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「そんなの聞いてないよぉ~」
結婚すると聞いて普通に教会で式を挙げるものだと思い込んでいたロザリアンヌは、アンナの結婚式の日が迫ったことで初めてあれこれ確認していた。
乙女ゲームの世界ではエンディングは教会で永遠の愛を誓うのが定番だったりするので、結婚式もそうなのだとすっかりと思い込んでいたのだ。
しかしこの世界は貴族様式と前世での常識が混ざり合い、教会での式とは別に当然お披露目パーティーが催されるそうだ。
「多分アンナはちゃんと知らせてくれていたと思うよ」
「パーティーがあるとは聞いていたけど、そんなの内輪だけの小さなものだと思うじゃない」
今回マークスの貴族階級とは関係なく、王太子が出席することから披露パーティーは王城のホールが使われる事になっていた。
それに思った以上に参加者が多いらしく、式よりも披露パーティーに力が入れられているらしい。
そしてロザリアンヌはその肝心なところをすっかり確認し忘れていた。
「じゃぁやっぱり勝手に思い込んでたロザリーが悪いんじゃないか」
「そうなんだけどさぁ・・・。ドレスどうしよう? 卒業式に着たのでいいと思ってたんだけど・・・」
魔法学校卒業式の為にソフィアが用意してくれたドレス。卒業式後のパーティーで一度しか着ていないのでまた着られると何気に喜んでいた。
しかし王城のホールで貴族も多数出席する豪華なパーティーとなると、卒業式に参列した人も多く、あの時遅れて行って下手に目立ったからドレスのことを覚えている人もいるかもしれない。
貴族社会では同じドレスを着ないのが常識だと聞いている。一般市民のロザリアンヌには関係のない事だけれど、折角のおめでたい席でよく知りもしない人から難癖を付けられるのは避けたいところだ。
それも自分に対して向けられるだけの悪意ならまだしも、アンナにも嫌な思いをさせることになったらと思うと、ロザリアンヌは少しの油断もできないと考えた。
「でもさぁ、今さらどうすることもできないよね」
もうすでにアンナの結婚式は目の前に迫っていた。
「はぁ~。・・・」
レヴィアスはテンダーとリリダリを連れて相変わらずダンジョン通いに余念がない。テンダーが大分闇魔法を使えるようになったことよりもリリダリの上達ぶりに興味があるようだ。
ソフィアやカトリーヌに相談しようにも貴族社会の事など詳しい訳がない。それに余計な心配をかけることになるかもしれないと思うと話しづらいと思ってしまう。
「アンナに相談してみる?」
「アンナだって自分のことで忙しいのに迷惑かけられないわ」
「じゃぁどうするの?」
「そうねぇ・・・」
貴族社会に詳しくて相談に乗ってくれそうな人と考えるとロザリアンヌには一人しか思い浮かばなかった。
「ユーリに相談してみようか?」
「いいんじゃない。お茶会のあと随分とへこんでたみたいだから復活させるのにもいい案だと思うよ」
キラルはロザリアンヌに余計な情報を入れてくる。確かにあの件以来ユーリから文が来ていないので、少しだけ寂しさを感じ仲直りすべきかどうかロザリアンヌも悩んではいた。
ユーリがロザリアンヌに特別な感情を抱いていると聞いて、これ以上期待させるのも良くないかという思いと、定期的な文のやりとりが習慣になっていて、ふとした瞬間に寂しさを感じる思いとがせめぎ合っている感じだった。
「取り敢えず連絡だけしてみるよ。もし返事がなかったらその時は諦めて別の方法を考えようか」
「そんな心配ないと思うけどな」
ロザリアンヌは早速相談に乗って欲しいことがあるとユーリに文を送る。すると思っていた以上に早い返信が届き、あっという間に会う約束を取り交わしていた。
「ほらね。心配することなかったでしょう」
「そ、そうね。キラルも一緒に来るでしょう?」
商店街の中央通りにあるカフェで待ち合わせたのでロザリアンヌはキラルも誘ってみた。
「そうやって改めて確認されると来て欲しくないみたいに聞こえるよ」
「そんなことないわよ。キラルもパーティーに参加するんだから服装は考えなくちゃならないでしょう」
「結婚式には僕も出席していいの?」
「当然じゃない。レヴィアスには先に断られてるし私のエスコート役はキラルしかいないよ」
レヴィアスに結婚式の話をした時に、出席を聞くより先に自分は出ないとはっきりと言われていた。
メイアンに戻ってきてから念のためにもう一度確認した時も、必要ないと断られている。
「じゃあ行く。僕の服も新しいの用意できるかな」
さっきまでの少し不機嫌そうなキラルの態度を、きっと結婚式に参加できないと思って拗ねていたんだろうとロザリアンヌは勝手に解釈した。
「そうね。きっと美味しいお菓子もあるだろうし、お茶会での態度もちゃんと謝ることにする」
「お茶会のやり直しだね」
(お茶会のやり直しかぁ・・・)
本当ならアンナとしたかったとロザリアンヌはちょっとだけ溜息を吐いた。




