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360度水平線、見渡す限り海という風景を眺めながら、ロザリアンヌは操縦室でポーション作りに勤しんでいた。
たまたま大陸が見えない海上を進んでいるのか、それともこの世界は思いの外広く次の大陸まで距離があるのか定かではないがここ何日か海ばかり見ていた。
今はレヴィアスが魔導艇を操縦し、キラルはテンダーに調理の楽しさを教えながらテンダーと試食三昧をしているので、ロザリアンヌは回復魔法の熟練度上げがてらポーションを錬成していた。
しかし島の一つも見えない凪いだ海は緊張感も集中力も気力もなくして行くのか、さっきからなかなか効率が上がらずともすると欠伸が出る事もある。
「ふぁぁ~~。……そろそろ何か見えてもよさそうなのにね」
「そうだな」
ロザリアンヌは大陸の守護者に他の大陸の場所や位置くらい聞いておけば良かったと、今さらながら激しく後悔していた。
「次の大陸へ転移させてくれるくらいのサービスがあっても良いのにね」
「何の話だ?」
「ごめん、何でもない」
ロザリアンヌは次に攻略する大陸は自分で決めたいと息巻いていた筈なのに今はそんな事などすっかり忘れ、とにかくどこでもいいからそろそろどこかへ辿り着いて欲しいと思い始めていた。
「ねえレヴィアス。次に見つけた大陸に上陸しようよ」
「世界地図を作るんじゃなかったのか?」
「世界地図は当然作るよ。でもこういう状況がいつまで続くかと考えるとやっぱりね。ほら…。何というかねぇ……」
「フフ…」
(レヴィアスが笑った!?)
気のせいではなく、レヴィアスは確かにロザリアンヌが見た事のない優しい笑顔を浮かべていた。と、思う…。ほんの一瞬ではあったが……。
(何でだ? 何かレヴィアスのツボに嵌るような事でもあったか?)
ロザリアンヌはツッコんで聞いてもいいのだろうかと考えながら、きっとレヴィアスは「何が」と誤魔化すのだろうと思うとやはり深くは聞く事はできなかった。
しかし懸命にさっきの一瞬を思い出し、ロザリアンヌの記憶のアルバムに丁寧に貼りつけた。
記憶のアルバムは実際に取りだして見る事はできないが、思い浮かべるだけで優しい気持ちになれるので、最近は事あるごとにページを捲っていた。
勿論記憶のアルバムに貼り付けた思い出も結構増えている。
「そう言えばアリオスってどうしてるんだろう?」
一時は仲間として一緒に居た事もあった。
しかし森林の村の再開発は任せてくれと別れ結局それっきりになっていた事をロザリアンヌは今さらながらに思い出していた。
「奴はかの国の王にしたと言わなかったか?」
「ええぇっーーー。聞いてないよ。それよりそんなことして本当に大丈夫なの?」
確かに神輿は軽い方がいいとかいう話はレヴィアスとした事はあるが、まさか本当にそうなるとは思わなかった。
そもそもロザリアンヌはアリオスの事をまったく信用していなかったので、王になったと聞いて心から驚き心配した。
「成果を上げたらロザリーの仲間になるといまだに言っているのでな、面倒だから縛る事にした。大丈夫だ優秀な教育係をつけたしこちらの意のままになるようにしてある。それに奴の面倒そうな家族は皆排除した」
「そ、そうなのかぁ…」
所々で不穏な単語を聞いた気もするが、深くツッコんで聞いてはいけないとロザリアンヌの危険信号が点滅するので耳を塞いだ。
とにかく結局大きな戦争になる事も無く事態が収まったのは確かなのだろうし、要約すればアリオスがロザリアンヌの元に戻る事はないのだろう。
何にしてもこれからも戦争のようなバカげたことが起こる事無く、あの大陸の人々が平和であるならそれで良いと思っていた。
「何か見えて来たな」
レヴィアスの言葉に視線の先を確認すると確かに水平線上に大陸らしきものが見え始めていた。
「何だか大きそうね」
「そうだな。それで上陸するのか。それとも少し上空を飛んで様子を見るのか?」
「やっぱり少し様子を見ようか?」
直ちに上陸してもいい程に退屈はしていたが、実際に大陸を目にすると先に様子を伺いたくなった。
「分かった」
レヴィアスの返事と共に魔導艇はステルス機能を発動させその姿を消した。
ロザリアンヌはその様子を見て、まるで宇宙人襲来のUFOの様だなと思っていた。
「なになに。大陸が見つかったの?」
ステルス機能の発動を感じ取ったのかキラルも操縦室へと飛び込んで来る。
その手にはホットケーキの乗ったお皿とフォークを持ったままだった。
「そうよ。上陸するかどうか様子を見ようと思って」
「じゃぁ、僕も一緒に見てても良い?」
「良いけどそれ食べちゃいなさいよ」
「了解。急いで片付けて来るねー」
一度艇内のキッチンへ戻ったキラルは少しして再度姿を現す。
「テンダーはどうしてるの?」
「全部食べちゃうって頑張ってるよ」
「まったく…。相変わらずね」
作った料理はマジックポーチに仕舞っておけばまたいつでも食べられるのに、すっかりフードファイターと化したテンダーが定着したようだった。
水平線上にはっきりと見える大陸は何だかとても不思議な感じだった。
夜になるにはまだ早い時間の筈なのに上空は段々と色を変え、黄昏時にでもなった様にどんどん暗さを増して行く。
まるで南極の極夜にでも突入するのかと言った雰囲気だ。
「もしかしてとても寒い大陸なのかしら…」
ロザリアンヌはふと想像した南極からの連想でそんな事を呟いていた。
「そんなに寒い大陸だったら人間もあまり居ないかも知れないね」
ロザリアンヌはキラルの言葉にそんな過酷な状況でもきっと生存する人達は居るのだろうと考えていた。
「確認してみれば分かる事だ」
ロザリアンヌ達は漸く見つけた大陸を前に期待と不安の入り混じった感情を抱いたのだった。
次回からは新章で新大陸の話が始まります。
キリが良いので次回の更新は元旦から始めようかと思います。
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
どうぞ皆さま良いお年を!




