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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
その街は突然目の前に現れた。
上空には綺麗なオーロラがあり、地上は見渡す限りの雪景色の中巨大な岩山の中に団地を押し込んだ様なそんな印象を受ける街だった。
岩山を削り住居を作ったのだろう事が分かるのは、岩山の断面にいくつかある出入り口だろう扉と明り取りだろう小さな窓が無数にあったからだ。
「どうする、降りてみるか?」
レヴィアスに聞かれロザリアンヌは少しだけ躊躇する。
何だか巨大要塞の様にも見えるその領域に自分から入っていく勇気は正直湧かなかった。
中がどうなっているか興味はあるが、見た目から受ける閉鎖的な雰囲気を打ち消すだけのものを感じられず、歓迎されなかった時のことを考えると怖くもあった。
「行ってみようよ。もしかしたら冒険者ギルドがあるかも知れないよ。いつものように手持ちの素材を売れば歓迎されるかも知れないよ」
キラルは寄ってみたいという意見らしく、ねえねえとロザリアンヌの袖を引いて主張している。
「そうだな何かあれば私が守るから安心しろ」
「そうだよ。最悪ロザリーの転移魔法でサッサっと姿を消せばいいんじゃないの」
レヴィアスもテンダーも魔導艇での移動だけの日々には飽きているのが伺えた。
それはロザリアンヌも同じ思いだったがどうしても決断できずにいた。
「う~ん…。取り敢えずこの近くにあるダンジョンを踏破してからにしない?」
ロザリアンヌは少し考えてからダンジョン攻略の方を優先する事にした。
フードファイターテンダーが仲間になったとはいえ、マジックポーチにはまだまだ食材はある。
なので今のところ無理に街に寄る意味があるとは思えなかった。
それにこんな雪深い街でロザリアンヌが求めるような食材が手に入るとも思えない。
「それでも良いけど、絶対にあの街に寄ってよね。僕あの中がどうなっているのかどうしても知りたいんだ」
「分かったわ、約束する」
「絶対だよ!」
どうしても街に寄りたいというキラルにロザリアンヌは絶対と約束をして、近くにあるだろうダンジョンを探した。
ダンジョンは街から普通に歩いたら多分1時間は掛かるだろう場所にあった。
ロザリアンヌは雪の中を歩いた事が無いので、実際どの位の時間を要するのかは何とも言えないが、ソリやスノーモービルのような移動手段が無ければ何にしても大変だろうと思っていた。
ダンジョン入り口近くに魔導艇を降ろし、ロザリアンヌ達は早速ダンジョンへと入る。
深い雪の中でその場所だけは何故か凍り付き、もしかしたらそこは湖か何かなのかと思わせる。
その凍った湖の中央辺りに巨大な六本の柱に守られ祀られるようにかまくらに似た建物があり、中へ入ると地下へと続く階段があった。
ロザリアンヌは新しい大陸の初めのダンジョンはどんななのかと、ドキドキしながら階段を一歩ずつ慎重に進む。
横幅が3mはあるだろう幅広の階段は何度か折り返すように続き、まるでどこかのビルの階段でも降りているような気分だった。
「どこまで続くんだろうかこの階段」
感覚的にここがビルだったなら既に3,4階は降りただろう感覚にロザリアンヌは思わず呟いていた。
そしてそんな呟きをまるで聞いていたかのように、階段を下り切った所で目の前には巨大な扉があった。
「何だかボス部屋みたいじゃない?」
「そうだな」
ロザリアンヌだけでなくレヴィアスもメイアンのダンジョンを思い出していたのかすぐさま返事が返って来た。
「入口がボス部屋だなんてそれってどういう意味なんだろうね」
キラルは緊張感も無く呑気な疑問を口にしている。
「ボス部屋ってこの先にもしかして強い敵が居るって事ですか?」
テンダーも緊張感を無くすような事を口にする。
「ああそうだ。だから少しは気を引き締めろ」
レヴィアスが突き刺すような冷たい視線を投げかけてもテンダーには効果は無いようで「そうか」と軽く流していた。
「扉を開ける前に結界だけは念のために張っておくわね」
「ああ頼んだ」
レヴィアスはロザリアンヌが新しく作った拳銃型の武器を両手で包む様にして持ち構えた。
魔力を銃弾に変えて撃てるようにした拳銃で、魔力の込め方によってはデバフも付与できる優れ物だ。
その他に拳銃なのに散弾銃のように一度に何発かも撃て、その射程距離はライフルも真っ青なくらいはある。
しかし機関銃のような連射機能を付けられなかったのがロザリアンヌにはとても残念だった。
レヴィアスは弾切れも無く十分に連射も可能だと言ってくれたけれど、その連射速度が大事じゃないという思いは拭いきれなかった。
魔導艇での移動の中で退屈を紛らすために考えた副産物だったが、もう少し時間があったらもっと改良できたかもしれないという思いが強くある。
それでもレヴィアス自身はとても喜んでくれたので、ロザリアンヌはそれだけは満足していた。
「行くわよ!」
ロザリアンヌはみんなに絶対防御の結界を張るとゆっくりと扉を開くのだった。




