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ロザリアンヌは要塞監獄とダンジョンを繋ぐ転送ボックスに《ゲートルーム》と名付け、大陸に八つあるダンジョンへ自由に行き来できるようにした。
そしてまだ神々が最も愛する酒を届けていない神もあったので、再度奉納に行きダンジョンを探索する冒険者達の安全を祈願した。
ダンジョンへは他にやりたい事があると言っていたキラルも付いてきたので、ついでに一緒に再度さらに念入りにダンジョン探索もしていた。
一度目は神様に愛される食材探しと祭壇探しに気を取られ急いでいたので、多分見落としも多いだろうと考えたからだった。
「そういえばキラルが他にやりたい事ってなんだったの?」
「何の事?」
「何のって、テンダーが手伝いを言い出した時に言ってたでしょう」
「ああ、あの時はどう考えても僕に建設の手伝いは無理だって思ったからね。そうでも言わないとテンダーも諦めなかっただろう」
「本当にそれだけ?」
ロザリアンヌはそれだけでは無いという確信めいた事を感じていた。
しかしキラルが何かを始める様子が無くこうしてダンジョンに一緒に付いてくるのが少し不思議だった。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「きっと私が一人でダンジョンに入るのを心配して付いて来てくれるんでしょう。それがなんだか私がキラルのやりたい事の邪魔になってるんじゃないかって。だから何か手伝える事があったら嬉しいなって」
「大丈夫。僕は今こうしていながらもちゃんと考えているから」
「考えてる?」
「料理って多分美味しいだけじゃ無いんだよきっと。もっと元気になれたり力が出たり料理にできる事はもっといっぱいあるんじゃないかって思ってるんだ。だから手始めにロザリーが教えてくれたあの飴に何かもっといろんな効能を付けられないかなって考えてるんだ」
ロザリアンヌは普通にのど飴を思い出していた。そしてキラルが誰に教えられるでもなく考えついた事がなんだかとても嬉しかった。
「キラルってばそれって錬金術師みたいだよ」
「錬成鍋を使って料理してるんだからきっと僕も錬金術師見習いって事になるのかな」
「じゃあ、私の弟子第一号はキラルじゃないの」
「まぁ僕の場合は料理しかできないけどね」
「ペナパルポはポーションどころか料理も作れないわよ。錬金術師っていっても人それぞれよ」
「じゃぁ僕がロザリーの一番弟子を名乗っても良いの?」
「そうね。ペナパルポに兄弟子だって言ったらいいわ」
「ありがとうロザリー!」
久しぶりにキラルに抱きつかれロザリアンヌはちょっとドギマギしていた。
「良い案が浮かぶといいわね」
ロザリアンヌはのど飴のことを教えようかとも思ったが、そもそも何の効果でどう作用してるかまでは知らないので言うのは止めた。
きっとキラルなら何か思いつくのだろうと信じていた。
「折角ここまで来たんだからゼリー神にももう一度お供えしていこうか」
「賛成!」
「じゃぁ今度はキラルがお供えするといいわよ」
「いいの?」
「勿論よ」
ロザリアンヌは祭壇前で神々が愛する食材をマジックポーチから取り出しキラルに手渡して行く。キラルはそれを丁寧に祭壇に並べてから手を合わせる。
ロザリアンヌはキラルがいったいどんな願い事をするのか楽しみにしていると、ゼリー神が姿を現し「それは無理だね」と答えるので驚いた。
「キラルってばいったい何を願ったの?」
「秘密~」
「僕はこのダンジョンの中での事しか叶えられないんだ残念だけど。他に何かあるなら聞くけどどうする? こんなにいっぱい貰っちゃったから特別だよ」
本当なら叶えられない時点で消えちゃうんだとロザリアンヌは一人納得しながら聞いていた。
そしてゼリー神に急かされながらキラルが答えたのは「飴に有効な効果を付けられる素材が欲しい」だった。
「じゃあこの花なんてどうかな。このダンジョンのそこら中に咲いてるよ」
「なんだかとってもいい匂いだね。でもこれにどんな効果があるの」
「その匂いにリラックスと癒やしの効果があるんだよ微弱だけどね」
「えっ、本当に?!」
聞いて驚いたのはロザリアンヌだった。
確かにジャスミンみたいにそんな効果のある花があるのは知っているが、このダンジョンにもそんな花があるとは思ってもいなかった。
というか、この花にそんな効果はなかった筈。ダンジョンに入ってすぐに一応鑑定したから覚えている。
「微量だから鑑定には出ないんだよ。でも彼の願いを聞いて飴に効能が付くようにした。これでいいでしょう?」
「ありがとう!」
「じゃぁ僕は行くね。別に願いが無くてもここに何度来てもいいんだからね」
ゼリー神はまたも手を振りながら消えていく。ロザリアンヌはゼリー神は案外人懐っこいのかと思いながら手を振り返して見送った。
「僕、飴作りを始めてもいい?」
「勿論よ。じゃぁ私はこの花の採取を手伝うわ」
「うん、お願い」
ロザリアンヌは久しぶりにキラルの嬉しそうな笑顔を見た気がした。心からキラキラと輝いている笑顔。
それがなんだか嬉しくて、心がスッキリと澄んでいくようで、ロザリアンヌはいつもより張り切って採取を手伝うのだった。




