27
「こんにちは、これをお願いします」
ロザリアンヌはお馴染みの登録記録窓口のマリーに、探検者カードと共に魔法学校から貰った中級ダンジョン塔攻略許可書を提示した。
「あら、久しぶりね。魔法学校はどう?」
マリーはロザリアンヌが魔法学校へ進学した事を当然知っていた。
「とても勉強になります」
久しぶりにダンジョン攻略ができるロザリアンヌは上機嫌でマリーに答える。
マリーはそんなロザリアンヌの様子を受け流しながら、受け取った書類を読み進め忽ちに内心で驚愕していった。
魔法学校や騎士学校の生徒は15歳になる前に実力次第で中級ダンジョン塔の攻略を始められるとは聞いていたが、マリーが知る限り実際にそんな手続きをした者はいまだかつて居なかった。
なので当然マリーは実際にこの書類を見るのも手続きをするのも初めての事だった。
ロザリアンヌの経験と実力から考えれば、当然中級ダンジョン塔の攻略を進めても構わないとは思うが、実際に危険も増える事から15歳という年齢が指定されているのだ。
それはどうしてかと言えば、中級ダンジョンからは大型の魔物が多くなる。
当然狂暴性も増すので、身体がまだ出来上がっていない子供では、いくらレベルが高くても攻略は難しく危険と考えられているのだ。
実際中級ダンジョン塔は魔物のドロップ品が高額取引される事も多く魔石も落とすので、探検者達にはそこそこ人気も高かった。
しかし油断をすると大人でも怪我をする危険があるのでパーティーを組んでの攻略者が出てくるのも事実だった。
それが分かっていても、魔法学校が入学間もないロザリアンヌに許可を出したと言う事は、マリーが思っている以上に実力があるのだろうと考える。
そしてプロの受付担当者としてここで狼狽えた様子を見せる訳にはいかないと、努めて平静を装い手続きを進める。
「ロザリーなら大丈夫だとは思うけれど、今日が初めての中級ダンジョン塔の攻略なのよね?まさか一人で攻略する気じゃないわよね?」
本来はこの様な事まで確認する必要も無いのだが、マリーは心配のあまり確認せずにはいられなかった。
「今日はアンナさんが同行してくれます」
「はい、今日は私も一緒なので手続きも一緒にお願い出来ますか」
ロザリアンヌの後ろにいたアンナは隣に並び探検者カードを提示する。
マリーはアンナの探検者カードを受け取りチェックをするとまたも驚く。
「あなたも中級ダンジョン塔の攻略は初めての様だけれど、本当に二人で攻略を始めるのね?」
「はい!」
マリーの問いに返事をしたのはロザリアンヌだった。
「でも確認したところアンナは中級ダンジョン塔の入ダン資格が無いようよ。一度きっちりHランクダンジョンの攻略をする必要があるわね」
マリーの説明にロザリアンヌもアンナも一瞬戸惑った。
しかしすぐに持ち直し「すぐに済ませて来ます」と返事をして、薬草ダンジョンの入ダン許可を貰う。
そして二人で入ると素材採取には目もくれず、各階層踏破を最速で済ませて行った。
最後に薬草ダンジョンボスを慣れた手順で討伐すると受付に戻り、またもや探検者カードを提示してニッコリと微笑むロザリアンヌ。
マリーは諦めた様に溜息を吐き、一人じゃ無いのなら大丈夫だろうと無理やり納得して、中級ダンジョン塔への入ダン手続きを終わらせた。
「それでは二人とも気を付けて行ってらっしゃい」
ロザリアンヌとアンナは探検者カードを受け取ると、マリーに笑顔で送り出され中級ダンジョン塔へと足を進めるのだった。
中級ダンジョン塔は探検者からの人気も高く、午前中だとそこそこの列に並ぶことになる。
しかし午後のこの時間になると少しは人数も減り、それ程並ばずにダンジョン内へと入れた。
ピコン!
ここに出る突撃猪は子牛程の大きさがありその名の通り突撃して来るのが特徴だったが、スピードはけして速くないので突撃を躱しさえすればそれ程の脅威でもなかった。
もっとも突撃されれば自転車に撥ねられる位の衝撃があるので、勿論安全とは言い難いのだったが、ロザリアンヌはかなり簡単に難なく躱す事ができた。
なのでロザリアンヌは突撃猪の攻撃を躱しながらピコピコハンマーでデバフを掛け、動かなくなった突撃猪にアンナが魔法で危な気なくとどめを刺し倒して行く。
ピコピコハンマーのデバフは猛毒や麻痺や睡眠を与える事ができたので、こういう中型魔物に対してもかなり有効な攻撃手段となっていた。
アンナも魔物に対して初めて使った魔法だと言っていたが、さすがに精霊を宿すだけあってその威力も高く余裕で突撃猪にとどめを刺していた。
「案外できるものね」
「そうでしょう、慎重になるのも大事だけれどやってみるのも大事よね」
自分が思っていた以上に攻略出来ている事に驚くアンナに、ロザリアンヌは当然の様に話している。
「ロザリー、私の方から改めてお願いするわ、しばらく中級ダンジョンの攻略を手伝わせて頂戴」
アンナは自分が使える魔法の熟練度を上げると共に、ウィルと自分のステータスを少し上げてみようと考え始めていた。
それが今行き詰まっているすべての打開策になると不思議と自然に考えられた。
「ええ、是非お願いします」
こうしてロザリアンヌとアンナは暫くの間臨時のパーティーを組む事になったのだった。




