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「私アンジェリカよ、よろしくね」
「ロザリアンヌです」
まったくよろしくする気の無いロザリアンヌは、取り敢えず名前だけは名乗って返した。
同じクラスの子が時折こうして話しかけてくるが、ロザリアンヌはあまり興味も無かった。
他人に興味が無い訳では無く友達だって欲しいとは考えていたが、問題は年齢的な事もあると思う。
今の所話しかけてくるのは女の子達で、大抵の場合はロザリアンヌに探りを入れる感じだったが、アンジェリカは少し様子が違った。
そもそも前世と今世と通算で40年以上の人生を経験して来た私としては、精神年齢的には乙女の気分でいるとはいえ、まだまだ子供としか言いようのないこの子達と今さらお友達ごっこなんてできそうもなかった。
どう考えても自分の子供か甥っ子か姪っ子かとしか思えない年齢の子達だ。
何だったら可愛いと愛でていたい存在にしか思えない。
見た目は子供中身は大人などこかの探偵の様に、子供達集めて少年探偵団なんて作る気も無いし、師匠がここでしか学べない事をしっかりと学んで来いというから入学したので、今の所それ以外に何の興味も無かった。
(他人の子供に構って居る時間なんて無いんだよね)
ロザリアンヌには学校と言う狭い世界の中でマウントの取り合いや縄張り争いする時間があったら、ダンジョン攻略をしてさらにレベルも上げたいし、マジックポーチの改善もしたいし錬金術で作りたい物もまだまだ沢山あった。
それに彼女達とロザリアンヌでは、力を合わせてみんな仲良く切磋琢磨しましょうなんてレベル差ではない。
そんな事は学校の教師がすれば良いと、ロザリアンヌは思っている。
ごめんね本当に構ってられないのよなどと考えながら、諦めてくれるのを待って適当に話を聞き流していた。
アンジェリカちゃんの話は自分の友達の自慢が始まり、誰それちゃんは何が凄いとかその誰それちゃんは聖女候補と友達だとか、要するにそんな人達と知り合いの私凄いでしょうって事らしいが、ロザリアンヌにはだからどうしたって感じでしかなかった。
友達の友達は友達じゃ無いよ。それって知人かどうかも疑わしいよとは間違っても言わない。反論しない。
そんなお友達仲間の中で自分の地位を確立するために、自分より地位の低い仲間が必要って事か?
それとも一人でも多く仲間に引き入れ一大派閥でも作ろうとしているのか?
何にしても面倒事はごめんだし興味も無ければ関わり合いたくもないと思っていた。
ただひたすら話し終わるのを待つだけだ。諦めて去ってくれるのを待つだけ。
今はこうして一人で来ているから対処も簡単だが、集団で押し掛けられる様になったら面倒事の始まりだ。
女の集団はいつの時代も何処の世界でも本当に面倒くさそうだ。
これはもう休憩時間は話しかけるなオーラを撒き散らしながら読書でもするしか無いかと、ロザリアンヌは図書館通いを心に誓っていた。
魔法学校の授業は午前中が座学で、午後からが実習だった。
座学はこの国の歴史や魔法学の基礎に数学や社会学など結構多岐に渡り、午後の実習は殆どが魔力操作から始まって魔法の発動から魔法の熟練へと続く。
午後の実習に関しては本科になっても変わらないが、騎士学校の生徒と共同での授業が週に二日ほどあったりする。
そして【プリンセス・ロザリアンロード】の本編が始まるのは本科になってからだ。
それまでは出会いイベントなどをこなしながら少しずつ親密度を上げていく。
なのでたとえ【プリンセス・ロザリアンロード】パート2が始まっていたとしても、今は準備期間出会いイベント待ちといった所だった。
それからロザリアンヌは既に魔導書でかなりの魔法を覚え使える様になっていたが、本来はこの午後の授業で魔力操作を覚え自力で魔法を覚え熟練させて行く。
それに何故かゲーム内同様覚えた魔法は簡単に使いこなせたが、アンナに言わせるとそもそもそこから間違っているらしい。
大抵の場合適性みたいなものがあって、魔法も覚えやすい物や覚えづらい物があり、たとえ覚えたとしても使いこなせるかどうかは個人の資質によるところが大きく、熟練させるのも難しいらしい。
例えば最近では空間魔法の熟練度が進み、ただ空間を作り出せるだけだった魔法が空間内の探知もできる様になっていた。
ダンジョン探索にはとても便利な魔法だった。
その要領で他の4属性の魔法の熟練度も上げてみようかと考えてはみたが、ロザリアンヌとしては魔導書が買えるならそっちの方が手っ取り早いと思い直した。
光魔法はキラルの成長と共にあれこれと使える様になっているし、要するにロザリアンヌは午後の授業は自主練と言う事で好きな様に過ごしても大丈夫だろうと目論んでいた。
中級ダンジョン探索の許可が下りたら担任に交渉して、午後の授業はダンジョン探索をしようと考えていた。
どう考えてもレベル39は微妙過ぎると、いまだに納得がいかないロザリアンヌだった。
そして午後の授業が始まり、案の定退屈な時間を過ごす事になったが、担任にファイヤーアローを披露して一年間の自主練と言う午後の自由時間を勝ち取った。
ファイヤーアローは火属性の初級魔法だったが、入学一年目に扱える様になれば十分な魔法だ。
他にも披露できる高位魔法はあったが、やり過ぎて目立つ事を避けたかったロザリアンヌは一応慎重に行動したのだった。
しかしまだ中級ダンジョン探索の許可は下りていないので、家に帰り錬金術をする訳にもいかず図書館へと足を運んだ。
図書館は魔法学校騎士学校学術大学の中央にある管理棟の隣に有り、共通の施設なだけあってその蔵書の数もかなりの物だった。
中でも興味を引かれたのが魔導書の作り方や魔道具についての考察や精霊に関する物だった。
各属性魔法に関しての考察なども色々とあったが、それはまぁ追々授業が進んでから考えよう。
取り敢えずこれでしばらくの間の午後の過ごし方だけでなく、休み時間の過ごし方も決まったと、ロザリアンヌは意気揚々と本を手に取るのだった。




