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「それでまずはその転送魔法って言うのを私に教えてくれない?」
転移と同じ魔法だと思うけれど、何が凄いって人や物を自分の任意の場所から場所へ移動させられるって事だ。
ロザリアンヌの転移魔法は自分が中心で、ロザリアンヌに触れていないと他の人を転移させられない。そして転送文箱は登録した文箱どうしでしか手紙を転送できないというとても不便な点がある。
なので自分が一緒でなくても他者を転移させられるペナパルポの転送魔法は、本当にかなり凄いものなのだ。
もっとも完全に見えても何か制約があったり不便もあるのかもしれないが、それでもペナパルポの転送魔法を習得できればロザリアンヌにできるようになる事がさらに増えるだろう。
例えば以前からずっと考えている転送文箱の改善だ。
スマホのメール機能のように転送文箱にアドレスを付け、アドレス転送を可能にできるかもしれない。
他にはロザリアンヌが旅先で作るポーションやデバフ玉などをそのまま転送させる事で、ソフィアの店の在庫不足を心配しなくてよくなる。
もっと大きな事を言えば全大陸全国にソフィアの錬金術店の支店を作ることも可能になるかもしれない。
もっとも転送魔法を使える人は少ないという話だから簡単に習得できないのだろうが、それでもロザリアンヌが転送魔法を習得できれば、もしかしたらいずれは転送魔法を魔導具化して流通業界にさらなる革命を起こせるかもしれない。
ロザリアンヌはできるようになるかもしれない事を考えれば考えるほどワクワクし始めていた。
「お前は馬鹿か! 今、ここの奴らを飢えさせない方法からだと自分で言ったばかりだろうが。転送魔法は俺の要望が叶うまで秘匿させて貰う!」
「え~~、ケチ! 飢えさせない方法の為にも習得したかったのに」
ロザリアンヌは食い下がってみたがペナパルポは眉をつり上げたまま表情を崩さない。しかし嘘を言っている訳ではないという思いもあるので、ロザリアンヌも表情を硬くし譲る気のないことを伝えてみる。
本当に流通業界に革命が起こせればこの地で何か産業を興し、レヴィアスが展開している商会と取引することも可能になると考えていた。
そうなれば食料や資材など足りない物を手に入れられて、一時凌ぎでなく問題を解決できるだろうと。
「そもそも転送魔法はこの俺様でも習得するのに苦労したんだ。そう簡単に教えられないし簡単に習得できると思うな!」
「はぁ・・・。分かったよ。ここの食糧問題が解決したら絶対に教えてよ!」
「教えるだけならいいだろう。だが習得できなくても文句は言うなよ」
「分かってるって」
ロザリアンヌはペナパルポから言質を取ったことで取り敢えずは納得した。
流通業界に絶対に革命を起こせる保証もないし、何より商会と取引できる材料を見つけられていないので時間がかかる問題になるだろう。だから今は大人しく確実にできることから始める事にしたのだ。
「それでどうやって食糧事情を解決させる気なんだ」
「まずはフェンリルが言ってたダンジョンを探しに行ってくるよ」
フェンリルが解放したダンジョンは確か開墾しただけ成長するダンジョンだと言っていた。
それって畑を作れば作るほど広くなるって事で、逆に言うならダンジョン内に畑を作れって事だとロザリアンヌは解釈していた。
だからここの人達に開墾させれば取り敢えず食糧事情は解消されるだろうと考えている。
後はそのダンジョンに肉になる魔物や魚などが居れば食料に関しては何の問題も無くなる。なのでまずはダンジョンの場所を確認しどんな魔物が出現するかを確かめておきたいと思っていた。
「そのダンジョンとやらの話を詳しくしてくれるんじゃなかったのか」
「詳しく話している時間も勿体ないわ。まずはダンジョンを探して転移できるようにしてくるから話はそれからね」
「おい、待て。そのまま逃げる気じゃないだろうな!」
ロザリアンヌが今にも転移しようとしているのを感じ取ったペナパルポが怒鳴り声を上げた。
「逃げるってどうしてよ? 転送魔法を教えてくれるんでしょう。まあそう時間をかけないつもりだからちょっとだけ待ってて」
ロザリアンヌの予測では、多分そう深いダンジョンではないと思っている。下へと階層を増やす成長パターンだったとしても、開墾しただけ成長するという縛りがあるのだからたいした深さではないと思える。
それにあのフェンリルはきっとこの大陸の人々の事を考えているのだから、この地の為にならない事などしない筈だと信じられた。
だとしたらダンジョンの攻略も踏破もそう難しくはないだろう。
ロザリアンヌは少し不安げにするペナパルポに手を振ると要塞のような牢獄から脱出し、フェンリルの言っていたダンジョンを探す為に北を目指して飛び始めるのだった。




