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自室に戻り冷静になると、この転移魔法のせいで大賢者様は追われることになったのだと思い出しロザリアンヌは少し後悔していた。
しかしあの場に留まり話を続けていたら、あの場にいたみんなを嫌いになってしまいそうで怖かったのだ。
ロザリアンヌも面倒くさいことをジュリオに丸投げしている立場でもあるし、ユーリとの文のやりとりを面倒に思うこともあったが癒やされることもあった。
それに何よりマークスだけでなくアンナにまで不信感を抱き、アンナの結婚を心から祝えなくなるのが嫌だった。
「とんだお茶会だったわ」
ロザリアンヌはベッドに体を投げ出し呟いた。
しかしゴロンゴロンと転がりながら、もう少し上手いやり方もあったかもしれないと思い悩んだ。
そしてキラルが一緒に付いてきてくれなかったのが面白くなかった。
「まったく・・・。反省会もできないじゃない」
ロザリアンヌは今すぐ話をできる相手がいないことを寂しく感じていた。
「私よりお菓子の方を選ぶなんてどれだけだよ。もう!」
心の中にあるモヤモヤをキラルにぶつけ憂さを晴らそうとしてみるが、それは間違いだとすでに気づいているので思うようにいかない。
「はあ~。・・・・・・よし、錬成しよう」
キラルやレヴィアスが帰ってきたらもう一度話をしてみよう決める。
反省も対策も今は一人じゃできないと判断し、ロザリアンヌは亀の聖獣に対抗すべく何かと水中高速移動できる何かを考えることにした。
「ウジウジ考えていたって時間の無駄無駄。こういうときは何かに集中するのがいいのよね」
ロザリアンヌは錬成室へと移動すると、もうすでに作業と化している商品化されたポーションの錬成をしながらあれこれと考える。
水中高速移動手段に関しては前世のダイバーの姿を思い描き、水圧対策の結界をダイバースーツに付与し酸素ボンベと高速移動を可能にするスクリューを背中に背負う形を考えていた。
大まかな形としてはできあがっているが、細かいところや使用する素材に関してまだまだ考えるところがありそうだった。
何しろイメージがしっかりできないことには錬成の成功率がかなり下がってしまう。
それに水中で使用する物なので絶対に失敗は許されない。窒息や圧死なんて考えただけで怖い。いつもより慎重すぎるくらいに考えた方が良いだろう。
あとは物理が殆ど効かず魔法を簡単に弾かれる強敵を想定してのアイテムだが、これは酸を使って溶かす方法を考えていた。
ロザリアンヌが使う物理も魔法も防御する結界すらも溶かせる酸が作れたら、それはもうこの世界で最強の武器となるのじゃないだろうかと思っている。
しかしそんな酸を何に入れどうやって敵に浴びせるかだ。
たとえそんな酸を作れたとして、結界すらも溶かす酸に耐えられる物質が存在するのだろうか?
それにそんな武器を作ったとして、それはエリクシルやエリクサー以上に世に出してはいけない物なんじゃないかという思いもある。
そんな思いがあるせいか、上手い具合に錬成案が思い浮かばずなかなか先に進まないでいた。
「ロザリー、随分と根を詰めているのね。少し休んだらどう?」
カトリーヌに声をかけられ気づくと、錬成台の上だけでなく部屋中がポーションの山になっていた。
当初の目論み通り庭園でのお茶会の事は忘れられたが、作りすぎたポーションをアイテムボックスに仕舞う作業をカトリーヌに手伝わせる羽目になってしまった。
「ごめんなさい」
「何を謝ってるの? これも私の仕事だよ。それに子供の面倒を見るのは親としての嬉しい役目でしょう」
ロザリアンヌは久しぶりに母親の温かい愛情に触れた気がして少し照れくさくなる。
「ありがとう・・・」
「ロザリーが錬成する姿を初めて見たわ。私はロザリーの事を知らなさすぎるわね」
寂しそうに微笑むカトリーヌの姿にロザリアンヌは心が痛んだ。
ここはゲームの世界だと理解し家族の関係も希薄に過ごしてきた。
それでも今は少しは分かり合えたと思っていたが、関係を改善する為の時間がなさ過ぎる。
世界を冒険して歩く事になってしまい、一緒にいる時間もあまり作れないことがもどかしい。
「そんなこと言ったら私だってお母さんのことを何も知らないよ。でもお母さんがくれる愛情はちゃんと感じているから大丈夫」
ロザリアンヌは自分に言い聞かせるように言った。一緒にいる時間は殆ど無いけど、こうして相手を思う気持ちがあるなら大丈夫だと。
「ただいま~」
折角いい感じに盛り上がりそうな雰囲気をぶち壊すようにキラルが戻ってきた。
「お帰り。お菓子は美味しかった?」
「うん、とっても。やっぱりお城は特別だね」
ロザリアンヌは嫌みたっぷりにキラルを出迎えるが、キラルにはそんな嫌みも通じなかったのかまったくスルーされる。
「それは良かったね」
「そんなことより、ロザリーには少し反省して貰わなくちゃね」
確かに自分でも少しは反省しなくちゃとは思っていたが、キラルにはっきり言われるとなんだか無性にイラッとした。
そして今にもキラルのお説教が始まりそうなのを感じ、ロザリアンヌはカトリーヌの心配そうな顔を見て場所を移すことを提案する。
「部屋へ行って話しましょう」
「そうだね。そうしよう」
キラルはカトリーヌに心配するなとばかりに笑顔を向け、先にロザリアンヌの部屋へと向かうのだった。




