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新しい衣装に身を包み、気持ちも一新、テンション高く次のフィールドを探し鍵を使い扉を開いた。
すると予想通りまたもや石造りの街が目の前いっぱいに広がり、そしてこの街の住人だと言わんばかりにオークが街を占領している。
多分子供や大人といったところか大小様々のオークに、性別や種族が違うのか若干の見た目や色が違うオークも居た。
ロザリアンヌはさすがに子供のオークに手を出すことができず、襲ってくるオークややたらと強そうなオークを選んで倒して行った。
そしてサクサクと街の探索を進め、後はボスの出現を待つばかりと出現場所を探し時間を待った。
そうして現れた超巨大オークを全員でフルボッコにして鍵を手に入れると、その場に隠れ家を設置し朝まで休憩してから次へと攻略を進める。
もう既に要領を得たロザリアンヌ達は、次のトロルの街もその次のオーガの街も、次の次のサイコルプスの街に次の次の次のミノタウルスの街と攻略を進めて行く。
そしてミノタウルスから手に入れた黄金色に輝く鍵は、今までと違う場所へ誘われる予感を持たせた。
ロザリアンヌはその黄金色に輝く鍵を手に螺旋階段を下りて行くとその鍵穴はすぐに見つかった。
鍵を鍵穴に差し込むと自動的に回転しカチャリと鍵が開く音がして扉が開く。当然のように扉の外から中を窺うことはできなかったが、ロザリアンヌ達は躊躇することなく足を踏み入れた。
意外なことに中は街ではなくただの石造りのだだっ広い空間だった。広さ的にどこかのドーム球場全体分はあるだろうか。
ロザリアンヌ達がゆっくりとその空間を確認するように歩き始めると、その中央に黒い渦が現れボスの出現を予感させる。
ロザリアンヌ達がその渦へ向かい一斉に走り出すと渦はどんどん大きくなり、中から現れたのは黒い馬に跨がったデュラハンだった。
とても作りの良い鎧に身を包み、名のありそうな剣を片手に持った首のない騎士。一説には妖精とも言われている死霊騎士。
そのデュラハンはロザリアンヌ達を確認すると剣を掲げ迷うことなくロザリアンヌ達に向かって来る。
ロザリアンヌは接近戦を諦め魔法の発動を準備する。レヴィアスは相変わらず魔導銃で魔弾を撃ち、テンダーは弓をつがえ、キラルは迷う事なくピコピコハンマーを振り上げジャンプしていた。
ロザリアンヌはキラルがピコピコハンマーを炸裂させ、デュラハンから離れたのを確認して魔法を発動させる。
「光魔槍雨【シャイニングレイン】」
ズサズサズサズサズサズサッ!!
すべての光の槍を躱す事ができず、デュラハンは馬とともに光の槍に打ち抜かれ、ゆっくりと光の粒となり消えていく。
ロザリアンヌがボスのドロップを確認するべく待っていると、そこに現れたのはダンジョン神だった。
今まで祭壇に神々が愛する食材を供えると現れていたダンジョン神。
シルエットは丸いフクロウの子供にも見える、まん丸でモコモコでふわふわそうな王冠を被った黄金にも見える不思議な色のダンジョン神。
つぶらな瞳に細い手足の不思議なそのダンジョン神は、何かを待つように空中に浮かび手足をブラブラさせている。
「あぁ、今すぐにお供えします」
ロザリアンヌは急ぎマジックポーチから神々が最も愛する酒にキノコに果物に貝にチーズに芋に蜜にパンを取り出し捧げた。
「良かった。もうちょっと待っても何もないようなら攻撃開始するところだったよ」
ロザリアンヌは以前苔玉神に襲われた時の事を思い出し、戦闘にならずに済んで良かったと胸を撫で下ろした。
「その食材を使った料理も食べてみたくないですか?!」
「これを使った料理?」
「とっても美味しいんですよ!」
「それは是非食べてみたいな」
「ですって、シェフ! 是非作ってください!」
テンダーはキラルが以前作ったグラタンを余程また食べたかったのか、ダンジョン神にかこつけて提案していた。
「良いけど、テンダーは自分の分は自分で作りなよ」
「えぇ~、なんでですか?!」
「テンダーは僕が作ったのをもう三人分食べただろう? 神様が僕たちと一緒に食べても良いと許してくれるなら僕はあの時食べそびれた僕とレヴィアスとそれとロザリーの分は作るけど、テンダーは別にみんなと一緒じゃなくても平気なんだろ? だったら自分で作って一人で食べなよ」
ロザリアンヌが諍いになったと話した時は別段たいした反応を見せていなかったのに、キラルも実は色々と思うところがあったようだ。
「そんな意地悪言わないでくださいよぉ~」
「特別な料理だったんだよ。その特別の意味が分からないテンダーには特別なものは今後一切作らないって決めたから。これは意地悪で言ってるんじゃないよ」
キラルの本気が伝わったのかテンダーは何故か涙を流し始めた。
「神様、僕たちも一緒に食べても良いですか?」
「君が作ってくれるのだろう。だったら僕に聞くまでもないだろう。楽しみだよ」
キラルはダンジョン神の返事を聞き、急ぎ神々が愛するグラタンを作り始める。
「グズッ。グズッ。そ、そんな、私だけ食べられないなんて、グズッ。み、みんなが食べるのを見ているだけなんて、グズッ。そ、そんな残酷なこと」
「みんなで食べようと思っていたものを一人で食べちゃったテンダーはもっと残酷で罪深いよね。それに材料はあるんだから食べたければ自分で作ったら良いよ」
グズグズ言うテンダーの言葉を遮りキラルが言い放つ。
「あの時は言いつけ通りロザリー様が目覚めるのを待って一緒に食べました!」
「どうして僕とレヴィアスを呼ばなかったの?」
「そ、それは、待ちきれなくて・・・」
「あの時の僕とレヴィアスの気持ちは今のテンダーときっと変わらない思いだよ。テンダーにしたらたかが一食の事だろうけれど、それでは済ませられない思いもあるんだよ」
「す、すみませんでしたぁ~」
「何がすまないのかちゃんと分かるまで許す気はないから」
キラルはグズグズに泣き崩れるテンダーを放って、できあがったグラタンをみんなに配り始める。
「おぉ、これは本当に美味しそうだね」
「どうぞ召し上がってください」
キラルの合図にダンジョン神はその細い手に器用にフォークを持ち食べ始める。
「ぉ、美味しい~!」
ダンジョン神の満足そうな反応を見てキラルとレヴィアスも食べ始めるが、ロザリアンヌは傍で恨めしそうにみんなを見詰めるテンダーが気になって食べることができなかった。
やはり見せびらかして食べるなんて、たとえテンダーが相手でも気が引けた。
「テンダー、今回はあの時一緒に食べた罪もあるし半分分けてあげる。それで満足してね」
テンダーは言葉もなく高速で何度も頷いた。
「ロザリーってばホント甘すぎるよ」
「分かってる・・・」
それでもやはり仲間内で誰か一人をのけ者にはできないのだからしょうがない。
ロザリアンヌはテンダーに半分取り分けて渡すと、あの時をやり直すようにみんなで神々が愛する食材で作った特別なグラタンを食べたのだった。
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