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「ジャーン!!これなんだと思う?」
平日午後のほぼほぼ日課になっているダンジョン攻略をしようとアンナを誘いに魔導書店に顔を出すと、ニコニコ笑顔満面のアンナが待ちかねたようにロザリアンヌに差し出して来た物がある。
一冊の魔導書である。
アンナには珍しい子供じみたアクションに戸惑いながらも、これ程勿体ぶっている所を見るともしかしてと心の中で明るく閃くものがあり、ロザリアンヌはその答えを求めて表情を明るくする。
「もしかしてできたの?」
「そうよ、お待ちかねの時間魔法よ!」
「やったぁーーー!!」
ロザリアンヌはその答えに心から喜び思わず奇声の様な声を上げてしまう。
「ロザリアンヌからずっと聞いていたでしょ、時間を早めたり止めたりできる魔法は無いかって。何故か急に閃いたのできそうだって。如何すれば良いのかって。もうね居ても立っても居られなくてちょっと頑張ってみちゃった。でも空間と言うか範囲を指定する感じにしかまだ使えないのよね残念なことに」
アンナは少しがっかりした様に肩を落としたが、ロザリアンヌにはそれでも上出来な結果だと思っていた。
そもそもマジックポーチの空間内の時間を止めたいと考えていただけだし、デバフでストップとかバフでヘイストをかけられる様になるかも知れないが、ロザリアンヌは魔法として使うのではなく、錬金術で付与できる能力して使うつもりだから空間の指定ができれば問題無いと思われる。
実際にやってみない事にはまだ何とも言えないが・・・
それにしてもアンナのお陰でロザリアンヌの願いも叶い、錬金術での付与効果の可能性も広がったと言うのは事実だ。
闇の精霊に出会えるのはいつになるかと諦めかけていたが、こうして解決して良かったとロザリアンヌは心から喜んだ。
「やっぱり、ウィルとアンナのステータスが上がったのが影響したのかしら」
ロザリアンヌは自分の考えを口にしてみた。
「多分そうだと思うわ。考えてみたら私、魔法学校にいた頃は魔法の研鑽に励んだ事もあったけれど、学校を辞めてからは魔導書にかかりきりでステータスを伸ばす事も魔法の研鑽もずっと疎かにしていたと思う。ましてやウィルが光の精霊じゃ無くなってからもずっとそのままだった。ウィルは無属性の精霊として、そして無属性の精霊を宿した私も何も始めていなかったのよね。今まで使えていた光魔法も使えなくなって当たり前なのよ、だって適性が無くなったのに私自身にステータスを上げてでも使える様になろうとする気概が無かったんだもの。ロザリアンヌのお陰で色々学ばせて貰ったみたい。だからこの魔導書はお礼だと思って受け取って」
アンナは本当に進呈でもする様に両手で魔導書を持ち頭を下げた。
「私のお陰と言うよりそれに気付けたアンナが凄いんだと思うよ。切っ掛けは私だとしても、実際に決断して行動したのはアンナなんだから。でも折角だからこの魔導書は有り難くいただいちゃうけどね」
ロザリアンヌも頭を下げ勿体ぶった仰々しい動作で両手を差し出し魔導書を受け取ると、その場で時間魔法を習得して行った。
「本当にありがとうアンナ、これで私のマジックポーチも最終形態の物になるのは間違いないわ」
「でも今日はダンジョン攻略には行くわよね?」
今にも錬金術店に戻りマジックポーチの改良を始めるとでも思ったのか、アンナは確認する様に聞いてくる。
「当たり前よ、ダンジョン攻略もまだまだ止める気は無いわ。私だってもっとステータスを上げたいもの」
「じゃあ私もまだしばらくはお供させてね。せめて使えなくなった光魔法が使える様になるまでは頑張りたいの」
アンナは覚えた光魔法を忘れた訳では無かった。
だからもっとステータスを上げれば、例え以前ほどの威力は無くても使える様になるだろう。
使える様になればまた魔導書を作れる様になると、希望的な考えではなく確信めいた思いを抱いていた。
「勿論私からもお願いします。それでお願いついでにもう一つ考えて欲しい魔法があるの」
「今度はどんな魔法かしら?」
「物体を軽くしたり重くしたりできる重力の魔法なんだけど、その魔法があると色々と便利になりそうな気がしない?」
「重力の魔法?それっていったいどんな魔法なの?」
「そうね重い物を軽くできれば移動や持ち運びが便利になるでしょう。軽いものを重くできれば風で飛ばされなくなる。例えば魔物を重くしたら動きが鈍くなりそうな気がしない?逆に私を軽くしたらもっと速く動けるんじゃないかと考えているの。簡単に言うと物体の重さを変えられる魔法って感じかな。如何かしら?」
「面白そうな魔法ね。分かったわ色々考えてみるわ」
空間魔法に時間魔法を作れる様になったアンナなら、きっと重力魔法も作ってくれるだろうとロザリアンヌは考えていた。
アンナに対しての絶対の信頼と、無属性精霊というウィルの可能性を信じてみたかった。
無属性の魔法にどんなものがあるのか、図書館の記録にも何も無かった。
多分ウィルがこの世界で最初の無属性精霊なのかもしれない。
だから思いつくままに要望を出して、無属性魔法の可能性を色々と確かめたかった。
きっとそれはアンナとウィルの為にもなるだろうと、ロザリアンヌは信じていた。
そして重力魔法が出来上がったら次は身体能力強化に関するバフ魔法も色々考えて貰おうと、顔にも口にも出さず内心で一人目論むロザリアンヌだった。




