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既にクラスの中でカーストができつつあるのか、マウントを取り合う生徒や群れを作ろうとする生徒が見受けられた。
あまり目立たない様にしていたロザリアンヌも何人かに声を掛けられたが、簡単な挨拶だけをしてその場をどうにかしのいでいた。
実際の話、ロザリアンヌは今の所誰かとつるむ気もましてや群れる気もまったく無かった。
何故ならここに居る生徒達とは明らかに目標も目的も異なるロザリアンヌは、学校のましてやクラスというとても狭い世界に今の所まったく興味は無い。
貴族様と知り合いになりたいなどという下心も無ければ、誰かを利用してまでも目立ちたいという気も無く、さして気の合わない人と友達ごっこをする気も無かった。
独りが好きという訳では無いが、ロザリアンヌは【プリンセス・ロザリアンロード】の続編とかパート2なんてストーリーに巻き込まれるのだけは避けたかった。
絶対に無いと言いきれない以上、恋愛関係のイベントには慎重に警戒するべきだと思っていた。
それに事実今年の特待生に聖女候補がいると話題になっているのを聞き、ロザリアンヌは疑心暗鬼に囚われていた。
光の精霊はキラルだけなのに、聖女候補と騒がれるのには理由がある筈。
それが既に何かストーリーが始まっている兆候で、ロザリアンヌはただのモブなら良いが、同じく光属性の魔法を使うと言うだけで万が一にも敵役悪役令嬢ポストにでもされたらたまったものじゃない。
ロザリアンヌはいずれ偉大なる錬金術師になるために魔法学校へは学びに来ているのだ、恋愛にまったく興味が無いとは言わないが、それは今じゃないだろうと思っていた。
ザワザワとした雰囲気をかき消す様に教室の扉が開き、見るからにやる気の無さそうな担任が現れた。
やる気の無い簡単なあいさつの後に早速ステータスを測定する魔道具が運び込まれ、出席番号順に計測が始まった。
長方形の石板に嵌め込まれたガラス板の様な物に手を翳すと、そのガラス板にステータスが浮かび上がる。
その魔道具が置かれた教壇で内容をチェックしてメモを取っている担任と担当者、そして本人にしかそのステータスは見られなかった。
が、その内容は本人や担任のリアクションで何となく分かった。
それに無神経にも本人にどうだったかを聞いたり、本人が自慢気に話したりするのはお約束の様だった。
そうして漸くロザリアンヌの番になり、期待を込めて測定機に手を翳す。
名 前 ロザリアンヌ
ジョブ
レベル 39
体 力 61
魔 力 75
知 性 72
感 性 59
魅 力 41
スキル 鑑定 調合 付与
魔 法 空間魔法 回復魔法 光魔法 火魔法 風魔法 土魔法 水魔法
ゲーム内ですっかり見慣れたステータス画面とまったく一緒だった。
どう考えても乙女ゲームの為のステータスだと理解できるその内容。
探検者としたら知りたいステータスはそこじゃ無いよと思わずツッコミを入れたいところだ。
しかしそんな事より測定結果ははっきり言って微妙すぎて、ロザリアンヌは正直ガッカリだった。
レベルが低いダンジョン塔だったとはいえ2年以上毎日頑張ってこんな程度だったのかと肩を落とし溜息を吐いた。
経験値3倍の指輪をもってしてもこれが限界なのかとすっかりと落ち込んでしまった。
それに何気に魅力が低い事にも少し納得がいかなかった。
魅力を上げる努力をしていなかったと言われればそんな気もするが、他の数値と比べても低いのが気になる。
しかし逆に魅力が高いと、少々ステータスが足りなくても攻略者エンドにこぎつけられるという特典があるので、ストーリーに関わりたくないロザリアンヌにしたら返って有難い事なのかも知れないと思い直す。
ロザリアンヌが結果を見ながら一人悶々としている間、測定結果を見た担任も担当も声も上げずに驚愕していた様で、生徒たちはその様子を見て騒めきだしていた。
固唾を呑んでいた担当者が慌てて測定結果をメモしだすと、担任も一緒にそれをチェックしながらロザリアンヌにジョブをどうするかと聞いて来た。
普通は測定結果から担任と担当者で決める手筈で、大抵は魔術師見習いとなる筈なのに、生徒に直接聞いてくる理由が分からなかった。
しかし自分でジョブを決めても良いというのならばと、ロザリアンヌは迷わずに「錬金術師見習いで」と答えた。
測定を始める前はやる気の無さそうだった担任が、何故か前のめりに他に聞きたい事がありそうに口をパクパクさせていた。
しかし時と場所を考えたのか「話があるから残れ」と小声で言って次の生徒を呼んだ。
ロザリアンヌはそれに倣い大人しく席に戻ると、いったいどんな話をされるのか少々気を重くしていた。
ロザリアンヌの事を探る様にヒソヒソする生徒を無視して全員の測定が終わるのを待ち、解散の挨拶後に急いで担任の元へと走った。
「何かご用ですか」
一刻も早く話を済ませたかったロザリアンヌだったが、担任はまだ遠巻きに話を聞きたがる生徒を避けて、ロザリアンヌを教室から外へと連れ出した。
「レベルが高いのにも驚いたが、スキルと覚えている魔法の多さにはさらに驚いた。いったい今まで何をしていたのか教えて貰っても良いか?」
担任に尋ねられたロザリアンヌはある程度正直に話した。
「10歳になってからずっとダンジョンに通い、祖母の錬金術を手伝っていました。魔法は魔導書店で手に入れた物です」
調合と付与のスキルに関しては錬金術の修行をしていた事で手に入れた、鑑定はダンジョンの隠し宝箱から手に入れたとは言えなかったので、敢えてスキルに関してはスルーして話した。
ロザリアンヌの説明に納得したのか、担任は黙って頷く様にしていたのを見て、重くなっていた気分を晴らそうとゆっくりと息を吐きだした。
そしてそう言えばと思い出し「中級ダンジョン攻略の許可を頂きたいのですが」と申し入れた。
「初級ダンジョンの攻略は済んでいると言う事か?」
「はい、すべて済ませてあります」
ロザリアンヌの返事に当然かとでもいう様に頷くと「申請はしておく」とだけ返事をして担任は去って行った。
取り敢えずたいした用事でもなく、大事になりそうも無かった事にロザリアンヌは胸を撫で下ろし、申請が通れば中級ダンジョンに入れるのだと気分を上向き修正した。
中級ダンジョンに入れる様になればレベルだって当然もっと上がる筈。
少なくとも他の生徒たちはレベル1からのスタートだ。
それを考えれば少々微妙なレベルだったとは言え、十分スタートダッシュはできた筈だとロザリアンヌは自分を納得させていた。




