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この中層フィールドらしい森には他にニホンカモシカのようにも見える牛に似た魔物が居て、魔石と肉をドロップした。
圧倒的にキノコの魔物の方が多く、見た目に似たキノコをドロップするのでその度に食べられるかをどうかをしっかり確認しなければならなかったが、牛に似た魔物がドロップする肉は赤身と脂身がしっかりと分かれた、まるで豚のロース肉のようだった。
「このお肉も美味しそうだね。どんな味がするんだろう」
鹿なのか牛なのかはたまた豚肉に似た味なのか、鹿肉だったらワイン煮込みやローストで、牛だったらステーキかすき焼きで、豚だったら生姜焼きかカツだろうかと考える。
ダンジョン調査の筈が、ロザリアンヌの思考はすっかり食欲で満たされていた。
そしてまたカーテンを潜るような感覚がして、辺りの様子もまたまた変わった。
明らかに辺りの木々がさらに太く大きくなっていて、荘厳で神秘的とでもいうか神々しさを感じさせた。
「結局あのレースのキノコはあの一匹だけだったね。ここが最深部だといいんだけど」
階層が変わったことで出現魔物も変わるのだろうと考えると、マンゴーキノコの栽培に成功して良かったと心から思った。
そしてこの針葉樹林のフィールドだけで終わるのか、または階段が見つかって下層へと続くのか、ダンジョンの全貌が分からないので今は進むしかないと歩みを進める。
「ボスでも見つかってくれれば予測はできるのだが」
ここへ来る間ボスと思われる敵に遭遇できていなかった。
「やっぱりダンジョンボスを倒したら踏破したことになるのかな? それともここのダンジョンにもダンジョンコアが存在するのかな?」
「どうだろうな」
メイアンのダンジョンは階層ボスとダンジョンボスの存在があって、ダンジョンボスを倒すことで踏破と見なされた。
テンダーの居たクトラ大陸のダンジョンもダンジョンボスを倒しコアのある部屋へと転移する事で踏破したことになった。
きっとこのダンジョンもダンジョンボスを見つけ討伐する事で答えが見つかるのだろうが、その肝心のボスの気配がまるで無い。
この針葉樹林のフィールドは、感じたところ中層深層と階層が分かれている雰囲気があるのだから、当然階層ボスの存在があってもおかしくない。
なのに階層ボスどころかダンジョンボスの気配も今のところ見つからない事にロザリアンヌは不安を、レヴィアスは疑問を感じ始めていた。
「魔物の気配がないな」
しばらく歩いて探索していたが、ダンジョン内に広げた気配探知には今のところまったく反応がなかった。
「なんだか返って不気味だね」
魔物の気配がまったく無い音のしない針葉樹林の中を、自分の足音だけを聞きながら移動していた。
踏みしめる土は腐葉土じゃない筈なのに柔らかく、足裏に小枝や落ちた葉の感触も伝わってくる。
突然だった。踏み出した足下に突然ぽっかりと穴が開き、思わずバランスを崩し転びそうになったところに地中から何かが飛び出してきた。
咄嗟にブローチの結界が反応しなかったならロザリアンヌは足を噛み千切られていたかもしれない。
そんなことを思わせるミミズのような魔物で、頭部が口になっていてヤスリのようにびっしりと鋭い歯が並んでいる。
頭部には見たところ口しかなく、黒い蛇腹風の体には見る角度で七色にも見える膜が張られ、ヤスリのような歯以外は本当に良く育ったミミズといった感じだった。
「地中に居たのか、厄介だな」
レヴィアスは魔力弾を撃ち込み一撃で仕留めるとそう呟いた。
気配探知は地上にしか展開していなかったので、地中に居る魔物の気配を探れずにいただけだったのだ。
「このミミズがこの森の土を元気にしてるのかな? それにしても大きいよね」
レヴィアスの反応とは違いロザリアンヌは暢気なことを考えていた。
光の粒となって消えていくミミズの全長は見ていないが、頭部の大きさからその大きさは推測できた。
何しろ大きく広げた口は、下手をしたらロザリアンヌを丸呑みできるのじゃないかという大きさなのだから。
そしてミミズは魔石と皮と肉をドロップした。
「肉?」
ロザリアンヌは思わず声に出していた。
皮は薬の材料になると知っていたし鑑定にもあったので納得だが、何で肉がと考えた。それも高級食材と鑑定に出ていた。
そういえば前世で都市伝説として噂を聞いたことがある。どこかのハンバーガーのパテはミミズでできていると。
調べたら実際に食べる地方もあるとか養殖されていると聞いて驚いたのを覚えている。
なのでロザリアンヌ的にはいくら高級食材と言われても、食べるのに勇気がいるのは確かだった。
「どうする」
ロザリアンヌは咄嗟にミミズ肉の事を聞かれたと思った。
「悩むけど、食べてはみるよ折角だし・・・」
「何を言っている。多分こいつらは熱か振動を感知して襲ってくるのだ、飛ぶか? それとももう少し倒してみるか?」
「地中に探知を広げればいいんだよね。でも姿を現してくれないとドロップ品も拾えないし歩きましょう。もう少しどんな魔物が居るか調べてみたいわ」
ここのエリアの魔物は多分全部地中に居るのだろうと判断し、ロザリアンヌは答える。
「油断するなよ」
「大丈夫よ。気配さえ探知できればどうって事ないでしょう」
ロザリアンヌはレヴィアスが何をそんなに慎重になっているのか理解できていなかった。




