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「そもそもロザリアンヌはまだ学生だ。このマジックポーチを1日にそう何個も作れはしないだろう。しかしコレが利益に繋がると考える奴らにはそんな事は関係なく、多くを要求する様になるだろう。そうなれば当然学業になど専念できなくなるだろうな。ジュリオ、おまえも偶にはまともな判断ができたと誉めてやろう」
ユーリはジュリオが他の者に知られる前に自分に相談した事を評価した様だった。
「前回は商人にレシピを売ったと言ったな。だとしたらロザリアンヌが製造元だと隠すためにも形状も名前も別の物に変えた方が良いだろう。その上でまずはおまえがそのレシピを買い取れ」
「形状を変えるのか?」
「そうだ。おまえの考え通りコレは商人達が最も必要とするだろうが、国の采配一つでこの世界の情勢も変わるかも知れないと思え」
商人が必要とするだろう事はソフィアの考えだったが、ジュリオはその辺は詳しくは話してはいなかった。
そしていきなり話が大きくなった事に驚き少しの戸惑いを感じていた。
「食糧事情が激変するだけでなく、国の食料備蓄に関する問題も解決する。その為にもまずはこれのレシピは重要機密として厳重に扱う必要がある」
ユーリの口から重要機密と聞いて、平和ボケしたお坊ちゃまのジュリオも固唾を飲んで話を聞いた。
「まずは魔道具研究施設とは別に優秀な人材を集め研究組織を立ち上げ、コレと同じものを作れる人材を育てる事が最優先だな。その為にも錬金術の地位を認め、錬金術で作られた物にも魔道具同様のロイヤリティを認めるべきだ。その上でコレはそこで作られた物として発表しロザリアンヌの存在を隠すしかないだろう。国が立ち上げた研究組織が相手となれば少なくとも商人どもが騒ぐ事は無い。後の貴族間の権力争いは、おまえが腹を括って足元を固める位の覚悟を持てば良いだけだろう」
ユーリに次期国王となる覚悟を決めろと言われたジュリオは、既に自分がその気になっている事に気が付いた。
ロザリアンヌに初めてマジックポーチを見せられた時、平民の中に埋もれた沢山の才能の存在に思いを馳せ、少しでもその才能を見出し手助けをするのが自分の役目だと自覚した時には次期王としての覚悟ができていたのだろう。
そして今自分にできる事を考え動き出している時点で、今まで流されるだけだった自分が少しは変われたのだと自覚していた。
「そうだな、俺に足りない所は当然おまえが手助けをしてくれるんだろう?できればこのまま俺の傍で働いてくれ」
ジュリオにそう言われユーリは戸惑った。
偏った知識しか持たず、狭い世界に慣れ過ぎた今の自分では、とても王となる者の手助けができるとは思えなかった。
「俺に少し勉強をし直す時間をくれ。それにロザリアンヌが無事に学校を卒業するまでは見守りたい」
珍しく自分を卑下する様な発言をするユーリにジュリオは驚いた。
「おまえも少しは常識や流行に興味が湧いたと言う事か」
「まあ、そういう事だ」
笑い飛ばすつもりだったジュリオに乾いた笑い声を重ねるユーリの反応に、本気で言ったのだと感じジュリオはまたまた心から驚いた。
ユーリは次期国王となるジュリオの手助けをするのなら、国内事情等も詳しく学び直す必要があると考えていた。
(俺もまだまだだな)ユーリは内心で溜息をつき心を新たにした。
そうして二人は深夜遅くまで話は尽きず、久しぶりの学友気分を味わったのだった。
その後魔道具研究施設に錬金術部門が新たに作られた。
そしてそこで開発された収納ボックスと収納バッグが発表発売され、流通界に革命をもたらす事になった。
収納ボックスや収納バッグは500ℓから5000ℓと500ℓ単位別の収納機能だけでなく、時間停止機能や冷蔵機能付きなどの機能別にオーダーメイドで作られ、当然の様に予約が殺到しているそうだ。
冷蔵機能に関しては、ロザリアンヌが単純に暑くなって来たこの季節に冷蔵庫を持ち運べたら便利だと考えた事から開発した物だった。
時間停止機能は無いが、常温の飲み物や食べ物を中に入れておく事で適度に冷やされ、美味しく飲めるのは結構便利だった。
しかしいまだにその殆どの製作は、ロザリアンヌが錬金術店で一人で行っている事は僅か数人にしか知られてはいない。
そしてロザリアンヌが一生困る事など無いだろう資産を築き上げているのを知るのは、ロザリアンヌの祖母であり師匠であるソフィア一人だった。
ソフィアはロザリアンヌが魔法学校を卒業するまでは、勉強の妨げになる事を恐れお金に関して知らせる気は無かった。
ロザリアンヌが魔法学校卒業後、錬金術師として独立できるだけの準備は充分にできたとソフィアは少しだけ安心していたのだった。




