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植物成長促進剤ポーションと散水機の商品化の話はレヴィアスの持つルートで進み、増毛剤はしばらくはソフィアの顧客相手の特別なルートでだけ販売する事になった。
植物成長促進剤ポーションは他の錬金術師でなければ作れないが、増毛剤は何故かロザリアンヌでなければ作れなかったからだ。
錬成に必要な素材の一部に違いはあれどほとんど同じレシピだったので、ソフィアもテンダーも増毛剤の錬成に挑戦してみたが、どういう訳か効果が薄く頭皮が活性化する事がなかった。
「私の何がダメなのでしょうか・・・」
増毛剤の効果を確認する為にダンジョンの魔物に使ってみたが、その違いは魔物相手であっても一目瞭然だった。
髪をフサフサに携えたスライムと薄らと産毛を生やしたスライムとを目の前にしてしまうと、どうしても失敗作にしか思えずテンダーは項垂れた。
ロザリアンヌは自分でやっておきながら、スライムにも頭部というか頭皮の存在があったのかとか、なんでスライムに効いているんだなどツッコみどころが満載なのはスルーした。
「テンダーは私たちの後輩。まだまだだからしょうがない」
「そう、ロザリーは特別な錬金術師だからしょうがない」
リリとダリが落ち込むテンダーを慰める。
「そんな事より練習だ。休んでいる暇などないと思え」
テンダーに闇魔法を伝授する事にしたら当然のようにリリとダリにも教える事になり、みんなで揃って初級ダンジョンへと出向く事になった。
「早いところ習得してよね。じゃないと僕が教えられないじゃないか」
レヴィアスに張り合ってキラルも光魔法を伝授すると張り切っていた。
魔導書のない闇魔法を覚えさせるのに聖女候補フィーリーナの時の要領で少しだけレヴィアスの魔力を与え習得させたが、闇の魔力が馴染まない事には他の属性の魔力を与える事ができないそうだ。
光魔法は魔導書で覚える事もできるのでキラルが張り切る必要もないのだが、どうしてもレヴィアスと同じ方法で習得させたいらしい。
なのでキラルは今のところ何もできずにいるのが悔しいのかみんなに発破をかけ急かしていた。
「キラル。私たちは増毛剤の検証も終わったし、みんなの練習の邪魔になるから別行動にしようよ」
ロザリアンヌは少しイライラした感じのキラルをみんなから引き離し別に連れ出す事にした。
「ロザリーがそう言うなら・・・。でも何をするの?」
「他に錬成したい物もあるけど今日はお休みにするわ。アンナが久しぶりに店の方に戻って来るんでしょう」
アンナは結婚を控え、マークスの屋敷で結婚式の準備と花嫁修業という名目で貴族に名を連ねる為の勉強をしていた。
キラルは屋敷に忍び込んでウィルと会っているようだが、ロザリアンヌはさすがに遠慮していたのだ。
しかし今回何日かの休暇を貰い魔導書店に戻って来るとキラルが教えてくれていた。
「お茶するの!?」
「そうね。何か美味しそうなお茶菓子でも買いに行こうよ」
「賛成~。じゃぁ早く行こう!」
「レヴィアスごめん。そういう訳だからみんなをお願いね」
「ああ、任せておけ」
スライム相手に闇魔法の練習を続けるみんなと離れ、ロザリアンヌとキラルは揃ってダンジョンを出た。
「二人だけで街を歩くのは久しぶりだね」
なんだか嬉しそうなキラルに言われ、ロザリアンヌはあれこれとメイアンに来てからの事を思い出しす。
「そういえばそうね。なんか随分と賑やかになったよね」
キラルと出会った頃の錬金術店はソフィアと二人暮らしで、店もそう大きくはなく部屋数も少なかった。
しかし久しぶりに戻ってみると店舗も少し大きくなり家の部分も大きくなっていて、錬成室も広く綺麗になり、ロザリアンヌだけでなくキラルとレヴィアスの部屋もちゃんと用意されていた。
その上客室も用意されていて、リリとダリが使える部屋まであった。なのでホテルに泊る必要もなく錬金術店にみんな揃って滞在できていた。
錬金術店で一人暮らしをするソフィアは、家が大きくなった分寂しさを感じるのではないかとロザリアンヌは心配したのだが意外にそうでもないらしい。
年中リリとダリだけでなくお兄ちゃんやちい兄ちゃんが店に出入りするし、お客も増え忙しくしていて寂しさを感じる暇もないとソフィアは言っていた。
ロザリアンヌはそんなソフィアの様子を聞くだけでも、錬金術店が以前と違い随分と賑やかになったと感じ嬉しく思っていた。
ロザリアンヌが離れていても大丈夫。そしてたまにこうして帰ってきても大丈夫。ここは自分の帰れる場所なのだと再確認した。
そして自分だけでなくキラルやレヴィアスの帰れる場所でもあるのだとそう思えた事が嬉しかったのだ。




