276
「かなり大きな大陸だね」
「マーニアル大陸だよ」
外の風景を眺めながら呟くロザリアンヌに、肩に乗ったチョロイがシュークリームを食べながら教えてくれる。
先に大陸のマップを埋めてしまおうと決め、ひたすらステルスモードで飛行艇を飛ばしているが、まだまだ大陸全土を埋められずにいた。
「いったいいくつくらい国があるんだろう」
「僕も詳しくは知らないけど五十は超えてたと思うよ。統合されたり分裂したり忙しいみたいだからはっきりとは言えないけどね」
「なんでそんな事になってるの?」
「守護者の能力以上に広い大陸を担当して手が回らないんじゃないかな。それかテンパっちゃってるのかも」
「なにそれ、チョロイは殆ど寝てて何もしてなかったのに人の事は言うよね。手伝ってあげれば良いのに」
「何の話? 僕はダンジョンを守る神だったんだから知らないよ。あ~、眠くなっちゃった」
チョロイはシュークリームを食べ終わりお休みモードに入る。多分都合が悪い話になって逃げたんだろうとロザリアンヌは詮索する。
「ロザリー見て、下では今戦争の真っ最中って所だよ」
「あ、あれが戦争ですか!」
ロザリアンヌの知識の中で戦争というと、モノクロ映像で見た事のある第二次世界大戦とか秦の始皇帝が天下統一を目指すアニメにドラマで見た戦国時代が頭に浮かぶ。
しかし今砂埃を舞い上げながら何もない荒野で戦っている様子は、それらとはまったく違って賑やかで派手だった。
彼方此方で色とりどりの魔法が炸裂し合い、人間とは別に色んな魔物が入り乱れ戦い合っている。
「あれって魔法大戦争って感じかな。それにあの魔物達はもしかしたらテイムされてる魔物なのかも」
色とりどりに放たれる魔法はロザリアンヌの使う初級魔法ほどの威力を感じなかったので興味も持てなかったが、ここへ来て初めてテイマーの戦いを見て少し興奮していた。
しかしロザリアンヌから見てもあまり強そうな魔物が居ないことにガッカリする。
「リュージンとドラゴを呼んだら大騒ぎになるかもね。あっ、でも本気でスライムをテイムして最強に育ててみようか」
「ふん、何を馬鹿なことを」
「あらっ、スライムをテイムして育てると最強になるのよ。知らないの?」
「ロザリーがやりたいなら別に反対はしない。だがあの馬鹿げた争いは見てられないな」
テイムに興味を引かれ興奮しているロザリアンヌとは違い、レヴィアスは争いに空しさを感じているようだった。
確かにロザリアンヌが知る戦争とは雰囲気がまったく違うし、レヴィアスが言うほど深刻になれないのは殆どが人間同士というより魔物同士の争いで、暴走した魔物の討伐という感じに見えたからだろう。
「強制的に終わらせる? でもどっちが悪いのか分からないからどっちの味方もできないよ」
「あれ程の争いにどっちが悪いなんてないだろう。どちらにも正義があるのだろうからな。私も別にあの争いに介入したいとは思わないがただ見ていられない」
「じゃあ戦争を始めた罰を与えちゃいますか。どのみちあの場に居る人達はみんな死ぬ覚悟があるんでしょうから少々痛い目に遭っても構わないわよね」
ロザリアンヌはレヴィアスが何を望み何を言いたかったのかはっきりと理解できていなかったが、戦争を止める手段は考えついていた。
争い合う場所を中心にして、威力を下げてはいるがなるべく広範囲戦場全体を意識して魔法を放つ。
「雷暴風雨【テンペスト】!」
辺り一面に急激に暗雲が立ちこめ雷と風と雨による暴力が始まる。突然起こった嵐にさっきまで争っていた戦士達は逃げ惑う。
そして彼方此方に立ち上る竜巻が両陣営の拠点に向かい移動し、逃げ遅れた戦士達を巻き込みながら戦場を荒らして行く。
「天罰と知りなさい!」
ロザリアンヌは魔王にでもなった気分で上空から戦場が壊滅される様子を眺め見ていた。
「確かにこれじゃ戦争も続けられないね」
「戦争にはかなりの準備も必要だからな」
「・・・・・・」
キラルとレヴィアスは少々呆れ気味に話すが、テンダーにはショックの方が大きかったのか固まったまま言葉もなく佇んでいる。
「念のために負傷者の回復に行こうか」
ロザリアンヌがマジックポーチからポーションを取り出し、回復手段を持たないレヴィアスに手渡そうとするとキラルがそれを止めた。
「ここは僕の出番でしょう」
キラルは成人した精霊体に姿を戻すと魔導艇から出て、戦場に『光の精霊の奇跡』を放ちながら負傷者を回復して行く。すると回復され元気になった戦士達はキラルに手を合わせ口々に神の奇跡だと讃え始めた。
「キラルってば派手にやってるわね。目立ちすぎじゃない?」
「ロザリーにだけは言われたくないと思うぞ」
「ロ、ロザリー様。あ、あれはいったい・・・」
復活したかに思えたテンダーも精霊体になったキラルの起こす奇跡を目にし、信じられないとばかりに顔をこわばらせている。
そういえばテンダーはキラルとレヴィアスはロザリアンヌに宿る精霊だと話したので知ってはいたのだろうが、精霊体となった姿も本来の力も今初めて目にして漸く精霊だと理解できたのだろう。
「キラルってテンダーが考えている以上に凄いのよ。勿論レヴィアスもね」
「私は本当に凄い人と知り合ったのですね・・・」
テンダーの呟きはよく聞こえなかったが、ロザリアンヌはわざわざ確認する事はせずに魔導艇に戻ってきたキラルを笑顔で出迎えるのだった。




