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誤字報告ありがとうございます。
使節団はロザリアンヌが知る限り何事も無く帰って行った。
勿論我が国も魔石を動力とした大型船での使節団を同行させたのは言うまでもなかった。
この世界にこことは別に大陸があり、他に交易ができる国があると知った商人は大騒ぎの様で、自分でも船を手に入れようと国に働きかけたが、国は暫くの間他大陸まで渡れそうな船に関しては一般に持たせる考えは無い様だった。
その代わり次回渡航する際は商人も乗船させる事になり、その権利を得ようとする貴族やその貴族お抱えの商人達が色々と目論んでいた。
定期便の航海の設定も急がれるところではあったが、まずは他国の情報を得る事が先決と考え、さらに交易品になり得る物に関しても既に利権が絡み始めていた。
その余波で収納ボックスや収納バッグの製作が急かされる事になった。
錬金術部門の実質的責任者であったジュリオが今回使節団の一員として同行したせいで、今まで抑えつけられていた貴族や商人達がこれ幸いとあれこれ騒ぎ出したのだ。
このままでは製作者がロザリアンヌだとバレるのは時間の問題とも思われていたが、一部ではロザリアンヌが製作者ではないかと当たりをつけていた人物もいた。
マジックポーチのレシピを大枚叩いて購入したのに作れなかったあの商人は、それ以上の物を作れる人材などそうは居ないと簡単に見破っていたのだ。
ただロザリアンヌには王太子であるジュリオが付いていたので、迂闊な事はできないと鳴りを潜めていただけだった。
しかし最近彼の娘が聖女候補として騒がれる事になり、教会と縁ができた事で何人かの貴族とも縁ができ、ジュリオが留守の今ならと密かな計画を立てていた。
しかしそんな計画もキラルの諜報活動によって、ロザリアンヌの耳には既に入っていた。
ジュリオにキラルの存在を知らせる事はできなかったので伝言係にはできなかったが、マークスが実に良く動いてくれた。
今はロザリアンヌの相談役兼ジュリオとの連絡係はユーリが務めていた。
ユーリと学校で接触する分には誰に怪しまれる事も無かったので、ロザリアンヌとしても手間が省けて助かっていた。
とは言っても、今さらジュリオに伝える事など無いに等しいし、当のジュリオもこの地にはいない。
なのでまったくの無駄になってしまったが、一応何かあった時には相談位はしても良いかと思ってはいた。
そしてもう一つ幸いだったのが、Fランクダンジョンの攻略により、認識阻害のスキルを手に入れた事だった。
Fランクダンジョンボスの部屋の隠し宝箱の中身だった。
自分の存在を認識させなくする事ができる認識阻害を手に入れた事で、ロザリアンヌは錬金術部門へも堂々と立ち入りできる様になった。
何なら城内にも忍び込めるかもしれない。(やらないが)
これからはここで収納ボックスや収納バッグ作りをしようと考えていたので、少なくとも製作者がバレる事も受け渡し現場を襲われる心配も無くなったと思われる。
それにジュリオが居ない間は、誰に急かされようと収納ボックスに収納バッグを作らない様言われているので、この際制作自体から身を引こうかとも考えていた。
これからは錬金術部門の人員で作れる物だけを売るのが良いだろう。
それが錬金術部門で働く錬金術師達の実力を上げる事にも繋がるだろうと考えていた。
と言うより、ロザリアンヌはもう国に関わるのが面倒になっていた。
自分で作ってしまった責任を感じ、必要とする人に使われる事を願い今まで関わって来たが、ソフィアが予見した通り流通に革命を起こしたが争いを生んでいるのも確かだと分かった。
自分の思い描いた便利さとかけ離れた騒ぎになっているのが反省点であり、さらにいらない争いを生む事になったのはロザリアンヌに面白くないと言う思いを抱かせていた。
自分が深く考えもせず、やりたい様にやった結果ではあったが、レシピを売った時点で開発したあれもこれもロザリアンヌの手から離れているのだから、そこまで責任を負う必要が無いだろうと自分を無理無理納得させる事にした。
ただの言い訳だと言われればそれまでではあるが、しかし・・・
関わりたくない事には関わらない。自分の時間は自分の為に使う。もっと我儘になっても良いだろうと開き直る事にした。
それからロザリアンヌを攫おうとする不埒な輩は、認識阻害と気配探知に時空魔法の空間探知などを使い悉く撃退した。
ロザリアンヌの結界を触った瞬間に反撃開始。
認識阻害をすぐに発動し、気配探知と空間探知で他の襲撃者も探し全員を撃退する。
当然ピコピコハンマーの毒を抜いた麻痺・睡眠のデバフ攻撃である。
その結果彼らがどうなったかまではロザリアンヌは見届けてはいない。
警備隊に捕まり罪人となるか、もしかしたら運悪く命を落とす事があったとしても、それはロザリアンヌには関係の無い事だと割り切っている。
ダンジョンの外で武器を使うのは犯罪行為と言われれば身も蓋も無いが、襲って来たから反撃した。実にシンプルな行動であって、やるなら逆にやられる事も覚悟しておけと言うだけだ。
もし万が一警備隊に見つかった時は大人しく従おうとは思ってはいるが、今の所人の目のある所で襲われてはいないので大丈夫だろうとは思っていた。
しかし何やら別の思惑が動き出したのを知りロザリアンヌはどうすべきかを考え始めていた。
聖女候補がアンナの所で買った光魔法の魔導書で覚えた魔法を、ロザリアンヌが懸念した通り上手く使えないらしい。
そしてアンナの宿していた精霊が光の精霊じゃなくなった事を知り、新たな光の精霊の誕生を知り、新たな光の精霊を聖女候補に宿させる為に探す事にした様だ。
「キラルの存在を知られる訳にはいかなくなったわね」
ロザリアンヌはキラルの報告を聞き、溜息を吐きながら呟いた。
「あの子に宿れと言われても私はお断りよ」
キラルは本当に嫌そうな顔をしながら、辛辣に言った。
その様子を見て、精霊に愛される条件というのがあるのかも知れないと、ロザリアンヌは何気に考え、自分は魔力量が多いのが気に入られたんだっけとアンナの話を思い起こしていた。
「でもあの人達はそんな事考えてもいないでしょう」
あの人達とは聖女候補の親でもあり、マジックポーチのレシピを買った商人の事で、今ロザリアンヌを攫おうと躍起になっている張本人だ。
確か聖女候補の家は豪商だと噂で聞いた覚えがあるが、ロザリアンヌは興味もなくまだ名前も知らずにいた。
「そうね見つけさえすればどうにでもなると思っている様ね。もしロザリーに宿っていると知ったら、きっとロザリーを殺してでも手に入れようと考えるかも知れないわね」
それを聞いてロザリアンヌは身震いをした。
今はロザリアンヌに収納ボックスを作らせるために攫おうと考えているだけだから良いが、キラルを奪い取ろうと考え始めたら命を狙われるかも知れないと想像できた事が恐ろしかった。
当然大人しくやられるつもりは無いが、今以上に面倒になるのかと思うと気が重かった。
「キラル、やっぱり存在を知られない様に少しは自重してくれない?」
ついこの間、キラルの存在を知られても良いと腹を括った筈なのに、心はすぐに揺らいでしまう。
「大丈夫よ、これだけ動いても騒ぎにもならないのよ。自重する必要なんてないと思うわ」
いやに自信ありげなキラルにロザリアンヌはそれ以上何も言えなかった。




