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「どうしよう、先にペナパルポに知らせた方がいいかな」
ロザリアンヌはフェンリルがこのダンジョンで生活しろと言っているのだと思っていた。
だから開墾するだけでなくこの地に住居を構え、あの要塞監獄の人々はここに転移したらいいだろうと考え始めていた。
しかしそれを決めるのはロザリアンヌではない。
このダンジョンをどんな風に開拓しまた本当に利用するかどうかを決めるのは、このダンジョンで実際に生活することになるだろうペナパルポ達だ。
なのでロザリアンヌは今すぐにでもペナパルポをここへ連れてきて、このダンジョン内を見せ相談したかった。
「まだ確かめていないことも多い。まずはダンジョンを踏破してからの方がいいだろう」
気持ちが急いているロザリアンヌとは対照的にレヴィアスは至極冷静だった。
「何を確かめるって言うの?」
「まずはこの石鹸の木がダンジョンに淘汰されないかだな」
「えっ、だって・・・」
フェンリルの意思だとしたらそんな事ある訳が無いとは言い切れなかった。
ダンジョンってそもそも不要な物は消滅するか飲み込まれ、ダンジョンはずっと同じ状態を維持し続けているのだ。
メイアンのダンジョンだってスライムがダンジョンの掃除屋と呼ばれていたのは、スライムがその役目の一端を担っていたからだ。
「確かにフェンリルは開墾しただけダンジョンが成長するとは言っていたが、その意味がロザリーの解釈で合っているかはまだ疑問だ」
言われてみるとまったくその通り過ぎて、ロザリアンヌは咄嗟に何も反論できなかった。
日用雑貨の木の種まで手に入れて、すっかりここで生活できると思い込んでしまっていた。
ペナパルポ達があんな寒く薄暗い要塞監獄で厳しい生活強いられていると思うと、一刻も早くあの場から解放されてもっと自由でもう少し豊かな生活をして欲しいと願ってしまっていた。
だから気持ちだけが先走って思い込んでいたと言われればまったくその通りなのだが・・・。
「でも、わざわざ開墾しろって言ったんだから、少なくとも作った田畑は淘汰されないよ。私はそう信じたい」
ロザリアンヌはこの大陸の人々のことを考えていたフェンリルを信じたかった。
日用雑貨の木なんて言う反則技のような事ができるなら、開拓できて永住できるダンジョンがあって欲しいと思っていた。
この夜と雪の大陸のダンジョン内に明るく豊かに暮らせる街があってもいいだろうと。
少なくとも他の街から役立たずと廃棄されたあの要塞監獄の人々だけでも、飢えずに暮らせたらと願った。
「まずはこの石鹸の木がどうなるか結果を見届けてからでも遅くはないだろう。その間にもう少しダンジョンを調査し踏破するとしよう」
一般的に考えて魔物がリポップするようにダンジョンも1日かからずに元の姿に戻ると言われている。だとしたら明日になっても石鹸の木がこのままだったら、自然とそれが答えになるだろう。
「そうね」
「じゃぁまずはその種を放出するという魔物を実際に見てみたいな」
「それ、私も気になってた」
「では、奴らに狩り尽くされる前に私たちも行こうか」
ロザリアンヌとレヴィアスは、競い合って魔物を狩っているだろうキラルとテンダーが向かった方角とは別の方向へと駆けだした。
そして見つける木の根っこの魔物。見た目は枝葉の少ないガジュマルかマンドラゴラかといった風貌で、体長50センチくらいの魔物だった。
「攻撃してくるまで待つのってちょっと辛いかも」
見つけてすぐに立ち止まり観察を始めたのだが、木の根っこの魔物も苗木に擬態でもしているのかまったく動かない。
下手に攻撃をしたらきっと一撃で倒してしまうだろうと思うとなかなか手も出せずにいたが、仕方なくそっと近づいてみる。
すると間が3メートルほどに縮まったところで枝を構えるようにロザリアンヌに向けて来た。
ロザリアンヌは次はどんな日用雑貨の種が手に入るのかとワクワクした。
「来るのね!」
ロザリアンヌが思わず声を発すると、その枝から放出されたのは日用雑貨の種ではなく、小さな種というかまん丸い豆だった。
それもマシンガンのように連続でダダダダダッと、地味に迷惑な感じで。
「何でよ!」
キラルやテンダーが嘘を言う筈もなく、見た目も間違いなく同じ魔物の筈なのにどうしてという疑問より期待が外れたショックの方が大きかった。
「似たような魔物がいるって事かな?」
腹立ち紛れに思わず握ったこぶしで殴りつけて根っこの魔物を倒したロザリアンヌは、レヴィアスに答えを求めた。
「こいつだけでは何とも言えないな」
ロザリアンヌは根っこの魔物が放出した豆を集め、ドロップ品だろう炭をマジックポーチにしっかり収納し、レヴィアスを促す。
「じゃぁ次行きましょう!」
ロザリアンヌとレヴィアスは答えを求め、さらなる魔物を探してまたも走り出すのだった。




