250
元々薬草に詳しく薬を作ることもできたテンダーはすぐにポーションを錬成できるようになったが、ポーションの存在自体知らなかったペナパルポには薬草の知識も無く、錬金術の練習として知られるポーションの錬成はまったく成功しなかった。
何度やっても成功しない事態にペナパルポがへこんでいると、レヴィアスが錬金術の練習はポーションでなくてはダメなのかと助言をくれた。
そして目から鱗のロザリアンヌが考えたのは武器や防具の錬成だった。
どのみち要塞監獄から連れてきた人達の武器や防具を作るつもりだったので、それをペナパルポに任せる事にしたら何とペナパルポはあっという間に錬金術を覚え錬成のコツを掴んでいった。
やはり同じ錬金術でも向き不向きや得意分野があるのだとロザリアンヌはここで初めて実感し理解した。
「それじゃ私は転送魔導具の錬成をするわね」
ロザリアンヌはトレントの木材を使い木箱を作り、その木箱に入れた物を指定した木箱に転送できる魔導具を錬成する。
この転送魔導具の凄いのは何と五つ作った木箱のそれぞれ間で、どの木箱からも送る事も受け取る事もできた。そう、念願のアドレス転送のような事が可能になったのだ。
それは転送魔法の秘密にあって、転送魔法の紋章の中の一文に魔法発動させる時に場所を設定する緯度と経度などの場所情報を自動的に読み取れる工夫がされていたのだ。
ロザリアンヌが初めて転移魔法を習得した時に使った場所の特定を、魔方陣を移動させている間に自在に読み取っていたのだ。
要するに二つの紋章の間で物を移動させる為の情報の中に場所を特定させる情報が、既に自動ではっきりと描かれていたのだ。
ペナパルポが魔物を探知した場所が見えてない場所や知らない場所であったにもかかわらず、魔物を転送できたのはこれが理由で、転送魔法の紋章を移動させている間、ネット上のマップの上をカーソル移動させるように自動的に場所の特定ができていたのだ。
ロザリアンヌはその場所に特別に加工した魔石情報を自動ではなく敢えて手動で設定できるようにした。要するに住所入力と言うかアドレス入力のようなものだ。
これでソフィアの錬金術店という特定の場所への荷物の転送が簡単になった。
事前にいくつか登録しておくことで送り先の設定もし易くなり、念願の転送文箱の改良も可能になったのだ。
ロザリアンヌは錬成の結果に非常に満足した。転送ボックスの誕生だった。
「これ早速師匠に渡してこようかな」
「ならば私も二つほど欲しい。商会の本店とジュードの街にも設置させたい」
「それ良いわね。これからはジュードに簡単に差し入れができるわ」
「多分もっと需要が増えるだろう。これはマジックボックス以上の革命かもしれないぞ。ジュリオに報告しておくと良い。いや、私の方からしておこう。と言うことでこの三つは貰って行く」
レヴィアスは何を急いでいるのか、出来上がった転送ボックスを三つ持って慌ててどこかへ転移してしまった。
「仕方ないもう二つ作るか」
ロザリアンヌは自分で持つ分とソフィアの錬金術店に置く分と、ペナパルポに渡しておく分と、そして多分ジュリオに提出するようにと言われるのを考えての事だった。
「そうだ。どうせなら転送文箱の改良も済ませちゃおう」
ロザリアンヌが作り個人的に渡した人々それぞれにアドレスを付けて転送文箱の改良をする。どうせ転送ボックスを渡しに店に戻るなら用事はいっぺんに済ませようと考えたのだ。
これでジャラジャラとキーホルダーを幾つもマジックポーチに付けなくて済むとロザリアンヌは考えていた。
そして何よりソフィアの店の在庫不足、ロザリアンヌにしか作れない商品の在庫の心配しなくて済むのだと思うと気分がとても軽くなった。
それに魔法の練習がてら作り溜めた品々を溜め込まなくて済む分、マジックポーチの中身の整理もし易くなる。
ロザリアンヌはペナパルポとの出会いに心から感謝した。
ある意味転移魔法よりずっと便利な転送魔法がまさかこんな北の大地で手に入れられるとは思ってもいなかった。
しかしそんな転送魔法にも難点があって、術者本人は魔方陣と魔方陣の間を移動できないのだった。
やっぱり何にでも利点や欠点はあるものだとしみじみと考えるロザリアンヌは、別のとても重要な事に気づいた。
魔方陣の紋章をしっかり読み解き一文を変えるだけで違った魔法になる。
よくよく考えてみたら、大賢者様もダンジョンを一カ所に纏め階層のエリアを区切り転送させるあの転送魔法も、転移魔法だと思い込んでいたがペナパルポの使う転送魔法と同じだった。
基本は物体を移動させる魔法でしかなくて、どう移動させるかどこに移動させるかをの発動条件の違いだけだ。
と言うことは、ロザリアンヌが使い慣れた魔法も実はもっと色々変えることができるかもしれなくて、聖女にしか使えないと言われている光属性魔法も実は誰にでも使えるようになるのじゃないかと考え始めていた。
もっとも今はそんな研究をしている余裕がないのでいずれこの冒険が終わったら、そんな魔法の研究をするのもきっと錬金術に役立つだろうと、なんとなくふんわりと将来の予定を思い描いた。




