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「えぇぇーー、何よそれ!」
ロザリアンヌはキラルとレヴィアスが諜報活動により集めて来てくれた情報を聞き思わず叫んでしまう。
あまりにも複雑な人間のドロドロとした事情や感情が彼方此方で渦巻いていて、ロザリアンヌの感想としてはまるで韓流ドラマのようだと思ってしまった。
ボンクラ女好きの現皇帝を廃し次期皇帝を擁立しようと企む派閥が虎視眈々とする中、現皇帝を操り私腹を肥やそうとする輩もいて今貴族社会は政そっちのけ。複雑怪奇で誰も結果を予測できない状態らしい。
それに次期皇帝を狙う派閥は一つじゃ無いというのがまた恐ろしい。現皇帝の子供も多いしね。
皇后は他国から和平協定のために嫁がされて来たそうで、婚姻の時に皇帝の顔を見たきりでお飾りにされている事に不満を抱いているとか。
その不満が拗れに拗れ、こんな国に自分を嫁がせた自国も、そして地位だけを与えそのまま放置の皇帝もみんな滅べば良いと考えるようになったらしい。
そしてあまり長く一人の女に執着しない皇帝が珍しく執着を見せた貴妃様を標的にし、現皇帝を廃そうと企む派閥に知恵を貸しつつ自国に今ならば簡単に国を落とせると唆し戦争の準備をさせていた。
皇后はどちらの国が勝つかとか誰が皇帝になるかなど結果にはにはまったく興味も無く、ただただ現皇帝を滅ぼしたいと思っているようだった。
シナリオ的には貴妃様が亡くなった事を悲しみ衰弱したとか自死したと言う事にして、皇帝をも毒殺する予定だったらしい。
貴妃様はある意味本当にタイミング良く色んな人の色んな思惑が重なり合った結果殺されかけたのだ。
「助けられて良かったね~」
キラルはニコニコと笑顔で言うが、ロザリアンヌはなんだかモヤモヤしたものを抱えていた。
確かに貴妃様の命は救えたが、侍女長といい皇后といいこの後宮には報われない女が多すぎる。
別に罪を犯した侍女長や皇后を擁護するつもりはないが、皇帝がしっかりと国を治め皇后にも誠実に接していたら多分起きなかったいざこざだ。
「本当にボンクラ皇帝なんて滅んでしまえば良いのに」
ロザリアンヌは感情にまかせ思ったことをつい口にしていた。
「それでどうする?」
「どうするって?」
レヴィアスの問いにロザリアンヌは何を聞かれたのかさっぱり見当も付かなかった。
「証拠らしい証拠は見つけられなかったが企みの全貌はほぼ暴けた。誰をどう成敗するんだ?」
「成敗するって・・・」
「このままでは貴妃様を完全に守ったと安心はできないだろう?」
「そうだけど・・・・・・」
正直ロザリアンヌにできることなど何も思いつかない。
証拠も無しに声高に貴族や皇后の罪を叫んだとしても、その声がどこに届くかなんて知れたものではない。
皇帝のボンクラ振りを諭すこともできなければこの国の政に参加することもできない。
せいぜいがやられたらやり返すの精神で暴力に訴えるくらいのことしか思いつかない。
だけど悪事を企む貴族や皇后を脅し大人しくさせる事が本当の解決になるのかロザリアンヌには分からなかった。
かといってレヴィアスの言うようにこのまま何もしないでいるのは不安しかないし、それは何の解決にもならないのは分かっている。
「この大陸には国の数が多すぎる。この際幾つかに纏めてしまうか」
「な、何を言い出すの?!」
「新たな国を作ればすべて解決できるぞ」
ロザリアンヌはレヴィアスのいきなりの提案に目玉を丸くする。冗談を言っているようには思えないが、正気なのかと問いたくなる。
「調べてみたが大抵のダンジョンは秘匿されていて中に入るには所有する国の許可がいるらしい。面倒だろう?」
新しい国を作る話をしていたはずなのにダンジョンの話をされ、ロザリアンヌは驚くより何を考えて良いかも分からなくなる。煙に巻かれている感じだ。
「でも大変じゃない?」
この大陸はかなり広くその中で日本でいうところの都道府県の大きさで国が存在し、その数は五百を超えるかも知れないと言う。
あくまでもレヴィアスの推測での話で、事実どれだけあるのか正確には分かっていないらしい。
「戦争をしている国など山ほどあっただろう? どこに手を貸すか決めるのが面倒なだけだ。問題ない」
レヴィアスは簡単そうに言うが、ロザリアンヌは前世で観た天下統一アニメを脳内再生させながら言うほど簡単でもなさそうだと考えていた。
でもダンジョン攻略に国の許可がいるのは面倒と言われれば面倒だ。
テンダーの居たエルフの森のダンジョンですら面倒だったのに、きっとあれ以上に不便で窮屈な思いをするのだと思うとレヴィアスの提案に乗りたくもなる。
「私は何をすれば良いの?」
「神でいてくれれば良い。後は任せておけ」
「神って・・・」
何の冗談を言っているのだとロザリアンヌはポカンとしてしまう。
せめて戦場の女神とか言ってくれた方がやる気も出るしテンションも上がるのにと思いながら、レヴィアスの真意を探る。
「神は神だ」
ニコリと笑うレヴィアスの表情から考えを読むことなどロザリアンヌにはできなかった。




