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ロザリアンヌ達が要塞監獄へと久しぶりに戻ると監獄内は随分と様子が変わっていた。
あの寒く薄暗くお世辞にも綺麗とは言えなかった環境が一変し、要塞監獄内自体もとても明るくなっていてそこにゲルが綺麗に立ち並びまるでどこか異国の村に来たみたいだった。
要塞監獄に閉じ込められ暗かった人々も、ダンジョンへ探検に行く者商売を始める者など今ではみんなそれぞれに活気に溢れていた。
「もう要塞監獄なんて呼べないわね」
「ねぇ見て、屋台もあるよ」
「美味しそうな匂いがしますね!」
ロザリアンヌが感慨深くその様子を眺めていると人達が気軽に声をかけてくる。
特にキラルとテンダーが人気で、二人は人々に連れられ屋台巡りを早速始めた。
「おぅ、ロザリアンヌ戻ったのか」
「ペナパルポも相変わらず忙しそうね」
「ああ、それより相談したい事があったんだ。ちょっと話を聞いてくれ」
ロザリアンヌ達が戻った事を聞きつけペナパルポが迎えに出てくれた。
そして相談があると連れられて行ったのは一際大きなゲルだった。ロザリアンヌ達も泊まれるようにと考えて作られた物らしい。
そして急ぐように話されたペナパルポの相談とは、限られた広さしか無い要塞監獄内ではこれ以上の発展を望めないという事だった。
個人用のゲルが欲しいと願うものも多くもっといろんな施設も作りたいが、かといって雪や風に晒される外へ広げるのは厳しいらしい。
故にレヴィアスに商会の店舗や冒険者ギルドの設置を頼まれたがその場所の確保も難しく、ここの住人達の問題が解決するまで無理だという。
「要するにここの空間を広げたいって事?」
「ここは古代の遺跡を活用して作ったという話だからな。ここを広げるのもここと同じ物を作るのも大変だろう。だからそれ以外に方法があればと思って相談している」
ロザリアンヌは一瞬空間魔法で広げるのが簡単かとも考えたが、多分そういう解決方法を聞いているんじゃないのだろうと思った。
ロザリアンヌが一瞬で解決する方ではなく、ペナパルポはきっとここの住人達みんなで力を合わせ解決できる方法を考えているのだろうと。
ここでずっとペナパルポを中心に生活してきた人々が自分達で問題を解決し、廃棄されたという思いを払拭し自信を付けていくのが大事なのだと。
それにたとえロザリアンヌがペナパルポに空間魔法を教えたとしても、ペナパルポがここ要塞監獄の空間を広げる程の事はできないだろう。
(なんにしても後で教えるけどね)
「道具さえあれば魔法を使わなくてもここの壁を崩し広げていくのは可能だと思うよ。それにゲルだから必要以上に場所を取るけど、木造で二階建てや三階建ての四角い建物を作ればもっと有効に空間を使えるよね。だってここの天井はこんなに高いんだし」
薄暗かった時にはまったく気にもしなかったが、明るくなった今天井を見上げれば優に十メートルくらいはある。
元は何かの遺跡だったという話だが、いったい何の遺跡だったのかとても興味がある。
「なるほど空間の有効活用か。そう言われれば上にもこんなに使える空間があったんだな」
「大変だろうけど頑張って」
「それじゃ早速ヤツらに木材を集めさせなくてはな」
「それくらいの手伝いならするよ」
「いいのか?」
「勿論。それにどうせだからレヴィアスの言ってた商会の店舗や冒険者ギルドの建物は場所を決めてくれれば私達で作るよ」
「木材での建物なら私にお任せください!」
「そっか、テンダーはそんなこともできるのね。じゃぁお願い」
「腕が鳴ります! シェフも是非手伝ってください」
「僕はちょっと他にやりたい事があるから無理」
「どうしてですか! いいじゃないですか」
「テンダー無理は言わないの。人にはそれぞれ得手不得手があるのよ」
テンダーは明らかにガッカリした顔を見せていたが、そもそも体の小さなキラルに何を手伝わせようとしていたのかロザリアンヌには疑問だった。
「それでは私は有用な人材を集めてこよう」
ロザリアンヌはこの要塞監獄の人達だけで解決するべきだと考えていたので、多分他の国から集めてくると言うレヴィアスの突然の提案には正直びっくりした。
「有用な人材ってどこから?」
「私の知っている者達の中からだ。商会やギルドでも役に立つ。それに交易のための港も必要だろう」
「そんなに大きな話なの?」
「そんな大きな話にしたのだ。ペナパルポとももう少し話を詰めてはみるがいずれはこの国も開かれていくだろうからな」
ロザリアンヌの考えていた以上に規模の大きくなって行く話に付いていけず、ロザリアンヌは自分にできることやるべき事を探す。
「じゃあ私は転送ボックスを他のダンジョンへも繋げてから木材集めをするね」
こうしてロザリアンヌ達は最後のダンジョン攻略の準備をする予定から外れ、それぞれが要塞監獄発展の手伝いをする事になったのだった。




