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自分の周りに結界を張っても前方が見えず飛ばされてしまうほどの猛吹雪の中、ロザリアンヌ達は自力で飛ぶのを諦め魔導艇に乗り込んだ。
しかし魔力操作で移動する魔導艇でも自力で飛ぶよりはマシという程度のスピードしか出せず、フェンリルの言っていたダンジョンをなかなか見つけられずにいた。
ペナパルポにはすぐに帰るようなことを言ってしまった手前、ロザリアンヌは肝心のダンジョンを見つけられず焦り始めていた。
「参ったわね。もう少し詳しい場所を聞いてくれば良かった・・・」
ロザリアンヌは今さらながらに溜息を吐いた。
「さらに北って言い方だったよね」
「私たちなら辿り着くのも容易いとも言ってましたよ」
「問題はこの猛吹雪だな」
周りの景色さえまったく見えない、吹雪く風に覆われた暗く真っ白な世界に方向感覚を失われていく。
しかしロザリアンヌはダンジョンも探知できるので、気づかずに見失う心配などない筈なのだが・・・。
「気づかずに通り過ぎたって事はないよね?」
「それより方角はこっちであってるるの?」
「天気が回復するのを待つか?」
ロザリアンヌだけでなくキラルとそしてレヴィアスまで不安を隠せなくなっていた。
「北ならこの方角で間違いないです!」
驚いたことにテンダーがキリッとした態度できっぱりと言い切る。
「テンダーって方角が分かるんだ」
「長年森の中で生活してきたのですよ。方向感覚はきっちり身に付いています。任せてください!」
ロザリアンヌは素直になるほどと頷いた。
「意外な特技だね~。テンダーにも頼れるところがあったんだ」
「それだけだがな」
「なんですかそれ! それじゃまるで私が他に取り柄もない役立たずみたいじゃないですか!」
キラルとレヴィアスの反応にテンダーは不満を露わにする。
「フフフ、テンダーは他にも薬草の造詣にも深いし薬作りだけでなく錬金術だってできるよね~」
「森にいた頃は戦闘技術も高いと言われてました!」
ロザリアンヌはテンダーの味方をしたつもりだったが、テンダーはそれでも不満があったらしい。
「僕たちには通じないけどね~」
「あなた方が規格外なだけです! 今でも他の者には負けませんから!」
「分かってるって。ちょっと規格外の魔物もいたりするだけだよね」
キラルがどういう訳かテンダーを執拗にイジるので、テンダーもムキになり始め表情が硬くなっている。
「その辺にしておけ。方角が合っているならそろそろダンジョンが見つかってもいい頃だ」
「先生~。私は無能扱いされた気がして悔しいです。このままでは引けません。ダンジョンに着いたら私にお任せください。絶対に実力を見せつけてやります!」
「ごめんねテンダー。テンダー独りに任せられるほど余裕がないのは分かって。ダンジョンは総力で最短踏破を目指したいの」
レヴィアスに縋るように言いつのるテンダーをロザリアンヌがあしらう。
普段ならテンダーの成長を見守り任せるところなのだろうが、今回はペナパルポとの約束もあるし、飢えている子供達のことを考えると悠長にしてはいられない。
一刻も早くダンジョンを踏破し、少しでもダンジョンを開墾し、成長の早い作物を育成させようと考えているのだから。
「分かりました。このテンダー、必ずやお役に立てて見せます!」
「うん、お願いね」
ロザリアンヌはテンダーが納得してくれたようなので取り敢えず安心する。
しかしそれよりもキラルがどうしてテンダーを執拗にイジったのかの方が気がかりだった。
いつものキラルらしくないというか、いつもならキラキラ笑顔で周りのイライラを解消させるのがキラルなのに・・・。
「キラル。もしかして疲れてる?」
「・・・・・・」
キラルの返事がないのがその答えのように思えた。
「この大陸には太陽の光が無いからな」
「太陽の光とキラルにどんな関係があるの?」
「キラルは光の精霊だぞ。光の弱いこの大陸で元気でいろという方に無理がある」
ロザリアンヌは考えてもいなかったレヴィアスの説明に愕然とする。
確かにこの大陸に太陽の光は届いていない。それに室内の明かりもとても弱い。
(でもそれならば封印の祠を攻略中だって・・・。封印エリアの中は暗くはなかったから? だけど今までだって夜の移動は普通にしてたよね? ここがずっと夜のままだから? それとも・・・)
「もしかしなくてもずっと無理してたって事?」
「大丈夫だよ。ロザリーが心配することじゃない」
ロザリアンヌの不安たっぷりな質問にキラルは無理に笑ってみせる。
「心配するに決まってるでしょう。大事な人のことだよ。隠さないで本当のことを言って! 知らないままでいる方が辛いよ・・・」
「・・・こうも夜が長いと人間体のままだとちょっと辛いかも。でもロザリーがちょっと魔力を分けてくれれば大丈夫」
(そういえば精霊体の時にもそんなことを言っていた気がする。もしかしたら私の体を出入りすることで魔力を補っていたって事なのかな?)
それなら答えは簡単だよねとロザリアンヌは思う。
「キラルが辛いならまた私の体に入ったらいいじゃない。無理して人間体のままでいなくてもいいよ」
「でも・・・」
キラルは何かを思い悩み躊躇しているようだった。
「じゃぁこうしようか。私が休んでいる間私の中に入ったらいいよ。また前みたいに一緒に寝よう」
ロザリアンヌはとてもいいことを思いついたとばかりにキラルに提案したのに、キラルだけでなくテンダーもそしてレヴィアスまでもギョッとした表情をしたまま口を開かない。テンダーなど何故か顔を赤らめ始めている。
(何かマズいことでもいったかな?)
ロザリアンヌが三人の反応に不安になっていると、キラルが突然笑い始める。そして・・・。
「じゃぁ遠慮無くそうさせて貰うね」
いつも以上のキラキラ笑顔を浮かべウインクしてくるキラルに、ロザリアンヌは問題が解決できたと知り心からホッとするのだった。




