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女体化したキラルの見た目年齢は十七・八歳くらいで、ロザリアンヌから見てもとっても可愛らしい少女だった。
今現在のキラルの姿を成長させ少女にしましたって感じなので、違和感はあまりなくすぐに受け入れられた。
見た目を成長させたのは今回の任務を考えての事らしい。そりゃそうだ児童を後宮にねじ込むのはやはり難しいだろう。
そして女体化したレヴィアスはそれはそれは妖艶な美女で、そのなまめかしい色香にはロザリアンヌも惑わされそうになるほどだった。
流し目の威力がハンパないというか、見詰められたら魅了どころか石化でもしてしまいそうな雰囲気さえある。
そこに正統派美女のテンダーが並ぶと正に圧巻。誰もが目を奪われ心を奪われるのは間違いないと思われた。
(あ、あれぇ・・・。私ってもしかしなくても引き立て役にもなれてない?)
ロザリアンヌは自分の姿か霞み存在が薄くなったような気がしていた。
(まぁ、でも、美人は三日で見飽きるって言うしね。私にだって多少の魅力はあるはず!)
自分自身を慰め気持ちが落ち込まないように奮い立たせるが、どこか空しさを抱え気分はあまり上昇しないロザリアンヌだった。
「それより呼び名だよね」
「別に変える必要もないだろう。どうせこの国の者達に意味など通じない」
「そりゃそうなんだけどさぁ・・・」
「変えたいの?」
「なんて言うか、折角女性になったんだから名前も女性っぽいのがいいのかなって」
「女性っぽい名前ですか!」
「ああ、でもごめん。よく考えてみたら今さら名前を変えても呼び間違えそうだよね。う~ん・・・。キラ、レヴィ、テンで行こうか。それだったら間違えないだろうし不自然じゃないよね?」
「僕はいいよ~」
「どうでもいい」
「テンって・・・」
テンダー以外は納得してくれたようだが、それよりももっと重大な問題が発覚した。
「三人とも、その言葉遣いは無いわ! 折角の美人さん揃いなのにその言葉遣いですべてが台無しよ! 三人とも今夜は言葉遣いと仕草の特訓ね!!」
「「「・・・」」」
「明朝までに仕上げるわよ。頑張りましょう」
そうしてキラルとレヴィアスとテンダーの三人は女性らしい仕草と言葉遣いの特訓を開始した。
先生がいなかったので手本となったのはロザリアンヌの持つ二次元で仕入れた記憶だけだったが、まったく無駄ということも無くどうにか形にはなったと思う。
それにしても元々の資質なのか三人とも本当に飲み込みが早く、ロザリアンヌは羨ましいと言うより妬ましくなるほどだった。
「私はエリスを手本にしてみたの。ふふ、どうかしら?」
ロザリアンヌの前でクルッと軽やかに楽しそうに回ってみせるキラル。
(えっとぉ、私は手本にはなれませんでしたか・・・)
キラルは純真無垢で可憐な少女になりきれている。本当に見事なほどに聖女様のようだ。
「私もアイラを参考にしてみた」
(大賢者様は尊大な態度と言葉遣いがデフォだったんですかね?)
そこにただ佇んでいるだけなのに、オーラが凄いというか存在感がハンパない。普段のレヴィアスは寧ろ存在感を消している風なところがあるので、本当に同一人物なのかと首を傾げたくなる。
もしかして普段はどこか遠慮しているところがあるのだろうか?
それにしてもレヴィはその妖艶さと尊大な態度が相まって、思わず跪きたくなる雰囲気を醸し出している。正に女王様属性って感じだろうか。
「わたくしはいかがです!」
テンダーは扇で口元を隠しその立ち姿は凜として美しく、すっかりどこかの悪役令嬢のような仕上がりだった。
(私の二次元知識を参考にしたのは結局テンダーだけって事?!)
ロザリアンヌはかなり協力した気になっていたが、結局はたいした事ができなかった事実にガックリと肩を落とす。と同時に重大な事実を思い出した。
「あっ、そうだ。テンダーは言葉が通じないからしゃべれない設定にするんだったよね」
「あらまあ、わたくし一生懸命覚えましたのよ」
「ごめん。でもきっと無駄にはならないよ。多分・・・」
本来のテンダーだったらここで『えぇーー!』とか言いそうなところなのにと、ロザリアンヌは心からびっくりしながらこのまま悪役令嬢のような仕上がりで良いのじゃないかと思っていた。
折角の美人さんを台無しにする情けない大人ムーブより、悪役令嬢の方が絶対にテンダーに似合っていると思う。しかしそうなるとちょっと寂しさを感じるかもと複雑な心境のロザリアンヌだった。




