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ロザリアンヌは王城内の庭園にあるガゼボでユーリと二人っきりでお茶を飲んでいた。
「二人っきりでお茶をするのは随分と久しぶりですね」
(久しぶり? ・・・・・・)
ロザリアンヌはユーリと二人っきりでお茶をした記憶を一生懸命探るが、そういえばどこかの喫茶店でと思い出しかけ、あれはいつどうしてだったかと考え始めて途中で諦めた。
「この庭園は何度来ても美しくて心が落ち着きますね」
下手に相づちを打ちこれ以上話題を膨らませるのを避け、ロザリアンヌは敢えて話題を変える。
「喜んでくれたのならこの場を借りた私の判断は間違ってませんでしたね」
「そうですね。お茶もお菓子も最高で、やっぱりキラルも連れて来ればよかったとちょっと後悔してます」
「・・・」
日課となっていたユーリへの活動報告で、転送ボックスと転送文箱の改良を報告したらすぐにでも会って詳しく話を聞きたいと連絡があり、こうして会う事になった。
キラルも誘おうかと思ったが、今回は帰郷と言うほど長居する予定もなく、店に転送ボックスを設置して転送文箱の交換をしたらすぐに帰る予定だったので止めた。
キラルもテンダーと要塞監獄の人々に囲まれ忙しそうにしていたし、リリーとダリアに会ってまた先生をしたいと騒がれると困ると少しだけ敬遠した感じだった。
もっとも転送ボックスを設置しに帰ると話したけど、一緒に行くとはキラルも言わなかったので実際に誘っても一緒に来たかは疑問だが。
「ここだと誰かに聞かれる心配もなく、ジュリオが顔を出しても不振に思われませんからね」
「それじゃこれってカモフラージュって感じですか?」
「執務室や応接室で話をしては周りに詮索されかねません。ロザリーが表に出て今回の錬成品を大々的に発表したいと言うのなら別ですが、レヴィアスの話だとそういう事でもないのでしょう?」
(レヴィアス話が早すぎるよ)
既にジュリオやユーリの所まで話が行っていると知りロザリアンヌは驚いた。
「それじゃぁどうして私は呼ばれたのでしょう?」
転送ボックスや転送文箱の改良の話がもう報告済みなのだとしたら、ロザリアンヌの呼ばれた理由がまったく思い当たらなかった。
「私がロザリーに会いたかったからですよ」
至極真面目な表情で見詰められロザリアンヌは思わずゴクリと唾を飲み込み、それでもユーリの真意を読み取ろうとしてみた。
「まさか本当にそんな理由だけで呼んだのではないですよね?」
「そんな理由とは心外です。でもまぁそれだけで呼んでいては嫌われてしまいますからね。しかしこれでも私はとても我慢していると知っていて欲しいですね」
ロザリアンヌはユーリの冗談か本気か分からない話に、何度断っても諦める気はないのかと溜息を吐く。
ストーカーまがいの事はされていないから別に良いが、ゲームの強制力から解き放たれた筈なのにどうしてこんなに執着されるのだろうと疑問を抱く。
そしてやはり考えても答えを見つけられず、今のところ実害はないからまあ良いかと答えを見つけるのを諦めた。
「折角のデート中に邪魔して悪いな。私も少し息抜きさせてくれ」
周りにいる使用人達にわざわざ聞かせているのか、庭園に現れてすぐに大声で話しかけながらジュリオがガゼボへ寄って来る。
「申し訳ありませんがたった今口説き始めた所です。本当に邪魔ですよ」
ユーリは口では邪魔と言いながらもジュリオを迎えるように席を立ったので、ロザリアンヌも慌てて席を立ち頭を下げた。
「まぁそう言うな。この場を貸してやってるんだもう少し心を広く持て」
ハハハと笑い合う二人の息の合ったやりとりを、ロザリアンヌはこれも申し合わせた芝居なのだろうなと思いながら聞いていた。
きっと今からするだろう話を誰にも詮索されず知られないようにする為の。それほど重要に考えているのだと思うと、ロザリアンヌはまた何かやらかしたのだろうかと不安になった。
そしてジュリオが席に座るとユーリもロザリアンヌも促され席に座りお茶会は再開される。
「レヴィアスから話は聞いている。その転送ボックスと転送文箱は魔導具開発塔の錬金術部門で新たに扱う事にした。それで確認しておきたい事と契約に関する話をしたくてわざわざ来て貰った。手間をかけさせて悪いがこればかりは本人と話をしなくてはならないからな」
「そうなんですね」
別に良いのに面倒くさいなとは言えず、適当な返事になってしまう。
そして求められるままロザリアンヌは転送ボックスと新たにアドレス登録できるようになった転送文箱の説明を詳しく聞かせた。
転送ボックスは場所を固定してあれば転送も比較的簡単だが、送る物質の量や距離に比例して魔力をかなり必要とするのが難点だったが、魔導具として作るのは別段問題ないだろうと思われた。
そして転送文箱は取り付けた魔石にアドレスを持たせGPS機能のように場所を特定させる転送魔法をそのまま応用しているので、魔導具として作るのは簡単かと思われたが少しばかり説明に難航した。
魔石にアドレスを付けて個別化させるという考えに理解が及ばないのか、送り先のアドレスを事前にいくつか登録できるようにするという説明も難しかった。
スマホでは当たり前で使い慣れた機能だったが、ロザリアンヌ自身その詳しい所が理解できていないので上手い説明ができずとても困った。
そしてどうにか理解して貰えた時にはロザリアンヌはすっかり疲れ果て、契約に関しての話に移行する時には後は全部レヴィアスに任せると返事をしていた。
「それにしてもこれは革命的な発明だな。ロザリアンヌ今度こそ褒美を与えねばなるまい。何が良いかよく考えておけ」
「いいですよ別に」
相手は王太子だという事も忘れぞんざいな返事をしてしまい一瞬焦る。
「そんな訳にはいきません。この転送ボックスは物流に革命をもたらします。そしていずれは人々の移動にも使われる事になるでしょう。街から街への移動だけでなく長い航海をしなくても他国へ行けるようになり、国家間の交易がさらに盛んになるでしょう」
ユーリは転送ボックスを人々の移動にも使いたいと考えているようだ。
まぁ転移は本当に便利だから気持ちは分かるとロザリアンヌも納得するが、大事な事を忘れているようなので指摘する。
「長距離の転送にはかなりの魔力を必要としますよ」
魔力が豊富なロザリアンヌや精霊であるレヴィアスだから大陸間の転移もできているが、大陸を跨いでの転送となったら普通の人の魔力量では絶対に無理だ。
それこそ何人どころか何十人何百人分の魔力をどうするのかが問題だろう。
たとえSランクダンジョンの魔物の魔石を利用したとしても、やはりそれ一つで賄えるかは疑問だ。
「それを考え発展させてきた実績がある。いずれはきっと実現するだろう」
ロザリアンヌはジュリオの希望に満ちた表情に、自分も少なからず手助けができたのだと満足できる気分になれた。
「お役に立てたなら良かったです」
実際これからどう活用するかなど面倒な事はまたしてもすべて丸投げしたのだ。
しかしそれでも喜んで貰えたと思える物を作れたのは確かなのだと手応えを感じ嬉しさが込み上げた。
「これからも期待しているぞ」
ジュリオの言葉に期待されても困りますとは言えず、ロザリアンヌは綻んだ表情を誤魔化すようにカップに手を伸ばし返事を避けたのだった。




