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レヴィアスの説明によると、ロザリアンヌが戦場で天罰を発動させキラルによる回復という奇跡を起こして見せたことで、既にキラルは女神として神格化され宗教ができあがりつつあるらしい。女体化してなかったのに。
なのでそれを利用しその周辺国を纏め上げると決め行動を開始していたようで、レヴィアスの商会も既にこの大陸に到着しているらしい。
(いつの間に?!)
ロザリアンヌはレヴィアスの機動力とそれを実行させる人脈の多さに今さらながら驚いていた。
というか、いつの間に先のことまで踏まえ色々考え行動しているのかと不思議になる。
(まさか眷属支配なんて事を普通にしてたりしないよね? そもそも精霊に眷属なんているかどうか分からないけど、闇の精霊が実は魔王でしたなんて事ないよね?)
ロザリアンヌは今まであまり見ようともしていなかったレヴィアスの凄さを垣間見てちょっとだけ不安になる。
「安心しろ。私はいつもロザリーと共にある。ロザリーの望まぬ事はしないと誓う」
ロザリアンヌの不安が伝わったのか、レヴィアスはロザリアンヌの頭に手を置き優しく囁く。
しかしある意味それは殆ど魔王疑惑を肯定されたようだとは口が裂けても言えなかった。
「うん、分かってる」
「別に武力を行使しなくても国は纏められる。それに同じような文化を持つ国の方が纏めやすい」
「でもそれってかなり準備も必要だろうし時間も掛かるんじゃないの?」
「頭の悪いヤツには力関係を分からせるから大丈夫だ」
ロザリアンヌには何がどう大丈夫なのかまったく理解できなかったが、想像するだけでどこか恐ろしい気がするのは勘違いだと思っておく。
「キラルの女神様化は分かったけど、それと私と神との関連性がまったく分からないわ」
「要は相手が欲する奇跡を見せてやれば良いのだ。キラルとは違う神格化を図る」
要するにこの大陸に明確な神というか宗教を誕生させようとしているのだろう。でもそんなに幾つも宗教を作ったら今度は宗教同士が争うことにならないのだろうかと心配になる。
それにレヴィアスの言いたい事はなんとなく理解できたような気がするが、ロザリアンヌが神様になるにはちょっとどころではなく無理がある気がする。
まず容姿がテンダーだけでなく、女体化したキラルやレヴィアスにも負けるモブ属性だ。普通すぎる。
神様って大抵顔がはっきりしてなかったりする事が多いけど、女神様の容姿は眩しいほど端麗な方が間違いなく広まりやすいだろう。だって女神様だよ。
美しい人が奇跡を起こすからありがたいんだよきっと。『イケメンに限る!』ってやつだ。
だから例えばロザリアンヌとテンダーと同じ奇跡を見せたとしても、きっとテンダーは感謝されるだろうがロザリアンヌはすぐに忘れられる自信がある。
それに人々が恐れるような力を使って見せたら、間違いなくロザリアンヌは女神ではなく悪い魔女として恐れられる未来しか見えない。
「キラルとは別の神格化は分かったけど、それって人選を間違ってると思うよ」
「他に欲深い人間の多種多様な望みを叶える奇跡を見せられる者など居ないだろう」
「誰が奇跡を起こすのかではなく誰に起こして欲しいのかってのがあるのよ。人間の感情的にはね」
「そういえばそうだったな。本当にくだらない」
レヴィアスは吐き捨てるように言い放ち顔を顰めた。そういう肝心なところを失念してたんだろう。
「私はテンが適任だと思うの。黙ってれば本当に女神様に見えなくもないし」
普段のちょっと残念なテンダーに慣れ親しんでいるレヴィアスは懐疑的な表情を見せるが、人間基準で言うと間違いなく殆どの人が認める美人さんだ。
キラルの笑顔に人々が癒やされるのとはまた違った効果がテンダーの笑顔にはあると思う。ただし本当に残念なことに黙っていればなのだが・・・。
「わ、私ですか?」
突然名前を出されたテンダーは慌てて素っ頓狂な声を出す。今までまったく興味もない話をしていたので完全に油断していたのだろう。本当にテンダーって分かりやすい。
「そう。今までどおり黙って微笑んでいてくれれば良いわ」
「でも私には貴妃様の側仕えの仕事があります」
どうやらテンダーは貴妃様をかなり気に入ったのか、それとも一緒にいるのが余程楽しいのか、それとも本気で守りたいと思っているのか珍しく抵抗していた。
「そうだった、まずはそこから解決させなくてはならないんだった」
この貴妃様の宮殿は本当に人が少ない。今まで側仕えをしていた侍女長と侍女を排除してしまったので尚更だ。
「それならすぐに解決する」
「えっ?」
この深刻な人手不足がどうやったらそんなに簡単に解決するのかと疑問に思う。
「父君の借金問題は近々解決するので新たに使用人の要請を出しておいた。適任者もすでに派遣してある」
「・・・」
(借金の問題って簡単に解決するものなの? まさかレヴィアスがお金を出した? 適任者を派遣っていったいどこからどこへ? それに何基準の適任者? いつの間にそんな人を見つけたの?)
ロザリアンヌの頭の中には聞きたいことが次から次へと渦巻いたが、もう既に先読みして使用人問題にも手を回していたのだと理解し本当に驚くしかなかった。
「後は誰を祭り上げるかの問題だが、候補としては・・・」
ロザリアンヌにはまったく考えが追いつかないが、既にレヴィアスの中ではあれこれと未来に向けた計画が立っているのだろう。
だとしたらここはいつもどおり大人しく任せるしかないと思うのだった。




