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書籍化に伴いタイトルを「私は強くてニューゲーム」から『私は強くてニューゲーム~レア素材を求めて仲間たちと最強錬金旅はじめます~』に変更しました。
よろしければ是非お手にとって読んでいただけると幸いです。
気配察知に引っかかる雑魚敵などまったく無視して、忍者のごとく木から木へと飛び移るテンダーの後を追うようにロザリアンヌは木々の間をすり抜け飛んでいた。
しかし突然立ち止まり弓を放つテンダーはきっと何かの魔物を仕留めたのだろう。
「テンダー、マジックポーチ渡しておくよ。魔物のドロップ品は自分でちゃんと回収して」
「拾ってはくれないのですか?」
「自分の事は自分でね」
だいたいここにいる魔物は無視すると決めたはずなのに倒すのなら最後まで自分でやるべきだろう。
最近はキラルだってレヴィアスだってそうしてるし、またその魔物素材を売り払った代金はそれぞれに管理して貰っている。所謂お小遣いみたいなものだ。
「はぁ・・・」
「自分で倒した魔物のドロップ品は自分で管理して。売り払った代金はテンダーのものになるんだから」
「売り払った代金ってなんですか!?」
テンダーはさっきは少し不満そうに溜息をついていたのに途端に顔を綻ばせ質問してきた。
「街に滞在した時に自由に使えるお金の事よ」
「お金って? もしかして噂に聞く人間達が物を手に入れる為に必要とするというあれですか」
「もしかして・・・」
「森では物々交換などが主流でした」
そういえばエルフの森から出てきたテンダーに人間社会の常識を教えた覚えがない。
それに気づけばいつだって何か食べてばかりで、興味津々に辺りをうろついていても他に何かしているところをあまり見かけない。
「じゃああとで街へ行ったら現金を手に入れる方法とか教えるよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
まさかお礼を言われるとは思わなかったロザリアンヌはちょっと戸惑ってしまう。
ドロップ品を買い取ってくれる冒険者ギルドや素材買い取り所など、テンダーには馴染みの無い場所もきっと多いだろう。
何しろフードファイターと化すほどに今まで見た事もない料理を喜んでいたのだ。他にもテンダーの興味を引くものがまだあるかもしれない。
そんなテンダーの様子を見て、早いところすべてのダンジョンの封印を解いて、この大陸にある街を探索したいとロザリアンヌは考え始めていた。
「じゃぁ気になる魔物は好きに狩ったらいいよ。勿論ドロップ品は自分で回収してね」
「ところでこのポーチの使い方を教えてくれません?」
「そういえば教えてなかったね」
「すみません。使っているのは何度も見てるんですけどね・・・」
ロザリアンヌにしたらもうすでに当然の事だったので使い方を教えるなんて意識にもなかった事を反省した。
そうしてロザリアンヌはテンダーにマジックポーチの使い方を教え探索を再開させる。
「あっ、ちょっと待ってください。あそこに変わった魔物がいます」
雑魚敵など無視してさっさと探索しようと決めたはずなのに、テンダーはちょくちょく立ち止まり魔物を倒したがった。
「あっ、あれは多分薬草の一種です!」
薬効のある素材を見つけるとテンダーは採取せずにはいられないようだった。
「えっ、ホント!」
それは当然ロザリアンヌもだった。
『こっちは全然変わったところ無しだよ~』
『私の方も別段何もない。ロザリーは今どの辺にいる』
キラルとレヴィアスからの念話にロザリアンヌは忽ち顔を青くする。
「えっとぉ・・・」
念じるのも忘れしどろもどろになりながら辺りを確認するまでもなく、ロザリアンヌとテンダーはスタート地点から然程離れていないのは明らかだった。
『ロザリー、もしかしてだけど素材採取にでも夢中になってた?』
『そ、そんな事は・・・』
「ロザリー様。どうかしましたか?」
念話の通じないテンダーは様子が変わったロザリアンヌを心配しているようだった。
『仕方ない。キラル、私たちで探索範囲を広げるしかないだろう』
『了解! ロザリーを当てにするなって事だね』
出発前にレヴィアスに釘を刺されていながらその通りになってしまった事が恥ずかしかった。
「だって貴重な素材が沢山あるんだよ、仕方ないじゃん。無視するなんて私にはできないよ!」
突然言い訳のように叫び出すロザリアンヌにテンダーは目を丸くして驚くのだった。




