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「そういえば日用雑貨の種を出さなくなったよ、あの木の根っこ」
キラルが思い出したようにロザリアンヌに報告する。
「やっぱり。私も倒してみたけど放出したのは豆だったよ」
「あの微妙に嫌な攻撃ですね。でもなんでですかね?」
「考えられるとしたらもう必要ないと判断されたんじゃないのか」
レヴィアスが考えてもいなかった意外な意見を出す。
ロザリアンヌはてっきりレアドロップだとか、同じに見えて実は根っこの魔物がそれぞれ微妙に違うんじゃないかと考えていた。スライムみたいに。
「必要ないって日用雑貨の種が? 誰の判断? フェンリル? ダンジョン?」
「あれはこのダンジョンの中でしか育たないのだろう? だとしたらダンジョン内で育てられるのはそれぞれ1本という制限があってもおかしくない」
「そんな制限必要?」
「開墾しただけダンジョンが成長するのだろう。このダンジョンの木が日用雑貨の木にすべて変えられたらどうなると思う?」
突然のレヴィアスの問いにロザリアンヌなりに想像し懸命に考えてみる。
「えっとぉ、・・・産業になる?」
収穫した日用雑貨はきっとダンジョン産として話題になるだろうし、そうなれば沢山売れて収入になる。そしてロザリアンヌが考えていたレヴィアスの商会との取引材料にもきっとなると考えた。
「その結果このダンジョンの知名度が上がり、冒険者で溢れかえる事になるだろうな」
「あっ・・・」
そういえばこのダンジョンって誰の所有になるんだろう。
このダンジョンにあの要塞監獄の人々を移住させ定住させる事を考えていたのに、ここが冒険者で溢れる事になったら定住なんて到底無理な話になる。
でも、例えばここで得た収益で税金を払えば人権が認められるようになるのだろうか?
でも、もしこのダンジョンにあの要塞監獄以外の人達も移住したいと考え始めたら、きっとここからまたあの人達は追い出される事になるかもしれない。それじゃぁ本末転倒じゃないだろうか。
しかしダンジョンはみんなの為のもので、限られた人達にだけが優先され独占すべきものではない。あくまでも自分の実力で攻略し、資源を得る場所だ。
ロザリアンヌは冷静になって考えてみると何が正解でどうしたらいいのか分からなくなる。
「まだ検証してみないと分からないが、開墾した分だけ成長するという言い方が引っかかる。成長とはただ単にダンジョンが広くなるだけなのか、それとも魔物が強くなって行くのか、もしくは・・・」
レヴィアスはそこまで言って言葉を濁し考え込んだ。
「って事は迂闊に考えもなく開墾できないじゃない」
「そうなるな。その警告も兼ねての種の制限じゃないのか」
レヴィアスに言われるとロザリアンヌもそれが正解のような気がしてくる。
「シェフ、私たちは他にどんな食材がるのか探しに行きませんか!」
「それいいね。何か他にもいい食材が色々とありそうだよね」
すっかり仲良くなったキラルとテンダーは、ロザリアンヌとレヴィアスの話しに退屈したのか二人揃って駆けだして行く。
「私たちもここでこうしてても仕方ないし行こうか」
何をどうしていいか目的を見失ってしまったロザリアンヌは、元気もなく歩き出す。
「この大陸の人々はダンジョンの存在自体知らないだろう。ならば私たちはペナパルポには約束だから知らせるが、そこから先はこの大陸の者達で決めて貰うしかないだろう」
「このダンジョンをどうするか?」
「そうだ。それ以上は私達が介入すべきではないだろう。するとしたらそれなりの覚悟が必要だな」
「覚悟?」
「責任を持つ覚悟だ。政治に介入する為のな」
「私にそんなものある訳ないじゃない。私はこの世界中のダンジョンを踏破をしなくちゃならないのに」
レヴィアスにも大陸の守護者の話はしていない。だから何故どうしてという詳しい説明ができないのがもどかしい。
「分かっている。面倒なことは私が引き受ける。ただロザリーはどうしたいのかだけを言ってくれ」
レヴィアスは安心しろとでもいうようにロザリアンヌの頭に手を置いた。
「うん。だったら私はやっぱりペナパルポ達が理不尽な目に遭わず不自由なく暮らせるようになって欲しい」
「そうか」
レヴィアスはそう一言だけしか口にはしなかったが、ロザリアンヌは何故かとても安心できた。
きっとレヴィアスに任せておけば大丈夫だと。




