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「用事も殆ど済んだしそろそろ冒険を再開しようか」
「え~っ、僕はまだリリとダリの先生をしてないよ」
レヴィアスがリリーとダリアの双子にも闇魔法を教えていたことから、キラルも同じように光魔法を教えたいとずっと言っていた。
何をそんなに拘っているのかと聞けばレヴィアスがリリーとダリアの双子に『先生』と呼ばれていることが羨ましかったらしい。何しろキラルは双子にもキラルと呼び捨てにされていたからだ。
「また戻ってくることもあるし、その時は今度はキラルが先生をしたらいいよ。その為にも早いところあの雪の大陸のダンジョンも踏破しちゃおう」
「私の方も取り敢えず一段落と言ってもいい段階だ。問題ない」
テンダーに認識阻害を習得させる為、闇魔法を教えていたレヴィアスも冒険の再開を了承してくれる。
「テンダーはちゃんと認識阻害使えるようになったって事?」
「当然です。闇魔法などすでに習得しました!」
やたらと自信満々なテンダーにロザリアンヌは懐疑心を持ち少し顔をしかめてしまう。
「お前がまともに使えるのは認識阻害だけだろうが。リリーとダリアの方が余程素質がある」
やっぱりなツッコミがすかさずレヴィアスから入る。
「私は自分に必要な魔法を優先しただけで、他の闇魔法もその気になればですね」
「「私たちはもう覚えたよ。ねぇ~」」
テンダーのいい訳をリリーとダリアが途中で遮る。
レヴィアスはリリーとダリアには認識阻害よりデバフを優先させたようだ。
「そうだな、スライム相手とはいえデバフのいくつかはしっかり使えるようになったな」
レヴィアスがリリーとダリアをとても優しげな表情で見つめるのを見て、ロザリアンヌは何故かとても嬉しくなった。
「じゃぁリリとダリもデバフ玉の錬成してみる?」
ロザリアンヌは話を聞いて、すでに錬金術店の主力商品となっているデバフ玉のいくつかをリリーとダリアに任せようかと考えた。
もっともSランクダンジョンの魔物にも通用する物はまだ無理だろうが、折角覚えた闇魔法の熟練度上げの練習にはなるだろう。
「「やる~!」」
「レシピを教えてくれるってこと?」「本当にいいの?」
リリーとダリアは元気に返事をしてはみたが、錬金術のレシピは錬金術師にとって大事なものだとしっかりと教えられているらしく少し不安げな表情をする。
「作れるなら誰にでも教えるつもりよ。魔物にしか効かないようになってるし大丈夫。それよりも覚えなくちゃならない事がいっぱいあって大変よ。覚悟はある?」
何しろソフィアが作る素材を使ってのデバフ玉とは違い、魔石に魔方陣を書き込まなくてはならないので、魔方陣の勉強も必要になる。
本来なら魔方陣は魔法学校で習うものなので、他にもいろいろな知識が必要になるだろう。
ロザリアンヌの作るデバフ玉はただ単に闇魔法を知っている程度で作れるものではないのだが、きっと二人ならデバフ玉のレシピを習得するだろと信じられた。
「師匠ともきちんと相談してちゃんと店に並べられるものを作るのよ」
「「はい!」」
ロザリアンヌは真剣な顔で返事をするリリーとダリアを見て、二人はもう立派な錬金術師なのだと確信できた。
そして自分が魔法学校で使っていた教科書や知識書やノートなどを二人に貸し出すと決める。
ロザリアンヌがしまい込んでいるよりも二人に有効に使って貰った方がずっと役に立つだろうと思えたからだ。
「これからこれを使って勉強するといいわ」
冒険を再開させるので付きっきりで教えることはできないが、リリーとダリアの成長をロザリアンヌは心から願った。
そして実際にデバフ玉の錬成を実演して見せながらレシピを丁寧に教え、ついでに在庫の補充も済ませたのだった。




