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学期末最終日、ロザリアンヌは明日からの自由な時間を考えるだけでワクワクしていた。
あれからクラヴィス一行に絡まれる事も無くなり、それだけでも気分は明るく上向いていた。
そんなロザリアンヌを呼び止め、担任であるマッシュは抱えている大量の書物を差し出して来た。
「夏季休暇中の課題だ。しっかりと勉強しろよ」
ロザリアンヌは暫く受け取りを拒否して「コレってもしかしなくても私だけですよね?」と確認した。
「当然だ。他の生徒にはまだ理解も難しいだろう。特別扱いしているのだ感謝しろ」
「こんなのは特別扱いとは言いません。というか、特別扱いは困ります。これは生徒の貴重な夏季休暇の時間を奪うだけの拷問です」
ロザリアンヌは何とかこの課題を断ろうと必死だった。
「まぁそう言うな。すべてはおまえの身になるのだ、おまえの為だ。後々この私にきっと感謝する事になるだろう」
マッシュは半ば笑いながらロザリアンヌに無理無理大量の書物を持たせた。
「私の為だと言うなら、私に自由な時間をもっとください」
ロザリアンヌは心から願う様にマッシュに言ってみたが「足りなければ追加はいつでも受け付けるぞ」そう言って手を振りながら去って行くので、ロザリアンヌは仕方なく諦め書物をマジックポーチにしまった。
「予定を見直さなくてはならなくなったわ」
夏季休暇中の予定を既にきっちり立てていたロザリアンヌは深く溜息を吐いた。
「ロザリーならきっとやれる、私も応援するから大丈夫」
キラルが姿を現し、根拠のない応援をしてくれる。
「そうよね、それに正規の課題じゃないから、全部終わらせなくてもきっと叱られる事は無いだろうしね」
ロザリアンヌは口ではそう言いながら、どうやって終わらせようかと既に考え始めていた。
結局ロザリアンヌは、ポーションの材料とする素材は自分で採取するのは諦め、探検者ブースにある素材売り場で購入する事にした。
そして午前はダンジョン攻略を進め、午後を課題と錬金にあてる事に決めた。
夏季休暇中だと言うのに日の出とともに目を覚まし、そのまま早朝から活動を始めていた。
のんびりダラダラと過ごす時間はまったく無かったが、実のところそれ程苦でもなくそれなりに楽しんでいた。
それははっきりとした成果が目で見えていたからだった。
日に日に進むダンジョン攻略。
それに伴いレベルもステータスも上がっている実感がちゃんとあって、学校が始まったらステータスの確認をするのが今から楽しみだった。
光魔法もかなり多くを使える様になっていて、きっとキラルもかなり成長したのだろうと思われた。
光魔法には一般の回復魔法とはまた別の光属性の回復魔法と、それに浄化魔法に結界魔法と攻撃魔法とがある。
そのどれもがやはり初級・中級・上級と効果や強さ別にかなりの種類があって、ロザリアンヌは既に中級クラスの魔法はすべて使える様になっている。
「この調子なら本科に上がるまでに上級もすべて覚えられそうね」
何気に呟いたロザリアンヌの独り言にキラルが反応する。
「ロザリーってば、光魔法には特級魔法もあるのよ」
「特級魔法って何それ?アンナだってそんな事言って無かったわ。初耳よ」
ゲーム中でもそんな魔法を聞いた事も無ければ覚えた事も無かったので、本当に初耳でちょっとびっくりだった。
「それはそうよ私自身も最近知ったばかりだから」
キラルの説明によると精霊にもランクがあり、ランクが上がる事で得る知識があり、その中の一つとして自分がこれから覚えるだろう魔法として特級魔法の知識を得たそうだ。
ロザリアンヌはきっと以前本で読んだ奇跡の話に繋がるのだろうと何となく納得した。
「それって当然私も覚える事はできるのよね?」
「そうね、覚えるのはできるかも知れないけど、かなりの魔力を使うから使える様になるかは簡単には断言できないわ」
魔法は自分で発現した魔法なら普通に使えるが、精霊を宿す事で覚える魔法や魔導書で覚えた魔法は使えない事があるのは常識と言えば常識だった。
それに精霊の持つ魔力量はかなりのもので、人間であるロザリアンヌがそれにかなうかは自分でもはっきり言って自信はなかった。
「魔力量が問題と言うのならばステータスを上げるまでよ」
それに私には魔力量100%UPとMP消費半減という強い味方もあるしねと、腕に嵌めた銀の腕輪を手で撫でた。
(やっぱり付与効果の移し替えは絶対に失敗できないわね)
ロザリアンヌはそろそろ装飾品のリサイクルや、付与効果の移し替えの練習を始めようと心に決めたのだった。




