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「ジュリオ様がコーヒー農園を作るって聞いた時から何となく考えてたの、お酒も同じ様に作れないかなって。果物やお芋で作るお酒も結構美味しいからアリかなって」
「果物で作った酒なら飲んだことあるぞ。確か少し甘かった覚えがあるな」
リュージンは甘いお酒は好みではないのか、少しだけ顔を顰めた。
「そんなに甘くない酒精の高い物も作れるのよ。僻地の村なんかに果物やお芋を結構普及させたから、そろそろお酒作りに手を出しても良いかなって思ってたの」
ロザリアンヌは気まぐれとは言え、過疎化の進む村を見つけてはその土地に合った果物や農作物を提供していた。
それが名産となれば良いとか、それを使って何か美味しい物を作ってくれないかなど、ちょっとの期待を持っての普及活動のつもりだった。
しかしジュリオがスラムの人々の雇用の為にコーヒー農園を作ると聞いて、僻地の村でいつかできるのを期待して待つより自分で始めるのも良いかもとふんわりと考えていた。
自分で始めるとなると管理やら何やらロザリアンヌが携わっている暇がないのは確かだが、少なくともリュージンがお得意様になってくれるなら、お酒が売れなくて困るという事も無いだろうし、美味しいお酒を作れる環境と人員さえ揃えば後は丸投げできるだろうと今は思っていた。
「その美味しい酒とやらはロザリーが作るのか?」
「私はお酒を造る環境を整えるだけよ。後の事は他の人に任せようと思ってるわ」
「他の人っていったい誰に?」
「まぁそこが一番の問題なんだけどね…。候補は一応考えているんだけど、相手の返事を聞いてみない事には何とも言えないから、今はダンジョンを先に攻略させてくれないかな」
「ダンジョンの攻略が終わったらやってくれるんだな?ならばそれまで儂もまた協力するぞ!」
「ええ、お願いします」
ロザリアンヌは早く早くと急かすリュージンと共にまずは島にあるというダンジョンへと向かった。
三日月の様な形の大きな入り江の中に大小さまざまな起伏があり、その一つが島になっていて人の気配の無い鳥の楽園の様な場所で、他にも小動物は居るのだろうが、とにかく彩とりどり様々な鳥がやたらと目につく木も多い島だった。
ダンジョンの入り口はその島のほぼ中央に位置し、中型バス程もある大岩が三つ鳥居の様に重なった隙間にあった。
どこからこの大岩をとか、誰がどうやって積んだのかとか、そんな疑問を持ってしまう光景だった。
中に入るとそのまま入り江フィールドで、砂浜も多く魔物は海の生物が殆どだった。
とにかく足場が悪いのが難点なだけで、然程強い魔物もおらず飛んで移動できるロザリアンヌ達は何の問題も無くサクサクと進む事ができた。
しかし人間に変化したリュージンとドラゴは飛べないので移動にも体力を使うらしく、浅瀬に居るナマコやクラゲの様な形のスライムにとても苦戦していた。
小さいが集団で身体中に纏わりつき絡んで来るのがとても厄介らしい。
一匹一匹はたいした強さでも無くダメージも殆ど無いという話だが、とにかく見た目がグロかった。
「構わずに先に行ってくれ、儂らは修行のつもりで励ませて貰う」
「分かったわ。じゃあ後で合流しましょう」
リュージンと一緒に攻略するつもりだったが、何階層も進まないうちに早々と別行動を取る事になった。
階層が進むごとに海の面積がどんどん広くなって行き、下の階層に進む階段も海辺ではなく海上にある島に出る様になった。
フィールドが変化してもあまり変わって見えないのは良いが、確実に島の場所が移動するので、やはり魔物を倒す苦労より下の階層へと進む階段を見つける方が大変だった。
そして最深階層へと到着すると、水平線からとても沢山の何かが一斉にこちらに向かってやって来る。
良く見るとトビウオの様な魚の軍団が水面を飛んで来る。
トビウオ軍団の奥には一瞬島に見えた何かが動いていて、島の下から顔を伸ばした姿でそれがとてつもなく大きなカメだと分かった。
ロザリアンヌはトビウオ軍団はキラル達に任せ、カメを引き受ける事にした。
多分甲羅は物理耐性も魔法耐性も高いとふんで、ロザリアンヌはトルネードと重力魔法を使いカメを浮かせ浅瀬へと運びひっくり返す。
そしてジタバタするその手足と首に向かいシャイニングレインを打ち込むべく発動させる。
最近さらに威力を増し少し太くなった光の槍が上空から急加速しながら降り注ぎ、ドスドスドスドスドスと重低音を響かせ一斉にカメに突き刺さる。
もしかしたらあの甲羅も破れたかも知れない威力を受け、カメは呆気なく光の粒へと姿を変えた。
「ふぅ~~~」
やっぱり初対戦のボスは緊張すると思いながら、ロザリアンヌはおもいっきり息を吐き出していた。
その後ロザリアンヌはまたまた魔法熟練度を上げるべく、トビウオ軍団の討伐に参加し地道にコツコツ倒して行く。
そしてドロップ品を回収し採取できる素材を探すと、海産物の宝庫だった。
ワカメに昆布に寒天だけでなく青のりやのげのり等の海苔も数種類見つかり、ロザリアンヌはこの大陸では手に入りづらい海産物にホクホクだった。
その後ダンジョンコアの部屋へと移動し、設定を変え宝箱を回収しリュージンの元へと転移する。
宝箱は一つしかなく、中身はやたらと丈夫そうな釣り竿と釣り糸だったが、ロザリアンヌに必要な物とは思えずあまり良く確認せずにマジックポケットに入れた。
「お待たせ~」
「おお、思ったより早かったな」
リュージンとドラゴは今度は砂浜に潜る貝の魔物を相手にしていた。
自然界では想像もできない大きな貝で、見た感じ小型冷蔵庫を横に置いた様な感じだった。
「コイツがなかなかに美味いぞー」
見るとリュージンもドラゴも貝の魔物がドロップした物をその場で食べだした。
「そんなに美味しいの~」
「生で食べても平気なのですか?」
「それは試してみないとね」
キラルもジュードもそしてロザリアンヌも、競う様にして貝の魔物を探した。
つぶ貝の様な巻貝に蛤の様な二枚貝と、まんまホタテの様な貝の三種類が居たので、海鮮好きのロザリアンヌは夢中になって倒しまくった。
つぶ貝はゆでてお刺身でも良いけどタレを着けて焼いても良いわね。
蛤はさっき採取した海産物もあるし、お吸い物にしても炊き込みご飯でも良いかしら?
ホタテはやっぱりお刺身とバター焼きかな。でも海苔を巻いて天ぷらってのも良いかも!
ロザリアンヌは食べる事を想像しながら幸せ気分を満喫していた。
そして貝の魔物討伐の為だけに何階層か潜り、十分な数を確保した頃にはリュージンもドラゴもお腹をパンパンにしていた。
「もう食えん」というリュージンとドラゴを放って、ロザリアンヌ達はダンジョン内で採取した海産物と貝を使った料理を堪能したのだった。




