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「ところでさ、認識阻害を装備品に付与したい場合どうしたらいいと思う?」
ロザリアンヌは増毛剤改め植物生長促進剤の改良(?)の為ポーションを作り直していた。
どのくらい薄めればどの程度の効果があるか、または農作物にも効果があるかを確かめる為にも数が必要だとレヴィアスに言われ、珍しい事にレヴィアスが傍に付きっきりで錬成中。
レヴィアスはジュードの治める街に作ってきた畑でその効果を試し、すでに商品化も考えているらしい。
その為にも効果が高すぎるのは考えものだとポーションの改良という名の作り直しを命じられていたのだ。
レヴィアスからこういう指示が出るのは珍しい事だったので、ロザリアンヌは素直に付き合っていた。
そしてその合間にずっと考え続けていた問題の解決を試みてレヴィアスにも参考がてら聞いてみる。
「装備品に付与するのは問題があるのではないか?」
しかしレヴィアスはロザリアンヌの考えには反対らしく、レヴィアスの冷めた視線にロザリアンヌは少し戸惑った。
「なんで?」
「誰も彼もが簡単に認識阻害を使えるようになるのは問題だと思うぞ。取り立てて犯罪が増えるだろう」
ロザリアンヌは思わずハッとする。確かにそこまで考えてはいなかった。
テンダーの為だけの装備品として作るのは簡単だが、そういう付与を施した装備があると誰かに知られるのは確かにまずい。絶対に秘密にできるとは限らないのが問題だ。
他の装備品の付与効果は知られても何も問題なく、同じ物が欲しいと頼まれればそれ相応の金額で作るのも可能だ。しかし確かに闇魔法系の性能を付与するのははかなり問題が多い。
「テンダーがあまりにもみんなから注目されて困っているし、私達と同じように認識阻害が使えたらいいかなって思って・・・」
ロザリアンヌはまたもや自分の考えが足りなかった事を反省していた。
「仕方ない私がヤツに闇魔法を少し伝授しよう」
「テンダーに闇魔法を教えるって事?」
確かにテンダーが闇魔法を使えるようになれば、認識阻害だけでなく幻影なども使える事になるし便利ではある。その上きっと攻撃に関しても幅が広がるだろう。
「その方が話が早いだろう?」
「そうだね・・・」
「何か問題でも?」
ロザリアンヌのはっきりしない態度にレヴィアスは眉をひそめるが、ロザリアンヌは自分で解決したかったという思いをどこか捨てきれずにいたのだ。
第一テンダーに任せておけと言ったのを思い出すと、錬金術で解決できなかった事が少々悔しくもあった。
「約束したのに私ではテンダーの役に立てなかったんだなって・・・」
「そんな事はないだろう。こうして私に相談した事で解決できるのなら十分に役に立ってると思うがな」
レヴィアスの慰めもロザリアンヌには気休めにしか聞こえなかった。
安易に請け負ったのはいいが完全に自分の考えが足りず、結局結果を残せない悔しさみたいなものも込み上げる。
「ロザリー。お前はお前にできる事をやればいいのだ。今回は私に相談した。それが結果だ。分かったか!」
レヴィアスの叱るような口調にロザリアンヌは驚き一瞬呆気にとられる。しかし激励してくれているのだと十分に伝わってくる。
そして本当にその通りだとロザリアンヌは考えを改める。レヴィアスの言うとおり自分にできる事をするだけだと。
役に立ったとか立たなかったとかそんなちっぽけなプライドなど捨てて、クヨクヨと思い悩む暇があるならもっと他に自分にできる事を考えようと素直に思えた。
「ありがとうレヴィアス。取り敢えず今はこのポーションの完全なる完成を目指すよ」
「ああそうしてくれ」
フッと微笑んだような気がするレヴィアスに、久しぶりにポンポンと頭を叩かれ、ロザリアンヌはさっきまで抱えていたモヤモヤなどすっかり吹き飛ばされていた。
そして新たに気合いを入れ直すと、増毛剤改め植物成長促進剤の錬成に精を出すのだった。




