236
いつ天気が回復するか分からないホワイトアウトの中、フェンリルの北と言った言葉とテンダーの方向感覚を信じて進む事38時間、漸く見つけたダンジョン。本当に長い長い時間だった。
天気が晴れだったならきっと、封印の祠からまっすぐに空を飛んで1時間もかからなかったと思う距離。
途中本当にこのまま進んでいて大丈夫なのかと、何度不安に押しつぶされそうになったか分からない。
それにペナパルポを待たせているという思いもあって、ロザリアンヌの焦りから来るストレスは相当なものだった。
「あったぁ~」
ダンジョンを見つけられた安堵からロザリアンヌは思わず脱力してしまう。
「よかったです~」
方向を見失わないように寝ずに頑張ってくれたテンダーもかなり安堵しているようだった。
「テンダー、なんならここで休んでいていいぞ」
レヴィアスがテンダーの体調を心配して声をかける。
「いえ、絶対に一緒に行きます! ここでは私の実力をしっかり見せつけますからね」
しかしテンダーは目をギンギンにさせて、やる気満々の態度でキラルを睨む。テンダーはキラルにイジられたのを相当根に持っているようだ。
「ごめん、僕はどうかしてたんだ。あれは僕の本心じゃないから許して欲しい」
「心にもないことは口からは出ません!」
本当に申し訳なさそうに謝るキラルに、テンダーは許す気は無いとばかりに言いつのる。
「キラルはもう体調は大丈夫?」
「もう平気。心配かけてごめん」
キラルはダンジョンを見つけるまで精霊体に戻り、ロザリアンヌの体の中で休んだことですっかり元気を取り戻したようだったが、少し落ち込んで見えるのはテンダーとの事があるからだろう。
ここでロザリアンヌがテンダーにキラルを許してやれというのは簡単だったが、そんな方法じゃきっと本当の解決にはならずわだかまりが残る気がした。
「じゃぁ今回はダンジョンの調査もしたいし、私はレヴィアスとキラルはテンダーと組んで攻略を進めましょう」
「えぇー、どうしてです!」
テンダーの疑問も当然だった。弓も使うが短剣での接近戦が癖になっているテンダーと、魔法も使えるがピコピコハンマーが主のキラル。魔法が主のロザリアンヌと最近は殆ど銃での攻撃が主となっているレヴィアス。
前衛の二人どうしと後衛の二人どうしというあまりにもバランスの悪い組み合わせだ。
もっとも全員が中衛も務められソロでも大丈夫なのだから何の問題も無いのだが、問題があるとすればそれは、連携が上手く取れるかという事を含めた殆ど感情の問題だろう。
「だってテンダーはキラルに実力を見せつけたいんでしょう。思う存分やったらいいわ」
キラルとテンダーが上手く協力してダンジョンを攻略できるかどうかよりも、ロザリアンヌはレヴィアスと組んでダンジョンの調査を入念にする為にも、ダンジョンの魔物のことはキラルとテンダーに任せるのが合理的だと考えていた。
キラルとテンダーの二人にダンジョンの魔物を任せても大丈夫だろうと。
「ロザリー様のお心遣い感謝します。では、キラル。どちらが魔物をより多く狩れるか勝負です!」
ズビシ! とキラルを指さし挑戦状を叩き付けるテンダー。
「いいけど、負けても根に持たないでよ。僕、わざと負けるのってできないからね」
ニコッと笑うキラルの笑顔にいつもの癒やしの効果は無いようで、テンダーは怒りのボルテージを上げたようだった。
「キィーーー!」
「何でもいいが早いところ攻略してしまうぞ」
「そうね、行きましょう」
ロザリアンヌとレヴィアスは二人のそんなやりとりをスルーして、さっさとダンジョンへと足を踏み入れた。




