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「それじゃあ次の大陸に向けて出発よ!」
ロザリアンヌはペナパルポが他国と交易を始めるのを待とうかとも思ったが、そもそもレヴィアスが連れて来たジェードの居るクトラ大陸の人々と転送ボックスを使い既に交易を始めている。
となると、交易を始めたいと言っていたジュリオやユーリの他に噂を聞いた冒険者達の到着を待つ事になるのだと気づき、別にそこまでしなくても良いかと判断した。そこまでロザリアンヌが関わる必要もないだろうと。
それにダンジョンの存在をこの大陸の他の人々も周知し始めているようだし、少なくともこの大陸で今までのような争いや新たな争いが起こらないように既に大陸の守護者に願ったのだから、後はこの大陸の人々が解決していく問題だ。
「次はどこへ行くの?」
あと行っていない大陸は四つ。次の大陸で半分を踏破できるのだと思うと、このまま適当に飛んで見つけるより、世界地図を順番に埋めていく方が効率が良いだろうとロザリアンヌは考えた。
「このまま世界地図を埋めるように飛んで、最初に見つけた大陸に上陸しましょう」
「操縦は任せてくれ」
当然のようにレヴィアスが操縦室に立つので、ロザリアンヌもなんとなくの定位置である魔導艇の隅に移動する。
夕べはペナパルポ達ポナペティーの人々と盛大に騒ぎ、送別会のような事をして既に別れは済ませている。
ペナパルポはとても別れを惜しんでくれたが、転送文箱も渡したし必要があればまた戻ってくると納得させた。
多分ペナパルポのみんなを思う情熱があれば、ロザリアンヌの手助けがなくともきっと優秀な錬金術師になれるだろう。
そしていずれはこの大陸に錬金術を広めてくれるとロザリアンヌは確信している。
「頑張ってねペナパルポ、私も負けないから」
ロザリアンヌはそっと呟くと次の大陸ではどんな出会いが待ち受け、どんなダンジョンが用意されているのかワクワクし始めていた。
「見えてきたぞ」
「えっ、もう?」
飛び始めてまだそれ程時間も経っていないのに、既に水平線上にはっきりと大陸が見えている。
「こんなに近くにあったんだね」
「随分と大きそうじゃないですか!」
「どうするんだ。すぐに降りるか。それともしばらくステルスモードで様子を見るか?」
レヴィアスの問いにロザリアンヌはしばし悩む。
メイアンは乙女ゲームの世界観がそのまま反映されていたので何の問題もなかったし、ジェードの居たクトラ大陸は異世界もの定番の中世風世界だった。
ロザリアンヌは心のどこかで大陸の守護者が居る世界だからという思いがあった。作られたファンタジーな世界で基本は平和なのだろうと。
しかし先ほどまで居たノクスナット大陸はとても閉鎖的で共産主義で、ロザリアンヌ達はたまたま街に寄る前にダンジョン攻略を始め、ペナパルポと出会った事で余計な諍いは避けられた。
しかしどこかの街に何も知らずに足を踏み入れていたらきっと面倒な事に巻き込まれ、ダンジョン攻略が捗ることはなかったかも知れない。
運が良かったのか悪かったのかは分からないが、少なくとも平和でウエルカムな国ばかりではない事は学んだ。
多分だがその大陸の守護者の性格や考え方みたいなものが、きっと大陸にも影響しているのだろう。
だとしたらこの大陸がどんな所なのか少しは探った方が良いのではないだろうかと考える。
「少し様子を見ようか」
「そうだな。かなり大きな大陸のようだし、ダンジョンもどのくらいあるのか把握しておくのも悪くないだろう」
レヴィアスも大陸の様子を見てから上陸するのに賛成のようだし、先に大陸のマップを確認してから上陸し、ダンジョン攻略を始めても時間の無駄と言うことはないだろう。
「ご飯の時間だよ!」
ロザリアンヌがレヴィアスに何か言おうとしたタイミングでチョロイが時刻を知らせる。
「そうだチョロイ。あの大陸がどんな所か何かしらない?」
「あの大陸って言われても、僕には分からないよ」
「ほら、目の前に見えてるあの大陸の事を聞いてるのよ」
ロザリアンヌは魔導艇の壁を透明にして外の景色をチョロイに見せ、既に間近に迫る大陸を指差した。
「あ~ぁ、多分賑やかな所だと思うよ」
「賑やかって、お祭りなんかで楽しいって感じ?」
「そう言うんじゃなくて、う~ん、上手く説明できないなぁ。行ってみれば分かるよ。それよりご飯の時間だよ!」
まったく良く分からない説明にもっと詳しく聞きたい思いはあったが、ご飯と言い出したチョロイは何か食べさせるまで話を聞かなくなるのでロザリアンヌは諦める。
(テンダーといいチョロイといい、食いしん坊が集まるようになってるのかしら・・・)
ロザリアンヌは内心で溜息を吐いているとキラルが錬成鍋を手に返事をする。
「すぐにできるから待ってて」
「今日は何を食べさせてくれるの?」
「私も楽しみです!」
テンダーもキラルに叱られたのが余程響いたのか、相変わらずフードファイター気味ではあるが少しは考えを改めキラルに許して貰えたようで、今ではチョロイの知らせるご飯の時間を楽しみにし、みんなで一余に食べるご飯を喜び美味しいと言うようになっている。
変われば変わるものだ。
なので食事の時間がより一層賑やかになったのはロザリアンヌにとっても嬉しい事だった。




