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魔法学校入学日当日、朝早くからロザリアンヌはドキドキが止まらなかった。
いざ入学が決まり準備が始まるとゲーム内では描かれていなかったあれやこれやが気になったり、この世界での学校生活はどんなものなのかが楽しみになっていた。
そして何より制服が可愛くて、これを毎日着られるのかと思うとそれだけでワクワクが止まらなかった。
前世での私は小中高と制服にまったく縁が無く、ドラマやアニメで見る制服にどれだけ憧れたか分からない。
私にもファッションに自由をという勇気があったなら、コスプレをして街中を平然と歩いただろうが、とても一人でそれをするだけの情熱は無かった。
コスプレをして街を歩くより家で手芸三昧、寧ろコスプレ服を作る方に情熱を燃やすタイプだった。
それに前世の制服の定番といえばセーラー服やブレザー型だったが、この魔法学校の制服は基本は白いブラウスとブラウンの膝上丈のスカートまたはスラックスで、上にパーカー丈のローブを羽織る。
男女関係なくスカートかスラックスを選べ、勿論ロザリアンヌはスカートを選んだ。
ローブの色はミルクティーの様な薄いブラウン系で、ふちを飾るレースの色で学年が分かる様になっていて、1年生のロザリアンヌはオレンジだった。
ロザリアンヌは制服に着替えると、姿見の前で何度も何度も自分の姿をチェックしてはニヤニヤが止まらなかった。
「凄く似合っているわよ」
「やっぱりそう思うよね~」
キラルはもう何度目か分からない社交辞令を言ってくれていたが、ロザリアンヌはその度にそのお世辞を有難く受け取って喜んでいた。
「他の準備はできているの?」
「もちろんバッチリよ」
準備と言っても入学金は既に納めているし、やる事と言えば入学式後にクラス分けされステータスを測られて終わりだ。
なので今日は様子見の一日で、本番は明日からというところだろう。
ステータスを詳しく測る魔道具はダンジョン課にもあったが、測定にはそこそこの利用料を取られるのでロザリアンヌは使った事は無かった。
しかしこの魔法学校に騎士学校はその魔道具を惜しげもなくタダで使えた。
ただしその内容は個人情報なので、建前上は他人に知られる事は無い事になっていた。
あくまでも自分のステータスを知る事で向上心を持たせるのを目的とされ、いつでも自由にステータスチェックはできた。
学校側としてはステータスではなく成績重視というスタンスだった。
万が一地位の高い貴族の子女より平民の方がステータスが高いなどと言う事があった場合、身分は関係ないとしながらも生徒間で揉める事が多かった。
学校側としてはそんな面倒な問題が起こる事を事前に防ぐ為にステータスの公開は避けた様だった。
とは言っても、本人がどれだけ成長したかを知る為には成績だけでは測れない場合も多いので、一年に一度の測定結果は学校側にも保管された。
今日はそのステータスを測られる第一回目と言う事だ。
ゲーム内ではこんな魔道具を使うまでも無く、いつでもステータス画面を開けばチェックできた。
現実となった今ではそう簡単にチェックできなかったので、何気にこのステータスチェックが楽しみなロザリアンヌだった。
錬金術師を目指しダンジョンに通い始めて2年以上経ち、自分がどれだけレベルアップしステータスが上がっているか、はっきりと数値で知れるのは結果をしっかりと見られる様でやはり嬉しい。
時計を見るとまだ時間にはだいぶ早かったが遅刻するよりは良いだろう。
通学には徒歩で片道30分はかかる道のりだ。途中で何かがあっては困るとロザリアンヌは早めに家を出た。
学校へ着くと同じ様に考えた生徒達が居たのか、既に門の前には魔導車の列ができていた。
そして門を潜るとロザリアンヌ同様徒歩での通いの生徒の姿も何人か見掛けられた。
地方からの生徒や特待生の為の寮からもチラホラと生徒が姿を現していて、今年の入学者はいったい何人居るのかと興味を持ちながら受付を済ませた。
そして入学式が終わり、ABC3つのクラスのCクラスに決まっていたロザリアンヌは誰に話しかけられる事も無く教室へと向かう。
比較的早めに教室に入ったロザリアンヌは、教室の通路側の壁際中央付近に陣取り辺りの様子を窺った。
思っていた以上に平民からの生徒も多く、今年は特待生が5人もいると話題になっていた。
国が新たに入学金を貸し出したり、特待生の基準もかなり緩くなったらしい。
とても興味深い話に聞き耳を立てていると、王太子がもっと才能のある子を多く見出すべきだと舵を取り張り切っていると聞いて少し驚いた。
(あの王子ってそんなにやる気のある奴だったか?)
ゲームの中ではその見た目と血筋だけが取り柄の薄ぼんやりしたヤツだと思っていたけれど、大人になったヤツは何かやる気スイッチでも入ったのだろうかとロザリアンヌは首を傾げていた。
もっともその特待生もここに居るみんなも、全員が本科に上がれるとは限らない。
事実今は3クラスあるが、本科に行くと2クラスに減ってしまう。
授業に付いて行けなくなるのか、人間関係に疲れるのかは分からない。
少なくともロザリアンヌはソフィアから貰った折角の学ぶ機会だと思っていた。
これから錬金術の為ソフィアの思いを背負い精一杯学業を頑張ると、熱い気持ちをひた隠しただひっそりと静かにしていた。




