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なんでこうなった?
ロザリアンヌは王城の庭園ガゼボでジュリオ・マークス・ユーリとアンナ・ウィル・キラルという大人数でテーブルを囲んでいた。
(合コンかよ・・・)
ロザリアンヌは思わずそんな事を内心で呟き溜息を吐いた。
久しぶりにアンナとのんびりとした女子会気分のお茶をする気満々だったのに、魔導書店を訪ねると何故かマークスと一緒に迎えに出たアンナ。
そして挨拶もそこそこにあれよあれよという間に馬車に乗せられ王城へと連れられて来たのだ。
『プリンセス・ロザリアンロード』の中ではこの美しい庭園でお茶をするイベントも確かにあった。
なのでリアルでそんな事があったらと考えた事もあったが、実際にゲーム内で攻略対象者だった面々を目の前にお茶をすることになるとは思ってもいなかった。
(ここにゼルファーが居たらオールキャストだな・・・。これはいったい何のイベントなんだ!?)
ケーキスタンドに並んだお菓子の数々に目を輝かせるキラルを横目にロザリアンヌは緊張せずにはいられなかった。
「最近はこういったお茶会とも縁遠くなっていたので今日は私も楽しませて貰うよ。まぁそんなに緊張せずに気兼ねなく楽しんでくれ」
「ホント?」「もう食べてもいいの?」
ジュリオの開催挨拶に待ってましたとばかりに返事をするキラルとウィルにロザリアンヌは気が気じゃなく、助けを求めアンナの方を見るが、アンナもロザリアンヌ以上に緊張しているようだった。
「ああ、遠慮せず好きなだけ食べてくれ」
「「いただきま~す」」
キラルもウィルも早速ケーキに飛びつくが、これからどんな話がされるのかを考えるとロザリアンヌはお茶を楽しむ気にもなれずにいた。
非公式とはいえ忙しいはずの王太子ジュリオがわざわざ出向いているし、それにさっきからニコニコ顔でロザリアンヌをずっと見つめているユーリもちょっと不気味に感じる。
これはもう絶対に何か面倒ごとが起きるに決まっている。余計な事は言うまい。ひたすらこの時間が早く過ぎることを願い、じっとしていようとロザリアンヌは貝のように身を堅くしていた。
なのでジュリオ達の会話の殆どはロザリアンヌの耳には届いていなかった。
「それでキラル君はウィル君と同じく精霊だと考えていいのかな?」
「!?」
突然の核心を突く鋭い質問にロザリアンヌはおもいっきり固唾を飲んだ。
「ロザリーごめんなさい。マークス様に隠し事はできないわ。私、話してしまったの・・・」
アンナが泣き出しそうな様子で謝るのを聞き、ロザリアンヌはそれも当然かとどこか冷静になっていく。
(結婚するともなればウィルのことを黙っている訳にもいかないだろう。第一精霊であるウィルと離れることもできないのだから、誤魔化しようもないのは確かだ。それにしてもそこからなんでキラルが精霊だとバレたんだ? アンナがそこまで話したという事か?)
「アンナ嬢は何も言ってはいないよ。ただそう考えれば色々と合点がいくのでね」
悶々と考えるロザリアンヌにユーリが補足するように言う。
「アンナが本当に光の精霊を宿していたのには驚いたが、まさか精霊が人間体になれるとは考えてもいなかった。実は今でも信じられない思いもあるのだが、アンナが嘘を言うとも思えなくてね」
マークスはアンナを心から信頼しているのだと感じ、ロザリアンヌも覚悟を決める。
ここから他へ情報が漏れることもないだろう。たとえ漏れたとしても今はもうそう悪いことにならないだろう。ロザリアンヌはなんとなくそう思えた。
「そうです。キラルは光の精霊です。でもそれを確認していったいどうするつもりですか?」
ロザリアンヌの知りたいところはそこだった。キラルを光の精霊だと知り、何かに利用しようとしているのではないかという疑いを持つのは当然だろう。
初代聖女のエリスと光の精霊が教会に囲われ利用されたように。
そしてそれを断ったら、その力を恐れられた大賢者様とレヴィアスのように追われるのではないかという不安もある。
だからこれだけはしっかりと確認しておかなければならないと、強い気持ちでジュリオを見つめた。
「ああ、安心してくれ。君を国に縛ろうなど考えてもいないし、利用しようなど思ってもいない。ただこれからも協力して貰えれば私も助かるので仲良くしておきたいと思っただけだ」
「協力ですか?」
ジュリオの物腰柔らかな物言いはかえってロザリアンヌに警戒心を抱かせた。
「君の発明品には本当に助けられている。この国の発展は君の力だと本当に感謝してもいる。これからも思う存分活躍してくれることを願うだけだ。そこで一つ提案があるのだが、このユーリを君の旅に同行させてはくれないか」
「お断りします!」
大人しく聞いていたロザリアンヌも思わず咄嗟に答えていた。
ユーリをロザリアンヌの冒険の旅に同行させ監視しようと考えているのは理解できるが、ロザリアンヌにはそれを許容できる要素が全くない。
それに監視を付けられるという事は囲われると同じではないのかと納得がいかなかった。
「私はこれでも大賢者候補とまで言われたのだよ。そうそう君たちの旅の足手まといにはならないだろう。それに私が一緒なら色々と便宜を図れることもある」
(そんな事は大抵レヴィアスがなんとかしてくれるから必要ないよ。第一仲良くしたいなんて言いながらやっぱり上からだし、これだから貴族の言う事なんて信じられない)
ロザリアンヌは口には出さなかったが今抱いた思いをおもいっきり顔に出してユーリを睨んだ。
ここしばらくの文のやりとりで少しは分かり合えたつもりでいたのにと残念な気持ちもあった。
だいたいが魔法学校でSランクダンジョン踏破を目指していた時に、その実力差は十分見せつけていたし理解できている筈のユーリの言葉とも思えなかった。
「ロザリー、お茶の席で威圧は良くないよ」
キラルに指摘され気づくと、ユーリだけでなくジュリオもマークスも声も出せずに萎縮していた。
「ごめん。威圧したつもりはなかったんだけど・・・」
この程度で威圧だと感じるレベルで情けないと思いながらロザリアンヌは三人を見回す。
「お茶会なんだから楽しくお茶を飲んで帰るだけだよね」
キラルにニッコリと微笑まれロザリアンヌは気分を少し落ち着けた。
落ち着く桁けれど、しかしどうにもこれ以上は話をする気になれなかった。
「お話は伺いました。でも今はそれ以上話し合う事など無いと思います」
ロザリアンヌはそう言うと目の前にあったカップを手にし、冷めた紅茶を一気に飲み干すと席を立った。
「今日はもう失礼してもよろしいでしょうか? キラルはどうするの?」
「僕はもう少しウィルとお茶してくよ」
この場にどうしてキラルが残る選択をしたのかロザリアンヌには理解できなかった。
しかしもうキラルのことがバレ、これ以上隠すことも無いとばかりにロザリアンヌはその場で転移を使い錬金術店へと戻ったのだった。




