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ミミズの魔物は色によって種類が変わるらしくドロップ品にも変化があって、多分土の中で何を取り込んだかで種類が変わるのだろうと思っていた。
そしてどのミミズの魔物も魔石と皮をドロップするのは共通だったが、驚いたことに肉ではなくアルミニウムや上質な粘土やガラス素材をドロップする魔物も居た。
「アルミニウムってあのアルミだよね? これでアルミ缶が作れるって事だよね!」
ロザリアンヌは新しい錬成素材を手に入れ、これを使って何を作ろうかとてもワクワクした。
「この上質な粘土って多分陶器に適してるって事だよね? 食器の他にも便器とか浴槽とかにも使えそうじゃない?」
ロザリアンヌは銀色や黄色や茶色のミミズの魔物を見つけると積極的に倒した。
他に赤いミミズも多く居たが、ドロップするのは石炭だったので、錬成素材を求めているロザリアンヌ的にはあまり嬉しさを感じなかった。
そうしてモグラ叩きのような魔物討伐に夢中になっていると、ロザリアンヌはいきなり攻撃を受けた。
咄嗟に反応した結界でもその衝撃を抑えきれず、ロザリアンヌの体は勢いよく飛ばされた。
倒したミミズ魔物が光の粒となり消えゆく中安心していたところで、穴が塞がる前にその穴から何かが飛び出して来たのだ。
ミミズの魔物と気配が重なっていたから気づかなかった。目の前で消えゆく魔物の姿に安心しきっていたのもある。一瞬の油断を突かれた攻撃だった。
ロザリアンヌは起き上がろうとしてはいるのだが、魔物の姿を確認する事もできずに何度も攻撃を受けその度に転がされる。
レヴィアスの魔力銃弾もそのスピードに付いていけずなかなか命中しそうにない。
(あぁぁ、面倒くさい!)
相手がどんな魔物なのかその姿を確認しようと受け身に徹していたが、何度も攻撃され転がされ頭がフラフラし始めたロザリアンヌは痺れを切らす。
そして自分を中心に広範囲魔法のダイヤモンドダストを発動し、姿の見えない敵を確実に凍らせようと考える。
さすがに凍ってしまえば動きも止まるだろうし姿も確認できるだろうと。
次に体当たりされた瞬間に即座に発動させると意気込み、魔法発動の準備をした。
「絶対零度結晶【ダイヤモンドダスト】」
結界に守られたロザリアンヌを中心に、キラキラキラキラと輝く氷の粒が吹雪のように舞い始め、そしてその範囲をあっという間に広げて行く。
舞い踊る氷の粒は辺りにある物を凍らせるだけでなく空気や音までも凍らせるのか、シンとした空間が広がって行くのが分かる。
ロザリアンヌはその空間にさっきまでロザリアンヌを攻撃していた敵を探す。
すると苔玉かまりもかとでもいうような緑色のまん丸な体に、組紐のような細い蔦でできた手足を付けた魔物が驚いたような表情で凍り付いていた。
ついでに言うと意外に目はつぶらで、寝癖のように頭から飛び出した葉っぱがチャームポイントかと思わせる意外すぎる敵だった。
「か、可愛い~」
ロザリアンヌは戦闘中であることも忘れ、思わずどこぞのマスコットキャラクターを連想しそう呟いた。
「仕留めないのか?」
「う~ん・・・。それよりさっきの戦闘は何よ。魔法銃に拘りすぎじゃない?」
ロザリアンヌは仕留めるのを躊躇している自分を誤魔化すように話を変える。
「追撃できないものかと思ってな」
「それなら投網のように発射した魔力が広がるようにした方が早いんじゃないの?」
「広範囲魔法か・・・。それなら一度に複数の敵も相手にできるな」
そもそも魔法銃を錬成したのはロザリアンヌだが、銃から発射される銃弾はレヴィアスの魔力なので、操作や威力はレヴィアス次第だった。
「レヴィアスの場合武器を使わない方が自由度が高くて強いのになんで銃に拘るの?」
「ロザリーがわざわざ私のために作ってくれた武器だからな」
ロザリアンヌはレヴィアスの魔法銃をこの大陸まで移動する間、退屈過ぎて思いつきだけで作ったとは言えなくなった。
魔弾が撃てる銃があっても面白そうだというたったそれだけの理由で作ったなどと・・・。
ロザリアンヌが後ろめたさから顔を俯かせると、ピキピキと氷の割れる音がして苔玉魔物が氷の中から復活した。
「もう、参ったなぁ。まさか凍らされるとは思ってもいなかったよ」
「しゃ、喋った!?」
変わった魔物だとは思っていたがまさか喋り出すとは思っていなかったロザリアンヌは本気で驚いた。
咄嗟に臨戦態勢になるレヴィアスに苔玉魔物は空中を浮遊しながらその細い手を振る。
「私の負けで良いよ。どのみち君達に私は殺せない」
いや、確かに、可愛いと思ってしまった時点でなんとなくそれ以上攻撃はできないとは思っていた。
しかしレヴィアスでも殺せないという苔玉魔物の言葉に、そんなに強敵だったかとあれこれと考えるロザリアンヌなのだった。




