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「このフィールド内にこの鍵を使いそうな場所は無かったな」
「こんなに大きな鍵だから見落としてはいないと思うんだけど」
キラルとレヴィアスはロザリアンヌが休んでいる間もダンジョン内を探索してくれていたようだ。
「家の鍵にしては大きすぎるし、どこかに大きな宝箱でもあるのかしら?」
「そんな物があればさすがに気づくと思うぞ」
「隠し部屋も見当たらなかったしね」
鍵の使い場所の見当が付かないので取り敢えず朝食を済ませ、このフィールド内は既に隅々まで探索を終えているので螺旋階段を下り先に進む事にした。
そして街を出て螺旋階段まで戻りまた慎重に下りて行くと何もない壁に不自然な鍵穴を見つける。
「もしかして」
ロザリアンヌがさっきの街で手に入れた鍵を差し込むとカチャリと音を立てて自動的に回り、何もなかった筈の壁に扉が現れゆっくりと開いた。
「鍵を手に入れないと次のフィールドへは行けないって事ね」
ロザリアンヌはこのダンジョンの仕様をなんとなく理解し、中がまったく見えない扉を躊躇なく潜る。
そこには思った通りにまた街があった。さっきの街とは少し雰囲気が違うが、石造りの建物が目立つ似たような作りの街だった。
ただここはゴブリンではなくコボルトとハーピーが跋扈する街だった。
ロザリアンヌは多分鍵を持っているだろうボスを探し街を探索するが、それらしい魔物を一向に見つける事ができないでいた。
「考えてみたらあのゴブリンは家に隠れられるようなサイズじゃなかったよね。いったいどこから現れたんだろう?」
ロザリアンヌは憤怒のゴブリンを思い出し、そういえばと考えてみた。
「もしかしたら何かの条件を満たすと現れるのかもな」
「そうかもね」
「条件があるのだとしたらその条件ってなんだろう?」
ロザリアンヌはあの時は精神的に疲れ切って眠ろうとしていたタイミングだった事を思い出す。
「眠くなったら現れるとか?」
「それじゃぁロザリー限定みたいじゃないか」
そういわれてしまうと確かにあの時眠たがったのは自分だけだとロザリアンヌは思いなおす。
「魔物の討伐数かもな」
「一定の数を倒したら現れるって事? それはあるかもね」
「でもあの時はもう魔物を倒すのを止めてたよ」
「時間じゃないですか!」
テンダーがいいことを思いついたとばかりにやたらと元気に発言する。
「出現時間か。それはあるかも知れないな」
「フフン!」
まるで褒めてもいいぞとばかりに胸を張るテンダーは、やはりどこからどう見ても子供のようだった。
黙って佇んでいれば超絶イケメンなのに行動がいちいち残念だと、ロザリアンヌはガッカリする気持ちと可笑しさを同時に覚える。
「じゃぁ討伐数か時間か確認するためにも今日はこれで休みにして待ってみる?」
「時間が勿体ないよ。どうせ隅々まで探索するんでしょう。先に探索を進めようよ」
「それもそうね。討伐数が条件なら遠慮なく倒していればすぐに現れるだろうしね」
「ちょ、ちょっと待ってください。私の意見を無視する気ですか!」
「無視してないわよ。効率の問題よ」
「えぇ~、でもなんというか、こう・・・」
「テンダーの思いつきはとっても良かったと思うよ。でも夜まで何もしないで待つのも時間が勿体ないでしょう。それに魔石だけしかドロップしないとはいえ、テンダーが倒した分はテンダーの好きにしていいのよ。ギルドに持って行けばかなりのお金になるわね」
「そ、そうですね! 私も頑張って倒します!!」
(やっぱりチョロい)
ロザリアンヌはやはりテンダーは親戚の子の距離感で接するのがストレスが少ないのだと実感していた。
責任がない分適度に可愛がり時には諭すくらいで丁度いいのかも知れないと。そしていずれはテンダーも人間とエルフの違いを理解してくれればいいと。
そうしてフィールド内を手分けして隈なく探索していると、やがて広場に黒い靄が渦巻きだしその中から一匹の大きなハーピーが現れた。
討伐数なのか時間なのか、はたまたその両方なのか、条件をはっきりと確認できなかったがもうそんな事などどうでも良かった。
フィールド内を隈なく探索していれば現れる事は今しっかりと確認できたからだ。
ロザリアンヌはハーピーが動き出す前にサクサクッと倒し、また新たな鍵を手に入れたのだった。




