つSランクダンジョンだった。
Cランクダンジョンまではゲーム内で何度も攻略していたロザリアンヌも、さすがに少しだけ戸惑いすぐには返事ができなかった。
いずれは踏破に挑戦する予定ではいたが、キラルに願われ急ぎ攻略する事になるとは思ってもいなかったので、心の準備ができていなかった。
あそこに挑むとなると時間的に考えても、もう少し知識を増やそうと考えていた午後の自主練時間もまるまるダンジョン攻略に使わないと、辿り着くのはいつになるか分からないなとロザリアンヌは考える。
後は収納ボックスや収納バッグの錬金は今はしていないので、錬金時間も少しは削れるかと予定を立てる。
そうしてロザリアンヌはキラルの要望に応え、時間を見つけてはダンジョン攻略優先の生活に戻った。
キラルの活躍はそれはもう凄かった。
ロザリアンヌに攻撃させる間も持たせない程の速さで魔法を放ち魔物を倒していた。
それはまさに蹂躙と呼べる様子だったので、ロザリアンヌはドロップ品を拾うばかりだった。
そして驚いた事にキラルの倒した魔物の経験値がロザリアンヌに入るらしく、ロザリアンヌは然程戦闘に参加した風も無いのに順調にレベルアップした。
そしてもっと驚いた事にボス部屋のボスをキラルが倒しても隠し部屋に入れ、当然の様に隠し宝箱の中身を手に入れる事ができた。
ソロでの攻略じゃ無かったら手に入らない設定はどうなった?
キラルは精霊だからカウントされないのか?
疑問は湧けども憶測でしか答えが出せないので、ロザリアンヌは素直に結果だけを受け止めておいた。
そして順調に迅速にEランクダンジョンDランクダンジョンCランクダンジョンと攻略を終わらせ、Bランクダンジョン攻略の為の入ダン許可を得ようとマリーに手続きを促すと、マリーは窓口で固まってしまった。
マリーとしてはさすがに15歳にもならないロザリアンヌに、高難易度ダンジョンの入ダン許可を出して良いか戸惑った。
こんなに早く攻略を進めるとは思ってもいなかった事もあるが、そもそもまだ現実を受け入れられなかった。
長年探検者をしている探検者達でもそう簡単には挑まないのが、高難易度ダンジョンと言われるBランクダンジョンとAランクダンジョンだ。
それは魔物の強さや凶暴さが激しくなり、危険に晒される事が増えるからだ。
当然命に係わる場面も多くなり、救援要請が飛んでくる事もある危険な場所なのだ。
高ランク探検者という名声が欲しいパーティーが活躍するのが高難易度ダンジョンだ。
それをまだ14歳のロザリアンヌがソロで挑もうなど、探検者になりたての頃からロザリアンヌに目を掛けていたマリーとしては簡単に納得できなかった。
ダンジョン課の受付窓口職員としては、規定と実績に従い許可を出すべきだとは分かっていても、簡単に入ダン手続きができなかった。
戸惑い入ダン手続きを拒み続けるマリーの様子を見て、ロザリアンヌはマリーにだけキラルの存在を打ち明ける事にした。
実際ダンジョン攻略をしているのは殆どキラルなので、マリーの心配要素を取り除き入ダン許可を出して貰う為には仕方ない事だろうと思っていた。
そうしてロザリアンヌは万が一他の人に聞かれる事を心配し、防音結界を周りに厳重に張ってから事実を打ち明けた。
初めは簡単には信じては貰えなかったが、キラルがその手でマリーの頭に触れるとマリーにもキラルの姿が見える様になったらしく、驚いた事に驚愕する様子も見せずマリーはとても優しい落ち着いた表情を見せた。
「やはりロザリーは特別だったのね」
マリーはそれだけを呟くと他は何も言わず、Bランクダンジョンへの入ダン許可手続きをしてくれたのだった。




