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「もう大分遅い時間ですよ。みんなまだ活動してるってやっぱりマズいんじゃないですか。生活リズム的に」
ロザリアンヌは自分も何かに熱中すると時間を忘れ行動する事をすっかり棚に上げてペナパルポに進言する。
それでなくともこのダンジョン内はずっと日中の明るさを保っているので、本当に気をつけないと時間の感覚も無く過ごしてしまうだろう。
そして当のペナパルポも錬金術が余程面白いのか夢中になって武器や防具を作っていった。
武器はトレント材で作る棍棒や杖に手斧で、防具はミミズ魔物の皮の胸当てにローブといったところだ。
「ロザリアンヌいいところに来た。素材が足りない。持ち合わせがあるのなら譲ってくれ」
ロザリアンヌが練習を兼ねて要塞監獄の人々の武器防具を作れと渡した材料をすべて使い果たしたようだ。
こんなに早く使い果たすとは、かなり余裕を持って渡したつもりになっていたロザリアンヌもさすがに驚いた。
「譲るのはいいけど魔力はちゃんと残ってるの?」
錬成には少なからず魔力を使うので、ロザリアンヌはペナパルポの魔力残量を心配する。
ロザリアンヌも錬金術を覚えたての時にそうだったが、錬成が面白くてついやり過ぎてしまう事が多かった。
そんな時は大抵ソフィアやキラルが止めてくれたので止め時を見失わずに済んでいたが、ペナパルポには止めてくれる人は居るのだろうか?
「ああ、まだ大丈夫だ。転送魔法を使える魔法使いを侮るなよ」
「じゃぁ素材も自分で手に入れるのね。優秀な錬金術師さん」
「なっ・・・」
自分のことをかなり優秀な魔法使いだと自慢気に胸を張って言うペナパルポに、ロザリアンヌは敢えて錬金術師だと強調して言い返すと、何故かペナパルポは口籠もってしまった。
錬金術師と言われたのが面白くないのだろうか? それとも自分で素材を手に入れろと言ったのが気に入らなかったのだろうか?
「何よ。錬金術師と呼ばれるのは不服? それとも素材を自分で手に入れる自信がないの?」
「いや、もしかしたら俺がこの国で錬金術師第一号かと思ってな。ふふ、国の奴らは俺のことをもう死んだと思って忘れているだろうが、錬金術師になったと知ったらどんな顔をするのかと思うとなんだか胸がすく思いだ。俺はこの力を使ってこれからも奴らが廃棄処刑する者達を助け続けてやる!」
ロザリアンヌにはペナパルポの目に一層強い光が宿ったように見えた。
「応援するよ。でもその前に生活のリズムをちゃんと考えないと、いずれ体調を悪くする人が出てくるわよ。私はそれが心配なの」
「その事なら俺も考えた。だが今はもう少し好きにさせてやってくれ。そしてアイツらの気が済んだら、ロザリアンヌが折角このダンジョンで暮らせるようにと考えてくれたが、俺達はやはり監獄要塞に帰ろうと思う」
「どうしてそうなるの? だってあそこはとても寒くて薄暗くて・・・」
「だが俺たちが暮らし慣れた場所だ。帰る場所があった方が行動にもメリハリができるしな。寒さ対策ならもう考えてある。あのゲルを監獄内に設置して内部を暖かく保てる道具を作る。それにあそこにまたいつ新たな者が送られてくるか心配だからやはりあの場からは離れられんな」
ペナパルポは錬成に夢中になっているだけかと思っていたが、その間にも他の人達の事を色々と考えていたのだと知りロザリアンヌは思わず尊敬の念を抱いてしまう。
絶えず他の人達のことを考えていられるとは聖人君子、ペナパルポはまさに聖者様だ。
ゲームの設定とはいえ聖女として転生して来ながらその役目から逃げ出したロザリアンヌには、到底マネできるものではない。
「私に協力できる事はある?」
「それじゃ一つ頼みたいことがある。ロザリアンヌが作ったあの転送ボックスをもっと大きくしてこのダンジョンと監獄を繋いで設置してくれ。アイツらが好きな時に行き来できるようにしてやりたい」
「それなら簡単よ。任せて」
ユーリがいずれは人々の転送に使いたいと言っていたが、いち早くここで実現する事になった。
あの話の最中に一応どう改良したらいいか少しだが考えてある。メイアンのダンジョンを真似て、魔石に触れる事で転送できる仕組みにすれば後は魔石の交換や魔力注入でどうにかなる。
形としてはエレベーターみたいにして、いずれはこの大陸にある他のダンジョンへも転送できるようにするのもいいだろう。
「なんだかワクワクしてきた」
やはりこうして錬金術で何が作れるか考えている時が一番ワクワクして楽しい。錬金術最高!
「随分と話が纏まっているようだな。私からもペナパルポに提案があるのだが聞いてくれるか?」
レヴィアスも用事が済んだのか戻ってきて早々に話に加わった。
「どうした改まって」
「あの監獄に冒険者ギルドの支部と商会の店舗を置かせてくれ。悪い話ではないと思うぞ」
レヴィアスはジュリオ達より早くこの大陸に進出してくる考えらしい。
でもそうなるとやはり自動翻訳機も急がなくてはならなくなるし、何よりこの国は他国との交易を望んでいないかもしれないのだ。
自国の民でさえ廃棄しようとするのにそう簡単に受け入れられるものだろうか?
「だがこの国は・・・」
ペナパルポも同じ不安を抱いているようだった。
「別に街に押し入る訳じゃない。まずはあの監獄に扉を付け、他国の冒険者と商人を受け入れるところから始めてみよう。そこから何かが変わっていくとは思わないか?」
「そうだな。扉を開くのか。よし、俺がこの手でこの国を変えてやる!」
ペナパルポは少しだけ考え、そして意気揚々と立ち上がるとその決意を口にするので、ロザリアンヌはなんだか歴史的瞬間に立ち会ったような気がしてちょっと感動していた。




